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「BMXフリースタイル・パーク」で世界を沸かす、数少ない女性ライダー、大池水杜選手にぞっこん!

  • 2019.5.29
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与えられる持ち時間は1分×2回。その時間内で選手たちはパーク内を自転車で乗り回し、備え付けのジャンプ台から飛んだり、縦回転や横回転をしたりとさまざまな技を披露していく。そこで披露した技の難易度や完成度の高さをもとに、勝敗が決まるスポーツ「BMXフリースタイル・パーク」。日本ではまだ認知度が低いものの、会場では掛け声や応援する声が響きわたり、スリリングな技を目で追うごとに心が熱くなるアーバンスポーツの一つ。

なかでも、ウィメンズヘルスが注目したのは、数少ない女性選手でありながら世界各国の大会で好成績を残し、オリンピック金メダル有力候補とされている、大池水杜(おおいけ・みなと)選手。

2013年にエストニアの「Simple Session」で16歳にして初の世界大会出場を果たし、2016年には出場枠が12枠しか設けられていない米「Xゲームズ」に招集。フランスで開催された2018年のUCI(国際自転車競技連合、以下UCI)ワールドカップでは、見事日本人初の勝利を遂げた。そのほかにもUCIアーバンサイクリング世界選手権や「Vans USオープン」など、自転車一つで世界と戦ってきた多くの成果が、22歳である彼女の戦績を彩っている。

今回は世界から大注目される彼女に、BMXフリースタイル・パークの軌跡から、勝つために必ず行っていることや、失敗にくじけず立ち上がる方法を聞いてみた。

きっかけは父親。週末は全国のパークを巡ってスキルを磨いていた

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大池選手が実際にBMXフリースタイル・パークをはじめたのは、中学2年生のとき。でも2輪車の魅力に魅せられたのは、もっと前のことだったとか。

保育園のときにお父さんがバイクに乗っていて、そこからバイクに乗りたいという思いが芽生えました。そこからモトクロスというオートバイのレースをはじめて、次にバイクトライアルという自転車に転向し、そのあとBMXを始めました」

スケートボードのように、BMXフリースタイル・パークではコーチをつけず、その時々でパークにいる人から技を習得するのが基本。大池選手は、自身の父親が強力なサポーターだったこともあり、週末は彼が探し出す全国のパークを巡って練習を重ねてきたという。

「コーチがいる業界ではないので、パークにいる人に教えてもらうのが普通でした。最初は子どもが乗れるパークを父が調べてくれて、BMXショップが近くにある京都のパークに行ったのを覚えています」

そこから少しずつ、技を身につけていった大池選手。「最初は技とも呼べないものからはじめて、遊んでいました。初めてできた技は、『ワンフット』という片足を離す技。そこから両足を離してみたり、離し方を変えてみたり、いろいろやっていました。ハンドルを持って自転車を一回転させる『テイルウィップ』という技は長いことやっていますが、習得するのに苦戦した技の一つです」

パークでひたすら練習を重ねていたころ、彼女が触発されたのは、今でも現役で活躍しているアンジー・マリノ選手。「当初、女子のなかでは類を見ない高さを飛んでいたうえ、スタイリッシュさも持ち合わせていました。とにかくひときわ目立っていて、『彼女に勝ちたい』と思っていましたね。そんな思いを胸に、初めての世界大会でエストニアに向かいましたが、負けました(笑)。今でもたまに負けますね」

自分が楽しいと感じることを、コツコツと続けたことが大きな成果に

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女性が圧倒的に少ないスポーツに幼くして踏み込んだことに対して、彼女は「男社会にいることに違和感を抱くことはありませんでした」ときっぱり。「小さいころからそのような環境にいたということもありますが、私からしてみれば普通でした。周りから『何でそんなことするの?』と聞かれることもありましたが、私は『自分が楽しいと感じることをしているだけ』だと思っていました。メイクしてお出掛けすることが楽しいと感じていれば、いずれその方向に転換していたと思います。でも、私のなかではBMXやオートバイに乗っていたいという気持ちのほうが強かったです」

いつしか「飛ぶ」ことに病みつきに

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通常のBMX用の自転車は、11〜12キロほど。そこから選手たちはパーツを組み替え、自分のサイズに合った重さにカスタマイズしていく。大池選手の自転車は、現在約9キロ。その自転車を軽やかに乗り回しながら披露する彼女の決め技は、ジャンプをしたとき、空中で手をハンドルから離す「ノーハンド」。「最初はダサい形からはじまった」というこの技だけれど、周りからよく褒められるようになり、自分の強みだと感じるようになったという。「『飛んでいる』というのが伝わりやすいところが魅力的な技です。何が成功で、完成かという決まりがないからこそ、どうすれば一番かっこよく見えるかを研究しながら、常に試行錯誤しています」

印象深いのは、憧れの舞台「Xゲームズ」に初めて立ったときの思い出

今まで数々の世界大会に出場している大池さんの心に焼き付いているのは、高校1年生のころに初めて日本を出ることになったエストニア「Simple Session」への遠征と、「Xゲームズ」に初めて出場したとき。「特にXゲームズはエクストリームスポーツをする人にとって、憧れの舞台です。そこで自分が飛べる、しかも世界トップクラスの女子選手と一緒に飛べる、ということが何よりもうれしかったです。一緒に飛んで、終わったら一緒にご飯を食べて……乗っているときも乗っていないときも楽しくて、『これがBMXの世界だ』と実感した瞬間でした」

がむしゃらにあがくのか、いさぎよく諦めるのかは、一瞬の判断

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1分の出番が2回しか与えられず、一つのジャンプから次のジャンプまでには5秒もないという、とてつもなく短い時間で戦う彼女。決勝では、2本のうちよりよいほうが判断材料として扱われるため、2回目で巻き返すことはできるものの、失敗が一つでもあれば表彰台に上がれる可能性は大幅に下がる。

「1本目がうまくいかないときは、2本目のために体力を温存することもありますね。それでも2本目の途中でミスをしたら、いさぎよく諦めることも必要ですし、がむしゃらにあがくことも必要です。本当は無理にでも全力投球するべきなのかもしれませんが、それでけがをしても意味がありません。

ただ、もし乗り続けるのであれば、ミスを気にせず、もう1回できるイメージをして、がむしゃらに行くしかないと思っています。ミスを引きずるのであれば、その場でやめたほうがいいと思いますし、そこから立て直して勝つのであれば、何も考えず、攻めるしかないと思います

そう語る彼女が、メダルを勝ち取るために必ず行っていることがある。「大きいジャンプをする前に、アプローチのターンがあって。そのときに完成のイメージを頭のなかでしっかり組み立てて、イメージをしてから飛ぶようにしています。イメージがしっかりできていないと成功にも結びつかないので、練習でも同じように行っていますね」。そして、国内、国外問わず、大会前は牛丼かラーメンを食べるのがお決まり。「おいしいものを食べてから現地入りします」

真剣なまなざしでゲームに取り組みながらも、彼女が心底大事にしているのは、楽しむこと。「楽しまないと転んで痛いばかりのスポーツになってしまうので(笑)。落ち込むことももちろんありますが、結局は落ち込んでいてもしょうがないと思います。そういうときは、乗りません。BMXから離れていると、何日かたったときに『乗りに行こうかな』と自然と練習を始めたくなるので、無理やり乗らないようにしています。『つまらないものにしたくない』という気持ちが強いですね

目指す先はもちろん、オリンピック金メダル!

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今後の目標を尋ねると、「もちろんオリンピックで金メダルを取ることです!」と笑顔で回答してくれた大池さん。「楽しみながらメダルを勝ち取れるよう、今、頑張って練習しています」

大池選手が全力を注いでいるBMXフリースタイル・パークに触れたことがない人に向けて、この競技の最大の魅力を聞いてみた。「人気も競技者数も海外と日本では大きな差があるスポーツですが、BMXは乗っている側も、見ている観客も騒いで楽しめる、ほかでは感じられない楽しさがある競技です。『声を出すのが恥ずかしい』という人もいるかもしれませんが、競技を見るときは、恥ずかしさを取っ払って、乗っている側と一緒に会場を盛り上げていってほしいです」

2020年の東京オリンピックでは、世界トップ選手の競技を間近に見ることができるチャンス。これを機に、「BMXフリースタイル・パーク」というスポーツに触れてみては?

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