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クロックムッシュの男

  • 2019.10.4

君とのクロックムッシュ。

思い出せるのは君の横顔だけだ。

おとこのてー

僕と君はいつのまにか出会っていた。とても自然だった。君は頬を赤らめていたし、僕も頬を赤らめてしまった。お互いにそれをわかっていたはずだ。

君から来た最初のメールには「目が綺麗ですね(笑)」と書かれていて僕はなんて返していいかわからず「あなたも素敵でしたよ(笑)」と返した。

確かに彼女は本当に素敵だった。多少なりとも僕だって女の子には慣れているはずだったがまったくなほど、目を合わせられなかった。

突然の彼女からのメール。

「美味しいクロックムッシュ、食べますか?(笑)」

「その美味しいクロックムッシュ、食べます(笑)」

と僕は返して次の日会うことになった。

気合いを入れて15分前に着こうとタクシーに乗り込んだ。到着し指定の喫茶店の入り口を覗くとカウンターの手前に座っている女性が彼女だということがすぐにわかった。初めて会った時と同じように髪の毛を束ねていたからだ。

僕は息を少しのんで中に入ると彼女はもうすでに珈琲を飲み終えて終盤にさしかかっているような雰囲気だった。本を読みながらも、僕に気付き、振り返った。

「あ、珈琲飲んじゃった」そう言って、僕が頼むタイミングでおそらく二杯目である珈琲を頼む。

よくよく考えるとまったくもって彼女が誰なのか、何をしているのか、どんなことを思って生きているのか、まったく知らなかった。

僕は彼女のことを何も知らない。

ひとつひとつ細かく聞いていくしかなかったが彼女はその度に質問以上に答えてくれた。たまに僕の目をチラッと見るくらいで身体は真正面を向いていた。

まるで独り言を聞いているみたいだ。彼女は僕を知らないんだな。なぜかわからないけど、そう思った。

話に夢中になりクロックムッシュをふたりで食べ忘れたことに気付く。

「あー、クロックムッシュ食べてほしかった。ていうかクロックムッシュがメインだったんだけどね。いいや、また食べよう。クロックムッシュ、ね」

クロックムッシュを忘れるほど話に夢中だったのは彼女の方だったがクロックムッシュのおかげで次に会える予定もできたから僕は嬉しかった。

彼女とタクシーに乗り込み先に僕が降りることになった。最後に車内で僕は

「楽しかった?」と聞いた。

彼女は「もちろん、楽しかったよ」と答えた。

そして数秒置いて彼女は「またすぐね」と言った。

タクシーから降りた時、中々タクシーが発車してくれなくて恥ずかしいくらいにお互い何度も手を振りあった。

いつ思い出してもどう考えても彼女は会ってくれると思っていたし何ならその先の未来さえも少し見えていた。

あれから1年が経ち最初で最後の彼女のことを今でもたまにだけど思い出す。

もう今では横顔だけしか思い出せないでいた。

思い立ってあの喫茶店へ向かう。彼女がいるような気がしたからだ。そんな偶然的なことは現実では起こることなくひとりで次は奥のカウンターに座った。

そして僕はクロックムッシュを頼んだ。

話したこともない黒い肌したマスターに「うちのクロックムッシュは世界一だよ」と言われ

僕は「美味しいですよね」と言ってしまった。

その瞬間隠していた寂しさが僕の前に少しだけ現れ、

やっぱりどうしても君に会いたくなった。

おとこのて

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