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わたしは愛される実験をはじめた。第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」

  • 2019.12.19
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【読むだけでモテる恋愛小説30話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

■第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」

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ほとんどのパンケーキ女が信じようとしない真実って?

「教えてください」私はごくりとつばを飲んだ。「その真実ってなんですか?」

「そのときがきたようね——話を整理しましょう」

鴨川の河川敷で、ベニコさんは紙コップに紅い唇をつけた。ワンカールしたボブ。ばっちり濃いアイメイク。ぼっちゃり体型ながら、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンみたいな雰囲気だった。「とにかく私たちは〝モテそうな男〟に弱い生物よ。それはルックスや職業とは関係ない。お金持ちなのにモテない男もいれば、貧乏だけどモテる男もいる——ようするにモテるオスの匂いを放っているかどうかなの」

「女の本能が〝モテる遺伝子〟を求めるようにプログラムされているから——でしたよね?」

「イエス」

「よし」私はうなずいた。「なんとなく理解できてるつもりです」

「そんな男のことを恋愛認知学では〝タイガー〟と呼ぶ」

「はい? タイガーですか?」

「そう」ベニコさんは右手の指先をまげた。川辺のひざしに紅いネイルを光らせて、猛獣の爪や牙みたいだった。「生まれたときからモテる人生を歩んできたオスの虎」

「なんか生々しいですね」

「現実ってそういうものよ」ベニコさんはいった。「パンケーキの話でもした方がよかった?」

「パンケーキ女は卒業するんです」私は唇をとがらせた。いままでなら、このまま考えもなしにタイガーにつっこんで撃沈していただろうなと思った。「そのタイガーが強敵ってわけですよね?」

「そうね」ベニコさんは眉をよせた。「女の運命にとって、まずもって天敵はタイガー。どんな場所にいっても〝モテそうな男〟はあらわれる——いままでもそうだったでしょ? そのつど、あなたの本能は無視できなかったはずよ」

「それはもう痛感してます」学校の教室でも、大学のサークルでも、街のなかでも、合コンでも、そのつど惚れてきたパンケーキ女だった。

「つまり女が幸せを追求するとは〝タイガーをいかにさばくか?〟を考えるということなの。人生で虎の前をさけてとおることができない以上、それは絶対のルールよ」

「さばくってどういうことです?」

「いい?」ベニコさんはひとさし指をたてた。「たしかにタイガーと恋人になれたら女としては幸福でしょうね。いっしょにいるだけでドキドキするし、友だちに紹介しても羨ましがられる。優秀なオスを手にいれるのは、ひとつのメスの理想といえるわ」

「最高じゃないですか」つい結婚式場のバージンロードにて、超絶イケメンに腕をとられて歩く自分の姿をイメージして、よだれが2.5リットルくらいでそうになった。

「だから、あんたはパンケーキ女なのよ」ベニコさんはぴしゃりといった。

「ひさしぶりにいわれた」

「手にできる人間がいるということは、手にできない人間がいるということよ。タイガーの足もとをごらんなさい。前にも後ろにも、その他大勢の、なにがいいたいのかもよくわからない中途半端なアプローチをしたあげく、貴重な人生の時間を費やして相手にもされずにおわったアホなパンケーキ女の頭蓋骨ばっかりころがってるわ」

言葉のマシンガンを撃ちこまれて足もとがふらついた。確かに、つい自分と男性だけの問題として考えがちだけど、その影には無数の女がいるはず——ほとんど玉砕。そういう無慈悲な世界なのかと考えるとぶるっとした。「虎というか悪魔じゃないですか」

「少なくとも、女も天使じゃいられないわね」

「こわい」

「丸腰でつっこんだらそうなるってだけよ」

「それがタイガーを狙うときの真実なんですね?」

「ノン」ベニコさんは首をふった。「こんなの状況を整理しただけよ。本当の真実はここから——それともここで逃げる?」

ベニコさんの目力は強かった。私たちはにらみあった。昼下がりの京都に吹く風がたがいの髪をゆらした。

「いえ、私だって愛される実験をしてるんです。とっくにその覚悟はできてますから」

「いい表情ね」

「え、ほんとですか?」私はへらっとした。「なんかドラマの主人公みたいでした?」

「あ、一気にダメになった」

「ひどい」

ベニコさんは笑ったあと、ふっと真剣な表情にもどった。

「タイガーを手にいれるのは、なぜ難しいのかしら?」

「モテるからですよね?」私は姿勢をただした。「競争率が高いから——」

「ちがうわ」

「違うんですか?」

「そもそもタイガーには——」ベニコさんは顔をあげた。その表情は悲しげにみえた。「ひとりの女におちつくという発想がないのよ」

数秒、私はかたまった。言葉の意味がわからなかった。「はい?」

「タイガーの身になって考えましょうか」ベニコさんはいった。「確かに、遺伝子をのこすのが生物としての目的なのは変わらない。でも、彼らにとって女は一生懸命口説くものではないの。なにも知らない子鹿みたいに、むこうから飛びこんでくるものなのよ。簡単に爪や牙をふるいかざすだけでいい——まさに〝女にこまらない人生〟ってわけ。だから、そもそも恋人をつくる理由がないのよ。遺伝子をばらまくのがオスの本能だから。タイガーにとっては、特定の女をつくらずに大勢と交流するほうが正しいプレイスタイルになる」

「ちょ、ちょっとまってください」私は手のなかの紙コップをにぎった。

「サバンナの虎は一夫多妻制よ」

「それって、もしかして——」

「あえていうわ」ベニコさんは声を強めた。「タイガーは浮気をする」

「え、これ、なにかの例え話ですよね?」

「女でも浮気してる子はいるでしょう?」ベニコさんはいった。「なにが不思議なの?」

「そりゃ浮気された友だちも浮気した友だちの話もきいたことありますけど。あくまで特殊なケースというか。ルール違反だし。そんな頻繁にあることじゃないでしょう?」

「どうして?」

「えっと」私はとまどった。目を周囲に泳がせた。「証拠があるとかじゃないですけど——」

頭に氷の塊でもぶつけられた気分だった。男は浮気をする生物よ——なんてテレビのなかの芸能人がいうような台詞のはずだった。なんとなく知ってたけど、遠い世界のことだというか。自分と関係ない大人の世界というか。

私は弱い声をだした。「でも、そんなの、ごく一部の男性ですよね?」

「いえ人類全体の問題よ」ベニコさんは二本指を立てた。「世の中には二種類の男がいる。浮気できる男と——できない男」

「それって、どの男性にも浮気願望があるみたいじゃないですか」

「あくまで遺伝子をのこすことだけを目的にすればね」

「でも純愛派の男性もいますよね?」

「それも恋愛認知学では〝浮気できない男〟にカテゴライズする。男の本能は遺伝子をばらまくことを望むけれど、それが叶わない状態におちこんでいるという意味だから」

「ちょっと」私は鼻にしわをよせた。「あまりにも女性を馬鹿にしてません?」

「あら」ベニコさんはいった。「真実を語るのは馬鹿にしてることになるのかしら?」

「そんな——」

「愛される女たるもの感情的なときこそクールなふりをしなさい」ベニコさんはきっぱりといった。「相手がなにを言ったかでなく、なにを言おうとしたかを考えるの」

私はまばたきした。「なにを言おうとしたかですか?」

「ドライなのは理解してるわ」そのとき、ベニコさんの手のなかの紙コップもつぶれているのがみえた。それでベニコさんも感情をおさえているのだとわかった。「でも、実際に浮気する男はあとを絶たないでしょう? それどころか私たちにみえているよりもっと多いはずよ。なのに〝男は浮気しない。信じれば裏切られない。私のまわりは大丈夫〟なんて、実に、おかしな考えかただとおもう——安心できるのかもしれないけれど。だからこそ〝すべての男に浮気願望がある。生物学的にそういうもの。男は、浮気できる男と浮気できない男にわかれる〟と考えておく必要があるの」

「わざとネガティブにってことですか?」

「シビアにってこと」ベニコさんは首をふった。「どちらの方が幸せをつかめると思う?」

「それは——」私はいいよどんだ。

鴨川の対岸をながめるとカップルがぽつぽつ等間隔にこしかけていた。カモップルだ。雲は少なく、のどかな午後だった。私は抹茶ラテに口をつけた。

「以前、あの橋の上で」ふと笑顔のあと、ベニコさんは四条大橋に顔をむけた。「愛される実験を続けることで、さらに苦い真実を知ることになるといったのはおぼえてる?」

「ちょっと待ってください」私は数秒かけて思いだした。「だからと逃げて許されることにならない。むしろ受け入れることのできた女だけが愛される女になる——でしたっけ?」

ベニコさんはおどろいたように目をひらいた。そして、にやりと笑った。

「現実に立ちむかう術を教えるわ」ベニコさんはいった。「女には、タイガーという強敵を目の前にして、ふたつの道が許されているの——どちらをえらんでも正解よ。そんな選択肢の存在すら知らずに、さまよってる女たちばかりだけれど。そのナビゲートをしてあげる」

■今日の恋愛認知学メモ

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・【タイガー】女の本能が求めてしまうモテそうな男性のこと。

・タイガーはひとりの女におちつくという発想がない。

・男性は、浮気できる男と浮気できない男にわかれる。あくまで生物として考えると。

・女に許されたふたつの道——それって?

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない?」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」
第52話「デートの約束は日にちまで決めてしまうこと」
第53話「最短でモテる男とのデートの日程を決めるには?」
番外編「モテる女は付き合う前にクリスマスプレゼントをわたすのか?」

■祝! 『わた愛』小説化・漫画化が決定

2018年10月2日公開
2019年12月18日更新

浅田悠介さんの連載『わたしは愛される実験をはじめた。』の小説化・漫画化が決定しました。
作品化を盛り上げていくべく、バックナンバーを1日2話、12時15分、22時に1話ずつ『DRESS』トップページに再掲します。

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