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うつわディクショナリー#54 これぞ日本の鎬紋、阿南維也さんの白磁

  • 2019.7.9

和紙をかさねたような、日本人らしい繊細さを持つ鎬紋

陶芸家・阿南維也さんの作品の中で、まず目をひくのは縦の線が連続する鎬(しのぎ)紋のうつわ。重ねた和紙を数ミリずつずらしたかのような、日本的な彫り模様を、平らな平皿にも、丸みのある湯飲みの側面にも、どこにだって正確にほどこしてしまう阿南さんは、大好きだというその手彫りに没頭しながら、心はいつもおだやかに、使う人の食卓を考えている。

 

—阿南さんの作品は、すべて手作業で細かい彫り模様を施す白磁が秀逸です。その繊細なお仕事とは裏腹に、陶芸家になる前はスポーツ選手だったとか。

阿南:生まれ育った大分県は焼物で知られていますが、僕自身は、東京に出て体育大学に通っていたくらい、うつわや陶芸とは無縁の生活を送っていました。運動以外にしていたことといえば、単純作業のアルバイトだったんですが、実はその時間もすごく好きだったんです。作業が単調なだけに、頭の中では別のことを考えられるのが嬉しくて。子供の頃から好きだった宇宙のこととか、昆虫のことを考えて、別世界に逃避するのが心地よかったんです。

 

—代表的な彫り模様に、縦の線が規則正しく連続する鎬紋がありますが、阿南さんのそれは、重ねた和紙を数ミリずつずらしたかのような、はたまた、扇子のような日本的な雰囲気が特徴です。

阿南:自分が思う美しい鎬紋を考えてこのようなかたちになりました。鎬紋に限らず、彫りを入れる作業はとても好きですね。一日中やれば、50〜60個の作品を彫ることができますが、いくらやっていても飽きることがないくらいです。

 

—没頭することで、むしろリラックスして、いい線が引けるのかもしれませんね。ところで、スポーツ選手から、なぜ陶芸家に?

阿南:大学を卒業するにあたり、アルバイトで経験したような、同じ作業の繰り返しやその積み重ねで、ものができていく仕事がしたいと思った時に、職人という職業が浮かんで。地元の九州で有田に行けば、窯業大学に磁器の絵付け職人になるための研修コースがあると知り、半年間学びました。終了後は、窯元で絵付けの仕事につく予定だったんですが、結局、作家のもとで手伝うことになり、そうこうしているうちに自分の作品を作ってみたくなったんです。

 

—阿南さんの白磁は、すこしグレーがかっていて優しくふだん使いにもいいのですが、鎬紋や矢羽紋の彫りがあることで、食卓が上品に格上げされるような気がします。

阿南:かたちは、ろくろをひいたあと削りだして整えるので、手仕事でもきちんとしたかたちになっていると思います。その分、手彫りを入れることで、凹凸のある手触りや陰影を料理と組み合わせて、日常的に楽しめるうつわであれたらいいですね。

 

—白磁の台付きカップやアイスクリームカップは、清涼感があっていいですね。

阿南:台付きカップは、これからの季節、冷たいお茶を味わってもらえたら。アイスクリームカップは、個展をしている千鳥 UTSUWA GALLERYの店主・柳田栄萬さんのリクエストで作るようになり、少しづつ改良しています。コーヒーゼリーやパフェなど、ちょっと懐かしいデザートを家庭で楽しむきっかけになったらいいなと思います。

 

—そして、蓋物は、阿南さんの得意技。主婦にとって使いやすいかたちと大きさを心得ていらっしゃいます。

阿南:蓋物は、ふくらみのラインに気を配って作っています。見た目に美しいことを大切にしていますが、片手で持ちやすく、開けやすいことも肝心です。手にしっくりはまる厚みや深さをテストしたり、口の部分のすぐ下に窪みをつけることで、平らな蓋でも指をひっかけて開けやすいようにするなど、工夫しています。

 

—美しさも使い勝手も備えたうつわばかりですが、理想とするのはどんなものづくりですか?

阿南:作家なので、日々考えることが変わりますし、釉薬もかたちも新しいことに取り組みますが、結局はいまの自分に何ができるかですね。今回の展示会では、ピッチャーや銀彩など洋風なうつわも提案していますが、蓋物や長角皿などの定番は作り続けながら、その時々の自分ができる手の仕事にあったうつわを残していけたらと思っています。

 

※2019年7月13日まで「千鳥 UTSUWA GALLERY」にて「阿南維也展」を開催中です。

 

今日のうつわ用語【鎬紋・しのぎもん】

うつわの側面などをヘラなどで掻き取ることで稜線のような縞模様を施し文様としたもの。

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