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第14話:一寸先はLA / タカシくんとタカシとマダムの話 連載【誰かの話】

  • 2019.12.13
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第14話:一寸先はLA / タカシくんとタカシとマダムの話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

外山夏緒さんの物語の連載【誰かの話】14話めは、「タカシくんの不思議な体験」のお話です。

 

 

14. 一寸先はLA

 

タカシくんが街を歩いていると、

知らないマダムに声をかけられた。

 

第14話:一寸先はLA / タカシくんとタカシとマダムの話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

 

「あらタカシ」

「いつ帰ってきたの?」

「ロサンゼルスにいるんじゃなかったの?」

「野球の調子はどう?」

「そういえば王子の案内はどうだった?」

「タカシは来年からどうするの?」

「連絡くらいしなさいよ」

「彼女とはどうなったの?」

「もう危ないことしちゃダメよ」

「向こうの冬はどんな感じ?」

「英語は上手くなった?」

「捕まる前に辞めなさい」

「そうそう、この辺にも素敵なワインバーができたのよ」

「タカシなら何処に行っても引っ張りだこね」

 

そう畳み掛けてくるマダムをタカシくんは知らない。

しかし、マダムはタカシくんを知っている。

 

「タカシ、少し背が縮んだかしら?」

 

されど、どこをどう思い出しても

平々凡々にこっちで大学生をしているタカシくんは、

ロサンゼルスというイケてる国のことなんて、おおよそ記憶がない。

 

タカシくんは海外にも行ったことはないし、

野球なんてできないし、お酒も苦手だし、

やんちゃなこともできないし、引っ張りだこなんて器じゃないし、

英語も話せないし、もちろん彼女なんかいない。

さらっと聞かれた「王子の案内」なんてファンタジーである。

 

「ちょっと、寝癖くらい直しなさいよ」

 

もしかしたら、自分は、

何かしらの事故に遭い記憶喪失になってるだけで、

本当の自分は祖国を飛び出し、

辿り着いたロサンゼルスという場所で

誰かしらに何がしかで引っ張りだこになってるのだろうか。

 

「年末には向こうに戻るんでしょ?」

「戻る時に私も一緒について行っていいかしら?」

 

やはりタカシくんはマダムの知っている「タカシ」ではない。

しかしタカシくんにとっては憧れの塊の人生を送っていそうな「タカシ」。

そんな「タカシ」が、この世界に存在するものなのだろうか。

タカシくんは諦めていた。

「タカシ」なんて平凡な名前だから、人生平々凡々なのだ。

 

「飛行機代は出すから」

 

その言葉に、

平々凡々にこっちで大学生をしているタカシくんは、

生まれて初めて起こった不思議な出来事に、

生まれて初めて心の底から勇気を絞り出して、

その話に乗っかることにした。

 

二週間後、タカシくんは

生まれて初めてロサンゼルスに行く。

 

帰り道に本屋で地球の歩き方を購入した。

 

 

第14話:一寸先はLA / タカシくんとタカシとマダムの話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

 

 

絵をはじめ、詩や物語の制作、それらで展開したインスタレーションを行うなど、多岐にわたって活動をしている、gungulparmanの外山夏緒さん。この連載は、彼女が自身のWEBで発表していた「誰かの話」を「ラジオと火星人とコーヒーフロート篇」として、新たにグラフィック作品を加えてお届けしていきます。この世界のどこかにいるかもしれない「誰か」の日常を切り取ったお話を、お楽しみください!

 

Text & Illust_Toyama Natsuo

 

第14話:一寸先はLA / タカシくんとタカシとマダムの話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

外山夏緒

2015年より、絵や詩、物語で展開したインスタレーションなどの美術活動をスタート。他、イラストレーション、空間装飾、グラフィックデザインなどで活動中。その他、自身のプロダクトブランドgungulparmanでの商品制作やアートワークなども行う。

WEB:gungulparman.com

Instagram:@gungulparman

 

 

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