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松田青子が薦める、現代の女性にエールを送る3冊。

  • 2018.12.21

だんだんと冬も深まり、こたつに入ってゆっくり本を読みたい季節。今回は、2018年に刊行された本の中から、小説家で翻訳家の松田青子さんが選ぶベスト3冊を、それぞれの解説とともに紹介。ジェンダーに関する意識がより柔軟になった今年こそ読んでおきたい、女性に捧げる3冊とは?

時代を経ても読みたい、女性へ贈る物語。

「女性が女性の物語を物語ることについて書かれた小説やエッセイが心に残る一年だった。過去を生きた女性たちに現代の女性たちが心を寄せ、歴史や当時の社会通念、そして彼女たちの物語を、いまの感覚で捉え直し、書き直す作業は感動的で、これからの未来にとっても、とても大切なことだと思う。来年も本の中や外で、それぞれにおもしろくて魅力的な、さまざまな女性たちに出会うことができるのを心から楽しみにしている」

『ヒロインズ』

執筆当時、人生に行き詰まっていたケイト・ザンブレノは、夫のスコット・フィッツジェラルドに書くことを禁止され、精神病院に閉じ込められたゼルダをはじめとする、”天才”モダニズム作家の狂気の妻たちと自らを重ね合わせながら、女性が表現することに伴う困難さを考察していく。声を奪われ抑圧されてきた過去の女性たちの真実の声に耳を澄まし、代弁者となることで、作者が自分自身の声を発見していく過程に胸がつまる。

「ヴァージニア・ウルフの時代の女性たちと変わらず、ひどく生きづらさを感じている現代の女性たち」に捧げられたこの本は、自分の思うままに生き、語ることがいかに革命的でわくわくすることか気付かされる。

『説教したがる男たち』

レベッカ・ソルニット著ハーン小路恭子訳左右社刊¥2,592

男性が女性の言葉や考えを無効化し、偉そうに説教や説明をしてくるのはなぜなのか。女性がこれまで耐え続けてきた「あるある」な出来事を、見事に問題化してみせた表題エッセイは、発表時に大きな話題となり、それがきっかけで”マンスプレイニング”という言葉も生まれた。

ソルニットはこの本の中で、性暴力や性差別など、「女性の存在が消される」さまざまな状況を例にとり、なぜこの世界がそうなっているのか、明白なパターンをあぶり出す。些細に見える小さなことから重大なことまで、すべての事象は繋がっていることを示し、その先へと私たちの意識を向けさせてくれる。迷った時、思考をクリアにするために、何度も立ち戻って、読み直したくなる一冊。

『マリー・アントワネットの日記』

18世紀のフランス王妃マリー・アントワネットが、「ルイ十四世バカなの?www」「くっそウケるwww」「パリ最高かよ!!!」「トワネットちゃんオワタ」などなど21世紀日本の現代用語やハッシュダグまで使いこなしながら日記に綴っていく、本当の彼女の物語。

セクハラ、マタハラ、炎上、くだらないゴシップの集中砲火を浴びながらも、持ち前の道化者とファイターのスピリットで駆け抜けるアントワネットが胸熱。つれない夫ルイ16世を「推し」として愛でたり、恋やファッションに情熱を傾けたり、古臭いしきたりに辟易してガチ切れしてみたりと、歴史に名高い”毒婦”であるアントワネットを、毒婦のレッテルから解放し、現代の私たちと繋げてみせた超快作。

Aoko Matsuda / 松田青子1979年、兵庫県生まれ。小説家、翻訳家。2013年、『スタッキング可能』(河出書房新社刊)でデビュー。ほかの著書に『英子の森』、『ワイルドフラワーの見えない一年』(ともに河出書房新社刊)、『おばちゃんたちのいるところ』(中央公論新社刊)など。訳書にカレン・ラッセル著『レモン畑の吸血鬼』、アメリア・グレイ著『AM/PM』、ジャッキー・フレミング『問題だらけの女性たち』(すべて河出書房新社刊)などがある。

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