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ヘアサロン業界のサードウェーブ、日本上陸。

  • 2019.9.6
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「オバマ政権ができた時あたりだったかな。世界が変わるって感じたのは」

エポヘアのオーナーのケンシンさんはそう話し出す。「その頃からサードウェーブコーヒーが流行り始めたり、サステイナブルとかオーガニック、トレーサビリティだとか、一部の人だけの価値観が一般の人にまで広がり始めて。同時にジェンダーだったり、LGBTへの理解も広がって、いままでいわゆる『光が当たらないタイプ』だった人々に向けて光が当たって、ポジティブな方向に改善されたと思うんですよね。人それぞれの価値観を尊重するダイバーシティの方向性に」

確かにここ数年で「考え方」みたいなものが変わり始めた、というのは私も感じるところであって。それは何を持って豊かなんだろう、どういうことが素敵なんだろうっていう価値観が変わり始めたとも言える。たくさん稼いでいい車に乗って、豪華な食事をして派手な服を着て、たくさんたくさん消費して……、ってのが“豊かさ”とイコールではない。見た目の派手さ、つまり「どう見られてるか」ということよりも、「どうありたいか」ってことを改めて自分自身に問い直す人が増えてきたというか。その中で認識として一般化したのは「自分だけじゃなく社会にとっても益になる生活の送り方をするほうが素敵だね」って考え方。たとえばプラスチックの環境負荷を踏まえてマイボトルを持ちましょうって流れ。いまはまだ「セレブ発信のトレンド」という粋を出ていないけど、これは確実に「当たり前」になる兆しをみせているし。

「19年住んだニューヨークを離れて日本に戻った時、日本の美容業界は選択肢が少ないと感じたんです。ヘアケアの薬剤しかり、カットのメソッドも画一的。かつそれが当たり前だと思っていることが問題だと思うんですよね。時代も価値観も変わり始めているのに、日本の美容業界だけはそれに気がついていない旧態依然のこの風潮が。だったら自分でいまの時代の価値観に合う美容のスタイルを始めようと思って、この空間を作ったんです」

ケンシンさんが始めたこのヘアサロンは、普通のヘアサロンとは全然違う。まず第一に、入る前からドアから漏れ出たアロマの匂い。ドアを開けると、ヘアサロンとは一見思えない、ラボのような什器やしつらい。ところどころにネオンカラーがボトルの一部だったり、タグだったりにあしらわれていて、良い意味でのポップな軽率さがある。アロマの優しい癒やしの匂いとシャープで硬質な空間、そしてポップな軽率さ、そのコントラストは、少なくとも私はいままで見たことがなくて「新しい価値観」みたいなものを空間で体感したような気になる。

空間の真ん中に鎮座するのはお酒の蒸留機のような大きな大きな製油生成機。「自分たちが納得できるプロダクトがないなら自分たちで作ってしまおうと。山に入って薬草を摘んで、オイルを抽出するんです。植物ごとに全然性質が違うから、トライアンドエラーの繰り返しなんですけど、それがすごく楽しくて」。アロマセラピストの資格を持つスタッフの手で作られたそのエッセンシャルハーブオイルを元に、シャンプー、トリートメント、ヘッドマッサージの際に使うヘアオイルを調合してお客様一人ひとりのオーダーに応える。

「オーガニックにこだわってるわけではないんです。ケミカルなものでも納得できれば使うし。要は選択肢があるっていう状況、その中で自分の価値観でもって『選ぶ』ってことが大事だと思うんです」

ケンシンさんは、ある意味美容業界のサードウェーブ的存在なんだろう。新しい価値観、つまり「人、もの、コト、価値観がダイバーシティのこの世の中で、『自分の価値観で選ぶ』権利と自由を謳歌する」生き方というか。当然ながら自由は責任を持つってことと表裏一体だ。責任を持って生きるというのがサードウェーブ的な生き方というか価値観。

シャンプーやトリートメントは毎朝、その日使用するものだけをブレンドして作る。香りが飛ばないよう、シリンダーに入れた状態で真空パックする。

「エッセンシャルオイルとかハーブといった植物療法って、盲目的に信じるのもいいと思うけど僕は科学的エビデンス(根拠)は大事だと思うんです。だから横浜市立大学の教授に作ったプロダクトを持っていって、きちんと論拠をクリアにした上でプロダクト開発をやってます」

エモーショナルで伝統的に受け継がれてきたことを、冷静な視点と合理性と照らし合わせていまの時代にチューニングするバランス感覚はとてもクールで、第一説得力がある。

「いまの時代にあった 『新しい美しさ』をここでは提案していきたいんですよね。僕は撮影とかショーとかの仕事でヘアスタイリストとして美しさを表現していたんだけど、それってその瞬間だけの美しさというか、瞬発的な美しさであって、短距離走のようなイメージなんです。これからは相対する人に、マラソンのような美しさを作る併走者でいたいなって。美しさって、日々積み重ねるものなんですよね。日々意識して積み重ねている人の方が、美しさの強度として骨太になる。大きく構える必要はなくて、全然小さい積み重ねでいいんです。一日一回鏡を見るだけでも全然違ってくると思うし」

シャンプー台には、ハーブのタンクが設置されている。ミント、リンデン、カモミール、ロープヒップをブレンドしたオイルを柚子のハーブウォーターで割ったものを使用。シャンプーの内容は毎月内容が変わる。

世の中の価値観が変わってきたいま、「美しさ」って価値観もバージョンアップしているような気が私はしてる。ファッションの世界でいうと「(たとえ不健康でも)細いことは美しい」という風潮は過去のものになりつつある。オーバーサイズモデルだったり、身長が小さかったり、個性的な顔立ちのモデルだったり、「その人らしさ」が全面に出ているモデルにフォーカスが当たっている昨今。ケンシンさんが考える、いまの時代の『新しい美しさ』について、美しさを作る長年のプロフェッショナルに単刀直入に聞いてみる。

「健康であることがまずいちばんプライオリティが高い。見た目の美しさって生き方が投影された結果だと思うんです。つまり内面的なものですね。何を考えて、何を選んでどう生きるか。それは自分の価値基軸に基づいて生きることですよね。その価値基軸に基づいて、積み重ねることができる人は美しいと思う」

「内面的なものを鍛える」って聞くと、それっていわゆる「自分磨き」でダイエットしたり、自己啓発本を読んでみたり、お稽古事やセミナーに出てみるなどなど……に陥りがちだけど、いの一番に大事なのはケンシンさんが示唆するように自分の価値基軸を作り上げるってことなのだ。誰かの意見ではなくて自分の意思で選択し、それにともなう責任を背負う覚悟を持つ。責任と覚悟を持った生き方は骨太な自信につながって、それが心の豊かさを生み、他者への寛容だったり世の中への配慮につながる。

いまこの時代の「美しさ」って、内面の知性や覚悟が表面(外面)にあふれ出た結果なのかもしれない。美しさは、目的ではなくて、あくまで結果の副産物というか。

ケンシンさんが提案をするサードウェーブのこの美容空間、そこから積み重ねられる美しさ。それはとても現代的かつ合理的。かつプリミティブで優しさがある。

Epo Hair Studio東京都渋谷区富ヶ谷1-9-15tel : 03-6407-9970営)11時~20時(月、水~金) 8時~17時(土、日、祝) ワークショップ(第2日曜日)休)火

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