現代テニス界を牽引した、ビリー・ジーン・キング。【ジーン・クレールが選ぶVOGUEな女性】


現代テニス界を牽引した、ビリー・ジーン・キング。【ジーン・クレールが選ぶVOGUEな女性】
2019.03.28 17:00
今回のジーン・クレールが選ぶVOGUEな女性は、女性テニス選手のビリー・ジーン・キングだ。彼女が活躍していた60〜80年代のテニス界は、性差別や人種差別といったスポーツマンシップに欠ける問題を抱えていた。そのような問題を優れたフェアプレーで改善へ導いたビリー・ジーンの功績とは?

テニスで社会を変えた彼女の偉業。


私にとって、ビリー・ジーン・キング、は社会を変えた史上最も重要なテニスプレーヤーだ。通算優勝数129回、なかでもグランドスラム優勝39回という驚異的な実績を誇る偉大な選手である。だが、成績と同じくらい重要な意味を持つのが、彼女がコートの内外でとった、テニスのルールを変えるための勇気と行動力だ。


彼女が登場するまで、テニス界における女子選手は、当時の一般社会と同様に、男性より劣る存在という位置づけだった。そんな中、スポーツの世界で活躍する女子選手の権利を守るため、キングは女子テニス協会(WTA)や女子スポーツ財団を立ち上げた。 


さらに、彼女は男女平等を訴え、差別撤廃にも尽力した。特にジェンダーについては、のちに彼女がレズビアンであると公表し、同じテニス選手のイラナ・クロスがパートナーだと明かしたために、さらにクローズアップされることになる。 

平等性を70年代から訴えていた「キング夫人」。


ビリー・ジーンは、幼いころから抜群の運動能力を発揮していた。特に、野球とソフトボールはかなりの腕前だったという(ちなみに弟のランディ・モフィットはアメリカ大リーグの投手になっている)。しかし彼女は、より「おしとやかな」スポーツとして家族からテニスを勧められた。


こうしてテニスの道に進んだ彼女が世界的な名声を確立したのは、1972年のことだった。この年、全仏オープンを制覇した彼女はテニスの4大大会すべてで優勝する「キャリア・グランドスラム」を達成する。これはいまだに、女子選手では史上5人しか成し遂げていない偉業だ。これにより、彼女の名前は世界中に知れ渡り、日本では「キング夫人」の愛称で親しまれた。 


有名人となった彼女は、自身がテニス界で経験していた女性差別に異を唱え、女性の地位向上を訴えた。彼女こそ、フェミニストの先駆け的存在だと言えるだろう。彼女がコートの中で成し遂げた実績について、長々と挙げることもできるが、むしろコートの外での取り組みこそが、一番素晴らしい実績のように私には思える。 


ビリー・ジーンと言えば、エマ・ストーン主演の映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2018)でその存在を知ったという人も多いだろう。これは彼女が、男子テニス元王者のボビー・リッグスと、前代未聞の男女対抗マッチに臨んだという実話をもとにした作品だ。対戦相手のリッグスは男性優位主義に凝り固まった男子テニスプレーヤーだった。彼は「女子選手が男子に勝てるはずがない」との主張を振りかざしてキングに難癖をつけ、対戦を申し出る。当時リッグスは55歳、対するキングは29歳だった。


リッグスは女子の有力選手、マーガレット・コートを破り、自らの主張を証明してみせる。勢いづいたリッグスは、ビリー・ジーンも簡単に倒せると思っただろう。だが、そのもくろみは外れた。5000万人以上が見守った試合で、リッグスは口さきだけの選手であることを露呈する。一方のビリー・ジーンは、リッグスに勝利を収めたあとも、いつも通り謙虚な姿勢を保ち、「この試合をきっかけにテニス、特に女子テニスに新たに触れた人たちがいる、そのことだけをうれしく思う」と語ったのだ。 

全世界に届けたフェアプレー精神。


また、ビリー・ジーンは女性の権利だけでなく、テニス界における人種の平等性にも取り組んだ。


今のテニスファンからすると考えられないかもしれないが、かつては多くの国でテニスはまともなスポーツとはみなされず、アメリカでは金持ちの道楽扱いを受けていた。また、人種によって参加できないテニス大会も多かった。これを容認できないテニス界の悪習と考えた彼女は、あらゆる人種の選手が大会に参加できるよう、力を尽くした。そのかいあって、今では大坂なおみのようなアジア出身の選手や、ウィリアムズ姉妹のようなアフリカ系アメリカ人の選手をはじめ、すべての国の選手が自由に参加できるようになったのだ。 


ビリー・ジーンのスポーツマンシップが光る働きかけがなかったら、今のテニス界を沸かせる、優秀ブレーヤーたちが誕生していなかったかもしれない。彼女はテニス界だけではなく、スポーツ界、そして社会において永遠のヒーローなのだ。


ビリー・ジーンには、あらゆる意味で「チャンピオン」という呼び名がふさわしい。男女平等を目指して常に戦ってきただけでなく、あらゆる人の人権、尊厳と敬意をもって扱われる権利を訴えてきた。選手としても、彼女は常にテニスへの愛だけのためにプレーした。残念ながら、お金と名声のみを求める傾向が強い今では、こうした選手はめったに見かけない。また残念ながら、今でもかつてのリッグスと同じような考えを持つ男子プレーヤーがいる。トップクラスの選手から女性差別的なコメントが聞かれることも日常茶飯事だ。 


しかし、当時に今のテニス界は、ビリー・ジーンの力があったからこそだ。その功績には誰もかなわない。彼女にとって、テニスは私たちがこの世で目にする不公平の象徴だった。


彼女は数ある因習を打破したスポーツの最良の部分を象徴する存在であり、彼女の見識や正義感は今こそ大きな意味を持つように思えてならない。偉大なファッションデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)も、テニスのことはほとんど知らなかったにもかかわらず、「ビリー・ジーン・キング! ええ、彼女のことは大好きよ」と発言している。それほどまでに彼女は、計り知れない貢献をした女性なのだ。 

Text: Gene Krell Translation: Tomoko Nagasawa

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