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デンバーで、ディオールの歴史を巡る展覧会を。

  • 2018.12.19


デンバーで、ディオールの歴史を巡る展覧会を。
2018.12.19 09:00
ロッキー山脈を臨み、19世紀にはゴールドラッシュに沸いたコロラド州のデンバー。アートや音楽など文化都市としても発展を遂げるこの街で、アメリカでは初公開となるディオールの回顧展『Dior: From Paris to the World (ディオール:パリから世界へ)』が開催中だ。キュレーターのフロランス・ミュラーと、会場構成を行った建築家の重松象平にも、現地で話を聞いた。

デザイナー7人の物語。


ディオールの回顧展『Dior: From Paris to the World(ディオール:パリから世界へ)』では、ブランドのデビュー70周年記念の一環となる企画で、今まで製作されてきた200点以上のオートクチュールドレスのほか、関連のアクセサリーや絵画なども含めると合計500点以上の作品が展示されている。


キュレーションは昨年、パリで開催された回顧展を手がけたフロランス・ミュラー。今回の展覧会の見どころについてミュラーは、こう説明する。


ディオール(DIOR)というブランドのグローバル性にフォーカスした企画です。創始者であるクリスチャン・ディオールは、いつも探究心を持って世界の異文化に触れた人。デザイナーとして世界各地に拠点を作り、ビジネスを拡大していったのは当時前例がなかったこと。偉大なアーティストでもあり、またビジネスマンでもありました」


展覧会は創始者の後を継いだデザイナーたちの象徴的なデザインの数々を振り返っていく。21歳の若さで創始者の後を継いだ奇才、イヴ・サンローラン(1958〜60年)、60年代から30年近くもブランドを率いたマルク・ボラン(1961〜89年)、メゾンの豪華絢爛なイメージを築いたジャンフランコ・フェレ(1989〜1996年)とジョン・ガリアーノ(1997〜2011年)、よりアーティスティックなアプローチを極めたラフ・シモンズ(2012〜2015年)、そして、初の女性アーティスティック ディレクターとして新たなフェミニズムを追求するマリア・グラッツィア・キウリ(2016年〜)。


各々個性的なデザイン言語をもちながら、ブランドの歴史と時代を先駆けたファッションカルチャーを築き上げてきた7人のデザイナーたちの物語は、ディオールというひとつの長編小説を構成するチャプターのようでもある。会場デザインを手がけたのはOMAのNY事務所を率いる建築家の重松象平だ。彼は「ひとつのブランドとしての一貫性を保ちながら、各デザイナーたちの違いをどう差別化していくか、そこがチャレンジでもありました 」と語る。

場所の文脈を反映した会場構成。


展示の背景には波打ったメタル製の壁面が設えられた。表面には展示されたドレスの色が投影され、一枚の絵のようにも見えてくる。メタルを使う案は美術館建築から着想したそうだ。


「展覧会の空間デザインにおいて、そのロケーション自体の文脈が反映されることがなかなかないだけに、今回はそれを取り入れたかったんです。建物外観のメタル壁面に通じるインダストリアルな素材は、服飾展に使うには意外性もある。波型のシェイプは、ディオールのドレスを彷彿させる女性的で優美なラインを表現しました」と重松氏。ちなみに、美術館の設計は、ニューヨークのワールドトレードセンターマスタープランなどでも知られるダニエル・リベスキンドによるものだ。


ミュラーは「マスキュリンなメタル素材の表面にフェミニンなドレスの表情が映り込み、エフェメラルな効果を生み出しています。男性性と女性性が共存しているのは、ディオールのアイデンティでもある」と解説する。重松とのコラボレーションについては、「彼はブランドの歴史を深く理解し、ディオールの全てを知りたいというほど意欲的だったわ。まずはドレスが主役であるべき、建築はドレスを美しく見せるのを助けるためのもの、という姿勢で取り組んでくれたことはとても感謝しています」


重松はこう述べる。「服飾展のデザインはコミュニケーションデザイン的なところもありますね。それぞれのドレスが持っているストーリーをどのように伝えるか、その環境づくりが大切。ファッションの分野は最近になってようやく美術館の中で展示されることが多くなってきているから、アートに比べて展示の方法がまだ確立されていません。だからより実験的なことができる可能性があるところが面白い。ディオールは老舗というプライドも持ちながら、こうした新しい見せ方を受け入れる度量もある。そういう意味では、建築やアートにはない、ファッションならではのいい意味での軽さ、スピード感がよい刺激になりました」

ディオールが愛したグランヴィルの庭を散歩するかのようになだらかに結ばれた15のブースを巡回していくと、フィナーレには展覧会のタイトルでもある「From Paris to the World」と題された部屋に辿り着く。


花びらをかたどった段状のステージには、7人のデザイナーたちの作品約50点の盛大なディスプレイがある。ブランドの遺産と時代を先駆ける感性と。相乗効果を成して華麗に咲いた大輪の花のようなドレスたちは、フランス文化の象徴でもあり、これからも世界中の女性たちを魅了していくに違いない。

ディオール:パリから世界へ(Dior : From Paris to the World)

日程/〜2019年3月3日

会場/Denver Art Museum

入場料/100 W 14th Avenue Pkwy, Denver, CO 80204

Tel./+1-720-865-5000
https://denverartmuseum.orgフロランス・ミュラー(Florence Müller)

デンバー美術館のテキスタイルアート&ファッション部門キュレーター。昨年パリで開催された「ディオール:夢のクチュリエ」展のほか、2012年には「イヴ・サンローラン」回顧展をデンバー美術館で企画した。これまで世界各地で100以上の展覧会に関わっている。

重松象平(Shohei Shigematsu)

世界各地でさまざまなプロジェクトを展開する建築事務所OMAのパートナーであり、NYオフィスのディレクター。ファッション関係のプロジェクトとしては2016年にメトロポリタン美術館コスチュームインスティテュートで開催された「マヌス×マキナ」展のデザインなど。

Photos & Text: Akiko Ichikawa Editor: Maki Hashida

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