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わたしは愛される実験をはじめた。第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」

  • 2019.12.20

【読むだけでモテる恋愛小説32話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

■第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」

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虎を狩るか、魚を狩るか。

もちろん恋愛の話だ。男性の話だ。私たちが取るべき道はふたつ。恋愛市場での価値が高くモテる〝タイガー〟をがんばって狙うか、価値が低くモテない〝フィッシュ〟をさくっと狙うか。

「女の恋愛は、この二つのパターンしかありえない」

「それって」私たちは京都の午後の空のもと、のどかな鴨川の河川敷にむかっていた。「男性がこの二種類しかいないからってことですよね?」

「原則としてね」ベニコさんはうなずいた。ワンカールしたボブ。ばっちり濃いアイメイク。ぽっちゃり体型ながら、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンみたいな雰囲気だった。「これが〝タイガー&フィッシュ理論〟よ」

「虎と——魚」私はいった。「肉食系と草食系みたいな感じですか?」

「それは〝異性にアタックできるかどうか〟でしょう——行動をみてる。こっちは〝そもそもの生物としてのランク〟を分類してるの。自分から攻めないのにモテる男や、攻めてるのにモテない男もいるわ。似てるけれど混同はだめよ」

「なるほど。なんか深いですね」

「タイガー&フィッシュ」ベニコさんはうなずいた。「虎と魚のどちらを狙っても正解よ。ただ大事なのは〝自分がどちらに挑戦しているのか?〟を理解すること」

「理解することですか?」

「口説くための作戦や心がまえが変わるから。それに——」ベニコさんはいった。そのあと私の胸もとをひとさし指でとんと押した。「人間の失敗は、自分がなにをしているか理解していないときにおとずれるものよ」

目の前の鴨川をながめながら、その胸の感触を受けとめた。

いままでの恋愛を考えてみた。まさに、なにも考えず〝好き〟という感情だけでのめりこんでいた気がする。返信にこまるような長文LINEを送ったり、まわりに迷惑をかけるタイミングで話しかけたり、こういう人間にちがいないと妄想で盛りあがったり。心がいうことを聞かない。なんとか追いかけたいという気持ちだった。

そんなときの恋愛にかぎって、大抵、上手くいかなかった。冷静に考えてみなよ、と友達にアドバイスされても無視するだけ。そして撃沈をくりかえした。

あのときの私は——自分がなにをしているかを理解していたのだろうか?

そんなことを思いだすと、顔が熱くなって、めっちゃ恥ずかしくなった。いますぐ目の前の鴨川に飛びこみたくなった。そしてエラ呼吸にめざめて二度と上陸したくなかった。

「なんていうか」私は変な表情のまま胸を手でおさえてドキドキした。「ちゃんと考えて行動しないとダメなんですね。何度もいわれてきたことかもしれないけど。失敗を重ねて、この歳になって、ようやくしっくりきました」

「パンケーキ女にしては謙虚なのね」ベニコさんはいった。「悪くないわ」

「パンケーキ女が謙虚でもいいでしょう?」私は唇をとがらせた。数秒後、首をかしげて、あれ、なにかおかしいなと気づいた。「てか、パンケーキ女でもないですから」

「とはいえ」ベニコさんは私の抗議を無視した。「この〝タイガー&フィッシュ理論〟の話をしたときにフィッシュを狙うことに恐れをしめさなかったのはえらいわ」

私はなじられたあと急にほめられて反応にこまった。「どういうことです?」

「あなたはモテそうにない男であるフィッシュの話をしたときに〝好きになれなさそう〟とはいったけれど〝そもそも口説けると思えない〟とはいわなかった」

「あ、それはそうかも」

「気づいてる?」ベニコさんは笑った。「逆にいえば、あなたに自信がついてきた証拠でもあるのよ。この愛される実験をとおして、少しはコツをつかんできたってことかしらね」

その言葉にびくっとなった。私に自信? それって——あの自信? そんなの自分とは遠い世界の言葉のはずだったのに。あの合コンでは限りなく透明に近い存在感で夜にイチかバチか絵文字ばかりのキモい長文LINEを男性に送りつけて玉砕ばかりしてた私が?

でも、いわれてみるとベニコさんに教わった恋愛認知学をとおして、さくさく男性とLINEできるようになってるし、なんなら昨晩はデートに誘われた。もしや。たしかに。この私にも自信がついてきたってことなのかな? そう考えると、めっちゃテンションあがった。さっき精神的に飛びこんだ鴨川から上陸して肺呼吸にもどってもいい気分になった。

「なんか自信がないなあって、いつも思ってたんです」私はいった。「恋愛もですけど。自分は全然だめな人間の気がして。まわりと比べて、やりたいこともできないし、なにも達成できる気がしなくて。つまらない人間というか。どうやったら自信がつくのかなって悩んでました」

「あなたは人生を変えつつあるわ。それは喜んでいいことよ」

「ほんとに信じていいんですよね?」

「人は褒められて伸びるもの」ベニコさんはいった。「自分だって例外ではないから——なにができていないか嘆く前に、なにができているか認めてあげるのも大事よ」

その言葉は、のどかな鴨川の景色とあいまって、とても神聖なものに感じられた。午後の光にきらめく風が髪をゆらした。私には、すでに達成できていることがあるんだ。ほめてあげてもいいんだ。その発見は——あたりまえのひともいるかもだけど——すごく新鮮だった。

「なぜ自信がつきはじめたか教えてあげましょうか?」

「知りたいです」私はうなずいた。「正直、まだピンときてなくて」

「これは、こわれやすい偽物の自信と、こわれない本物の自信をみわけるコツでもあるわ」

「なんです?」

「その理由はたったひとつ——あなたが行動したから」ベニコさんはいった。「それしかないわ。どんな言葉をはいてもむなしいだけ。結局〝このために悩んで行動した〟といえることでしか自信はつかない。あなたは愛される女になるため実験をかさねた。それで傷つくこともあった。得るものもあった。その一つひとつが、あなたの身になっているのよ」

私は返事にこまった。顔をニヤニヤさせて、とにかく、くすぐったい気持だった。それでも、ありきたりでも、できる限りの言葉は口にすべきだと思った。「ありがとうございます」

「こんな話するつもりではなかったけれど——たまには脱線もいいわね」ベニコさんは照れたように視線をそらした。髪をかきあげた。「まあ、フィッシュといえども男に恐れを抱かなくなったのは、すばらしいことよ。ここで本題にもどるわ。あなたは女として二種類の男からターゲットを選ばなくてはならない」

「タイガーとフィッシュですね?」

ベニコさんはうなずいた。

「悩ましいですね」私は眉をよせて腕をくんだ。「普通に考えたら、モテそうなタイガーの方が、イケメンで、いい男ってことですもんね。ほかの女子も集まるくらいだし。もし付き合えたら人生楽しくなりそう。でも、そのぶん浮気されるかもしれなくて——でも、それならモテないフィッシュは浮気しないんですよね? 大事にしてくれるのは嬉しいかも。それはデカイ。とかいってるけど、いざ目の前にすると微妙だなってなるんだろうなとも思っちゃう」

「わかれ道の前で、行先を、決めあぐねている旅人のようね」

「そりゃそうですよ。男性を二種類にわけるなんて考えたこともなかったですから」

「迷子という名のパンケーキ」

「ミホです」

「パンケーキちゃん。なぜ、いま、あなたは迷っているのかわかる?」

私は首をひねった。「決断力がないからですか?」

「ふたつを天秤にかけると価値が同程度になるからよ」ベニコさんは両手をひろげた。「ともに長所と短所がある。だからこそ決め手に欠けるともいえるわ」

「そりゃそうですね」

「エクセレント」ベニコさんはにやりと笑って、その両手をにぎりしめた。「ここからよ。この恋愛認知学〝タイガー&フィッシュ理論〟には隠された最適解が存在するの。ここから一気に、迷える旅人に、現代の女がとるべき、もっともスマートな恋愛戦略をおしえてあげるわ」

■今日の恋愛認知学メモ

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・【タイガー&フィッシュ理論】男性を〝価値が高いけど口説きにくいタイガー〟と〝価値が低いけど口説きやすいフィッシュ〟にわけて考える。どちらを攻めるか冷静に考えること。

・自信は言葉でなく行動をかさねることで身につく。

・なにができていないか嘆く前に、なにができているか認めてあげるのも大事。

・現代の女がとるべき、もっともスマートな戦略って——めっちゃ気になるんですけど?

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない?」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」
第52話「デートの約束は日にちまで決めてしまうこと」
第53話「最短でモテる男とのデートの日程を決めるには?」
番外編「モテる女は付き合う前にクリスマスプレゼントをわたすのか?」

■祝! 『わた愛』小説化・漫画化が決定

2018年10月16日公開
2019年12月19日更新

浅田悠介さんの連載『わたしは愛される実験をはじめた。』の小説化・漫画化が決定しました。
作品化を盛り上げていくべく、バックナンバーを1日2話、12時15分、22時に1話ずつ『DRESS』トップページに再掲します。

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