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美しき教会を巡る、五島列島の旅。

  • 2019.8.7
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東シナ海に浮かぶその島々は、約150の島をもって五島列島と呼ばれる。かつて城下町だった福江島には、都心から来たクリエイターや県外で活躍した地元の若者がプロジェクトを立ち上げ、島を盛り上げている。上五島といわれる若松島や中通島以北は、複雑に入り組んだリアス式海岸が続き、山と海とが独特の風景を生み出す。島の文化はそれぞれ異なるが、共通して言えるのが、たくさんの潜伏キリシタンがここで暮らし、ひっそりと信仰心を育んできたこと。点在する51の教会は、禁教令が廃止され、信者たちが財産を投じて復活を祝った証。大自然に包まれて凛と立つ教会の姿と、命懸けで守り抜いた信仰と文化は、いま世界遺産という称号も得て、次世代に受け継がれようとしている。

小さな集落で見つけた、手作りの温もり。

江上天主堂

918年に現在の天主堂が完成。ステンドグラスの代わりに窓に手描きした花模様は、費用を抑えるための工夫。軒下の通気口を十字形にしたり、湿気の多い場所を危惧し高床式にするなど、信徒の思いが目一杯詰まっている。

江上天主堂Egami Church長崎県五島市奈留町大串1131-2tel:なし館内見学時間:9時~12時、13時~16時閉)月※祝日の場合開館、翌火曜日閉館館内見学の際は、HPにて事前申請が必要http://kyoukaigun.jp/visit/detail.php?id=15※いずれの教会も、ミサや冠婚葬祭時は見学不可。●福江島・福江港から奈留島・奈留港まで高速船で約30分、奈留港から車もしくはバスで約20分。

中通島を中心に、キリシタンの軌跡を追いかけて。

朝の6時過ぎ。中通島の青砂ヶ浦教会を訪れるとミサが行われていた。教会から出てきた女性たちが「それはシスターに相談したほうがよかね」と井戸端会議。中通島を含むエリア、上五島には約2万人が暮らしているが、その25%がカトリック信者という。花々で囲まれた中ノ浦教会など、常に手入れが行き届き、美しく保たれている。

生活にこれほどまでにキリスト教が息づいているのは、信仰弾圧という歴史的背景にある。フランシスコ・ザビエルが布教を始めたのが1549年のこと。その後、豊臣秀吉の発令した禁教令で、弾圧・迫害が始まる。人目を避けるようにして五島列島に信徒が降り立ち、ときに仏教徒を装いながら潜伏キリシタンとして信仰を継承してきた。頭ヶ島(かしらがしま)天主堂は、頭ヶ島という小さな島に立つ。かつては海流も激しく、療養所しかない離島だった。ここなら大丈夫と、辺鄙な場所を選んでまで信仰を続ける信徒の思いが、この地に立つとひしひしと感じられる。

1873年、明治政府によるキリシタン禁教令の撤廃を受け、潜伏キリシタンたちはついに信仰の自由を手に入れた。信徒の胸の内にあった願いを形にしたものが51の教会であり、いま、五島列島を美しく彩っている。

世界遺産にも認定、重厚な石造りと花の共演。

頭ヶ島天主堂

優しい色でまとめられた内装。「花の御堂」とも呼ばれる。

頭ヶ島は隠れやすい土地だったため、多くの潜伏キリシタンがいた。島唯一の教会は、近くで採れる五島石という砂岩を信徒自ら切り出し竣工。レリーフの花は、十字架を見立てているともいわれている。

当初は木造だったが老朽化したため石造りに建て替え。約10年の月日をかけて完成。

鮮やかなゼラニウムロードを歩いた先にある。潜伏キリシタンの中心的指導者、ドミンゴ森松次郎の屋敷跡に立つ。

頭ヶ島天主堂Kashiragashima Church長崎県南松浦郡新上五島町友住郷頭ヶ島638tel:0959-42-8118館内見学時間:9時~17時無休見学の際は、HPにて事前申請が必要http://kyoukaigun.jp/visit/detail.php?id=16●福江島・福江港から中通島・奈良尾港まで高速船で約30分、奈良尾港から頭ヶ島・見学受付センター(上五島空港内)まで車で約1時間、見学受付センターから無料シャトルバスで約10分。

水辺に立つ、絵画のような美しき聖堂。

中ノ浦教会

中ノ浦教会は小さな入江沿いにある。水辺に建物が写り込むことも。ビビッドな赤い花の絵が描かれた、室内の装飾にも注目。

かつて弾圧が厳しかった地区だけに、美しい教会を建てたいという思いを堂々実現。まっすぐと伸びた重層屋根が目を引く。入口そばにルルドがあり、5月末にはマリア像の周りに野バラが咲き乱れる。

聖母マリアが立つルルド。

真っ白な木造建築に映える、十字架にデザインされたステンドグラス。脇の花壇には、多種多様な花が。

中ノ浦教会Nakanoura Church長崎県南松浦郡新上五島町宿ノ浦郷中ノ浦tel:なし館内見学時間:9時~17時無休●奈良尾港から車で約15分。

上五島の中心的教会で、奈摩湾を見下ろして。

青砂ヶ浦教会

奈摩湾に臨む青砂ヶ浦教会。国指定の重要文化財に認定されている。

丘の中腹に、海を見守るようにして建てられた教会。多くの教会建築を手がけた鉄川与助が設計。レンガそのものでデザインした帯状装飾と、縦長のアーチ窓がアクセントに。ステンドグラス越しの光も美しい。

長い面と小口を交互に積み上げるイギリス積みを採用し、信徒総出でレンガを積んだ。

縁取るように石を配した壮大なレンガ造りの建物は、迫力満点。ときおり集落に響き渡る、鐘の音も印象的。

青砂ヶ浦教会Aosagaura Church長崎県南松浦郡新上五島町奈摩郷1241tel:なし館内見学時間:9時~17時無休●奈良尾港から車で約50分。

五島列島へのアクセス●東京・羽田空港から長崎空港まで約2時間、長崎空港から五島つばき空港まで約30分。または、東京・羽田空港から福岡空港まで約2時間、福岡空港から五島つばき空港まで約40分、五島つばき空港から福江中心部(福江港)まで車で約15分。

※『フィガロジャポン』2019年7月号より抜粋

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