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うつわディクショナリー#48 その一枚をずっと愛したい、安齋新さん、厚子さんのうつわ

  • 2019.4.10

つきあうほどに愛おしくなるうつわ

陶芸家の安齋新さん、厚子さんご夫婦が作るうつわは、そこにあるだけで辺りに静けさをもたらすような佇まい。それでいて、ひとつひとつのうつわを丹念に見ていくと、釉薬の流れやかすかな色の違いなど、その一枚にしかない何かが必ずあって愛おしい。個展を開催中のギャラリー「sumica 栖」にて、その美しさの源を新さんにうかがいました。

 

—薄緑の青磁、落ち着いたトーンの白磁、お菓子のような色味の新作の玉子手など、安齋新さん、厚子さんが作るうつわは、辺りを静けさに包み込むような色合いにひかれます。

安齋新:うつわはあまり主張のないものがいいというところは、私たち二人に共通する感覚かもしれません。食卓の主役はやはり料理。料理を引き立てつつ、食器は人々が生活で使うものの中でもとくに長いあいだ愛用されるものですから、暮らしにすっと馴染むような色やかたちがいいなと思っています。

 

—主張が少ないといっても、草花の彫りが可憐に施されていたり、釉薬の流れが異なったり、選ぶのに迷うほど、同じかたちでもそのひと皿だけにある特徴が感じられますね。

安齊新:定番として作り続けているのは、青磁、白磁、飴釉や染付けのうつわで、ものによって3種類の土を使い分けています。とくに青磁は、釉薬の掛け方によって違いが出やすいんです。窯のなかで炎がどのように当たるかによって一部が緋色と云って橙色に焼けることもあり、それもひとつの表情になります。

 

—釉薬のかけ方や窯の中の変化を楽しみながら作るからひとつひとつに特徴が出るのですね。

安齋新:型打ちといって、石膏などの型にろくろで引いた粘土をあてて叩き成形する技法でかたちづくり、天然の灰などの雑味が好きなので灰主体の釉薬を作っています。釉溜まりが綺麗なのであえて流れが出るように釉薬を掛けたり、窯の中で置く場所を変えるなどして、一つ一つのちょっとした違いを楽しんでいます。

 

—ご夫婦で役割分担はあるのですか?

安齋新:型作りは僕がしています。その他の作業は二人とも同じようにできるので、基本的にはやれる人がやるという感じです。ただ大体それぞれの特徴を生かしてどちらが作るのかは、うつわによって決まっています。

 

—お二人で仕事をするようになったきっかけは?

安齋新:彼女が京都の陶芸家に師事していた頃に知り合い、一緒に仕事をするようになりました。僕は昔から砂場や土いじりが好きで、山形の母の実家の蔵にあった古いガラス瓶や陶片みたいなものにも興味を示す子供だったようです。来客時に、母がいつもよりいい陶器や漆器で人をもてなすのを見るのも好きでした。奥さんは、人がものを扱う時の綺麗な所作にひかれる子供だったといいます。母親が季節のものを料理して、その時期にあったうつわで出すのを見るのも好きだったと。うつわを作るようになって思うのは、使う人にとって、どこかで見たことのある焼物の風景みたいなものが浮かぶようなものであれたら嬉しい、ということですね。

 

—お二人の作品のインスピレーションはどこから?

安齋新:うつわでは、凛とした中にも気の抜けた感じがあるもの好きですね。古いやきものの一部を彫り模様で再現することもあります。とはいっても、影響を受けるものは焼物に限りません。西洋の食器、テキスタイルや古い木のうつわのかたちなど、いいなと思ったものが知らず知らずのうちにインスピレーションになっていると思います。

 

—以前、加賀のご自宅兼工房にお邪魔した時には、娘さんと過ごす暮らしとお仕事が無理なくつながり、その中から作りたいもののアイデアが生まれていました。

安齋新:働くことと、暮らすことが近くにある農家のような感じがいいなあと思うんです。食事は一緒に食べる様にしてその時間も大切にしています。案外そんな事からもアイデアが生まれてくるのかも知れません。この食事の風景などが娘の良い記憶として残っていってくれたら良いなと思います。

 

※2019年4月15日まで、横浜の「sumica 栖」にて「安齋新・厚子展」を開催中です。

 

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今日のうつわ用語【青磁・せいじ】

青緑色の釉薬がかかった磁器やその色のこと。釉薬の中の鉄分を還元焼成で発色させたもの。紀元前に中国で発達し宋の時代に優れたものが作られた。朝鮮半島では独特な青色の高麗青磁となる。日本では17世紀に有田の伊万里焼が本格的な青磁の焼成に成功した。

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