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フォトジャーナリストが紛争地に向かうワケ

  • 2019.3.8
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“愛を仕事にする”とは、どういうことなのか。連載「社会のじかん」でお馴染み、ジャーナリストの堀潤さんが、これまで取材で出会った数多くの人から、若くして今の社会の問題に気づいた人物に再取材しました!

紛争や貧困、あらゆる社会の歪みは真っ先に子どもに向かっていく。

フォトジャーナリスト・安田菜津紀さん、31歳。激しい内戦や紛争の渦中にあるシリアやイラクをはじめ、中東、アジア、アフリカ、東北の被災地など、困難と向き合う地域で生きる人々の日常を記録し続けています。穏やかで冗談交じりの笑顔を絶やさない安田さんの人柄そのままに、彼女の写真は体温を感じさせます。両手で包み込んだろうそくの灯りのように、ほのかな明かりが破壊された街や荒涼とした大地に道しるべを添えるような写真です。そんな安田さんはつい先日も、シリアの取材に行ってきたばかり。絶えずどこかの現場に足を運んでいます。何度も、何度も。何年も、何年も。なぜ彼女は通い続けるのでしょうか。

「避難生活を送っている方々の生活が厳しいことに変わりはないですし、故郷の町というのは戦闘が続いていたりする。でもシリアの方にかけていただいた言葉の中で忘れられないのは、『自分たちのことを本当に苦しめている、追いつめているのは、爆弾を落とすような勢力でもないし、IS(イスラム国)のような過激派の勢力でもない。これだけのことが起きているのに自分たちに関心を寄せない世界だ。無視している。それが自分たちを追い詰めるんだ』という訴えです。それって、東北の被災地でかけられる言葉にも似ていて。例えば、どうしても大きなメディアの中では、節目という言葉で語られがちです。3年目の節目、5年目の節目。じゃあ節目というものが通り過ぎてしまったら、自分たちのことって伝わらなくなるのか、という不安の声をいただくようになって。忘れるはずがないですよと、震災でお世話になった方々に意思表示ができるには、多くの方々に関心を持ってもらっているという、その土壌が必要だなと思ったんですよね」

安田さんが初めて現場で取材をしたのは16歳の夏休み。NGO「国境なき子どもたち」がカンボジアに派遣する「友情のレポーター」の募集に応募したことがきっかけでした。安田さんは、中学2~3年の時に父親と兄を相次いで亡くし、強い喪失感を抱いていたといいます。家族の結びつきとは何なのか、自問自答する日々でした。そうした中、初めて訪ねたカンボジア。人身売買の被害にあった子どもへのインタビューは価値観を大きく揺さぶるものでした。

「騙されてお金で売り買いされたり、虐待を受けながら働かされていたということも衝撃的だったんですが、やっぱりそれでも家族を支えるために仕事に就きたい、自分以外に『この人を守りたい』っていうものを持っているカンボジアの子どもたちの姿勢に、とにかく驚かされたんですよね。自分は今まで自分しか守るものがなかったからモヤモヤしていたんだなということに気がついて。どうして友達はもっと優しくしてくれないんだとか、家族はどうしてもっと理解してくれないんだろうとか、自分しか守ろうとしてこなかったんだなと思って。だから私も彼らみたいに自分から誰かを守りたいっていう、そういう姿勢を持てる人になりたいと教えてもらいました」

帰国後、安田さんは高校、大学時代を通じ写真や文章での発信を本格的にスタートさせます。2010年にカンボジアを取材しHIVと共に生きる子どもたちを記録した初の個展を開催。震災後は、夫の両親が暮らしていた岩手県陸前高田町で被災地の記録を続けている。初めての取材から15年。安田さんに気持ちの変化はあるのでしょうか。

「軸は変わっていないと思うんです。カンボジアに初めてお邪魔した時、子どもって社会の指標みたいなものなんだなっていうことに気がついたんですね。紛争だったり貧困だったり、あらゆる社会の歪みって、真っ先に子どもに向かっていくんだなと。子どもの表情を見ると社会の実相がわかるし、子どもが笑えていない社会ってやっぱり豊かな社会とはいえない。だから、子どもたちの尊厳が傷つけられる現場があれば、それは憤りを持ってシャッターを切りますし。逆に子どもたちの命や魂が輝く現場があるのであれば、それは本当に喜びを持ってシャッターを切っていきます。その軸は変わっていないように思います」

やすだ・なつき 1987年生まれ。「Dialogue for People」所属。16歳の時、「国境なき子どもたち」のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。その後、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の現場を取材。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 世界の子どもたちと向き合って』(日本写真企画)ほか。

(2枚目写真)取材の合間に、シリア北部の集落の子どもたちと。2018年5月。滞在していた集落で、近所の子どもたちとカメラを通してコミュニケーション。

ほり・じゅん ジャーナリスト。「GARDEN」CEO。NPO法人「8bitNews」代表理事。様々な社会問題や、国、地域、そして人を精力的に取材、発信している。

※『anan』2019年3月13日号より。写真(人物)、取材、文・堀 潤

(by anan編集部)

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