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市場規模4兆円!? 「セクシュアル・ウェルネス」産業の急伸。

  • 2019.7.23
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市場規模4兆円!? 「セクシュアル・ウェルネス」産業の急伸。
2019.07.23 08:00
あと10年も経たないうちに、セクシュアル・ウェルネス、つまり「性の健康」向上を目指した産業は、世界的に4兆円もの市場規模に達するといわれている。中でも目覚ましい発展を遂げているのが、デリケートゾーンのスキンケアからネックレス式バイブレーターまで、女性のために開発されたプロダクトやサービスだ。この急成長の背景にあるものとは何か? 最新動向を追った。


私たちの「プライベートゾーン」は、とくに美とウェルネスの観点から、もはやそれほどプライベートな場所ではなくなってきたようだ。ファッションとビューティーに特化したリサーチ会社、WGSNの調査によると、インティメイトヘルス市場は、いまやオイルやエクスフォリテーターから、バイブレーターや骨盤底筋トレーニング器具まで実に多様で幅広い商品を擁しており、2026年までに380億ドル(約4兆円)以上の市場規模になるだろうといわれている。


同社のビューティーエディターであるエマ・グレース・ベイリーは、こう語る。


「いま、お手入れ方法から鍛え方まで、膣まわりのケアが再び注目を集めています。この流れは、セクシャルハラスメントや性的暴行の被害に対して女性たちが声を上げはじめた『#MeToo』運動とほぼ同時期にはじまりまったと私たちは見ています」


一方、2016年にローンチした、チャットを通じて女性ならではの悩みに答えるアプリ「Tia」の成功を受け、ニューヨークに同名の婦人科クリニックを共同設立したキャロリン・ウィッテは、女性のプライベートゾーンに対する考え方が根本から変わってきていると感じている。クリニックTiaは、通常の性感染症や尿路感染症、子宮頸がんの検査を行う医療機関であるだけでなく、女性がデリケートゾーンの「健康」に向き合うためのサポートも提供している。ウィッテはいう。


「アプリやクリニックの利用者たちを見ていると、現代の女性たちは、自分の性生活や身体について、よりオープンに話すようになったと実感します。快楽と性の健康には密接な関係があり、女性の健康全体の大きな部分を占めていることを、より多くの女性たちに知ってもらいたいですね」

膣の場所を知らない女性は多い!?


女性の性についての対話がオープンになる一方で、膣まわりの基本的構造について知らない人は思いのほか多い。イギリスの調査会社、YouGovのあるレポートによると、イギリス人女性の45%は膣がどこにあるか分からず、55%は尿道が何か分からず、43%は陰唇を特定できないというのだ。


「自分の身体に対する知識を深めることは重要です。知識なしには自分のために主張したり、医療従事者に自分のニーズを伝えることもできません。体への知識が不足しているために、女性は自分の身体に何が起きているのか分からず、誤診の一因にもなりかねません」


女性のためのデジタルヘルスクリニック、ローリー(Rory)のメディカルアドバイザーであり、アメリカ・テキサス州にあるベイラー大学医療センター婦人科外科医のジェシカ・シェパード博士も同じ意見だ。


「女性がデリケートゾーンの健康に対する羞恥心を払拭できなければ、女性特有の医学的状態やセックス、変化への対処が難しくなります」


身体の異常や問題がある可能性に気づくためには、恥ずかしいという感覚を捨てて身体の構造を知ることが極めて重要なのだ。

膣ケアのタブーを打破せよ!


デリケートゾーンへの注目が高まるにつれて、インティメイトヘルス関連商品も急速に普及してきている。前出のWGSNのベイリー曰く、このトレンドは欧米ではなくアジアから始まったというのが興味深い。実際に、ベイリーが2017年5月に東京を訪れた際には、すでに洗浄剤や保湿液などの膣まわりのスキンケア商品が揃っていて驚いたという。


グローバルなリテーラーたちも、このトレンドに素早く反応している。Net-A-Porterでは、埋没毛を除去するフィンガーミットやアフターシェーブクリーム、オイルなどを提供するラグジュアリーなインティメイトヘルス・ブランド、ファー(Fur)の商品を多数ラインアップしており、その販売実績からも需要の高まりを実感しているようだ。


「ブランドをスタートさせた2016年当時は、確かにインティメイトヘルスについてのタブーが存在していました。けれど考えてみれば、アンダーヘアはほとんどの女性にあるのに、どうしてオープンに語り合うことがタブー視される必要があるのでしょうか?」


ファー創設者ローラ・シューベルトはそう首をかしげる。また、レディー・スイート(Lady Suite)の創設者、テレサ・クラークは、ブランドのミッションステートメントの中でこう述べている。


「私たちの使命は、女性が女性特有の悩みに向き合えるよう力を与え、自意識を自信に変え、膣ケアのタブーを打破できるようにすることです」


同ブランドの定番アイテムである、ホホバオイルやニンジン種子油を配合したデリケートゾーン用「Rejuvenating Botanical Oil(リジュビネーティング・ボタニカル・オイル)」は、ワックス後のケアやアフターシェーブとして最適。外陰部の乾きや埋没毛、カミソリ負けのケアにも活躍する。

広がるムーブメント。


WHOは、セクシュアルウェルネスを性に付随する身体的、 情緒的、 知的、 社会的な健康のこと、と定義しており、セクシュアルヘルスケアは、 単に妊娠・出産や性感染症に関する相談とケアにとどまらず、 人生と人間関係を豊かにするものであるべきだ、としている。そう、当然ながらデリケートゾーンには「快楽」の要素も含まれるのだ。


この観点から、アダプトゲン(不安やストレス、疲労などへの抵抗能力を高める働きがある天然ハーブ)を用いたサプリやスキンケア商品を提案するムーン・ジュース(Moon Juice)は、その名も「Holy Yoni」(Yoniとは女性器を表すサンスクリット語)と名付けたオイルを発売。ビタミンEやアーモンドオイル、ブルガリア産ローズオイルなどをブレンドし、「情熱や歓び」を高める作用があるとされている。


また、「自分らしいセックスを!」というスローガンのもと、スタイリッシュなバイブレーターを発売しているクレイヴ(Crave)は、ネックレスタイプのバイブレーターをリリース。さらに、グウィネス・パルトロウが手掛けるブランド、グープ(Goop)は最近、バイブレーターやインティメイトヘルス関連商品などの展開をスタートした。取り扱われているプロダクトはどれも、バスルームでクレームドゥ・ラ・メールのクリームの隣に置いても違和感のないデザインが特徴だ。


イギリスが拠点のオンラインセレクトショップ、カルト・ビューティー(Cult Beauty)は2019年3月、国際女性デーに合わせて「性の快楽とウェルネス」専門のカテゴリーを新設。同カテゴリー内の売上の10%は、婦人科がん(卵巣、外陰部、膣、子宮頸部、子宮)への関心を高め、さまざまな機関への研究費支援を行うレディガーデン財団に寄付される。同社の共同設立者アレクシア・インゲ(Alexia Inge)は、その目的をこう語る。


「大企業はこういった分野への参入に躊躇しがちですが、私たちのようなD2C(Direct to Consumer=消費者と直接つながる)ビジネスは、女性の健康から月経、マスターベーション、インティメイトヘルスに至るあらゆるものをビューティープロダクトとして取り扱いたいと考えています」

快楽と健康を手に入れるために。


このカテゴリーで展開されるのは、バイブレーターから性欲を高めるサプリメントまでさまざま。中でもカルト的人気を博しているのは骨盤底筋を鍛えるデバイス、エルヴィー(Elvie)だ。エルヴィー創業者のタニア・ボーラー(Tania Boler)は、そのメリットをこう説明する。


「骨盤底筋を鍛えることで、排尿のコントロールを改善したり、セックスの感度を高められるなど、あまりに多くの効果が期待できます。単なる身体的な利益だけではなく、結果的に自信とコントロール感の向上につながるのです」


こうした新潮流に乗じて、その使用と効果について疑わしい主張をしている商品には注意が必要だ(グープも、膣の健康に効果があるとして科学的根拠のない翡翠とローズクォーツの卵型ストーンを販売し、 2018年に約1500万円の罰金を課されている)。その商品が適切に検査されたものか、公的機関から承認を受けた製品あるいは成分であるか(内用する場合は特に)など、しっかりとリサーチした上で選ばなければいけない。前出のファー創業者、ローラ・シューベルトはこうアドバイスする。


「製品が婦人科、および、皮膚科領域においてテスト済みであることは極めて重要。デリケートゾーンは驚くほど敏感なので、PHバランスがとれていない製品や、アルコール、パラベン、フタル酸エステル、香料を含む製品は避けるべきです」


いずれにせよ、デリケートゾーンケアのトレンドは、今後もさらなる注目を集めるはずだ。それが、「Tia」のウィッテが言うように「世界中の女性のために、前向きで持続的な運動であること」を願いたい。快楽と健康、そして身体に対するイメージの境界線はあいまいなものであり、女性はそれらすべてを心地よく感じる権利があるのだから。

Text: Suzanne Scott

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