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「Y/プロジェクト」のグレン・マーティンスがインパクト大の「アグ」とのコラボブーツを語る

  • 2018.12.17
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近頃、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)やサミュエル・ロス(Samuel Ross)を筆頭に、建築をバックグラウンドに持つデザイナーが活躍している。グレン・マーティンス(Glenn Martens)もそんなデザイナーの一人だ。もともと建築を学んでいたが、ひょんなことからアントワープ王立芸術アカデミーにデザイン画を送ることになり、見事合格。建築で養った感性を生かしたシルエットは、脱構築的で斬新とすぐに評判となり、アントワープ卒業後は「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」のデザインチームに参加。その後、ヨハン・セルファティ(Yohan Serfaty)「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」デザイナーのファースト・アシスタントとして手腕を振るい、参加からわずか2年で同ブランドのクリエイティブ・ディレクターに就任した。2017年にはフランス国立モード芸術開発協会主催の「ANDAMファッション・アワード(ANDAM Fashion Award)」でグランプリを受賞し、19年にはゲストデザイナーとしてピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)の19-20年秋冬メンズ・コレクションを発表するなど、躍進著しい。

そんな次世代のファッションシーンを担うであろうマーティンスに、クリエイティブ・ディレクター就任の経緯から、デザインのバックグラウンド、18-19年秋冬コレで強烈なインパクトを放った「アグ(UGG)」とのコラボブーツ、そしてブランドの展望までを語ってもらった。

WWD:13年にクリエイティブ・ディレクターに就任したが、その経緯は?

マーティンス:設立者のヨハンが亡くなってしまったタイミングで、ブランドの最高経営責任者(CEO)であるジル・エラロフ(Gilles Elalouf)から「クリエイティブ・ディレクターに興味はないか?」とアプローチを受けたんだ。引き受けるかどうか、とても悩んだよ。だってヨハンと共にブランドで働いていたスタッフはもちろん、顧客だって喪に服している状態で引き継ぐんだ。でも受け入れて、ヨハンに敬意を表して彼のクリエイティブにできるだけ近いクリエイションから始めて、ゆっくりとゆっくりと僕自身のクリエイションに寄せていった。僕のアイデンティティーを全面に打ち出したコレクションを見せるまでに2年を要したよ。それからは“らしさ”を全面に出して、「Y/プロジェクト」の新しい一面を開拓していった。今では、就任当初とまったく違うブランドになっているよ。

WWD:ブランド名の「Y」と「PROJECT」は、それぞれ何を意味している?

マーティンス:「Y」は設立者のヨハン・セルファティからだけど、「PROJECT」についてはきちんと説明を聞いたことがないから、本当の意味は僕にも分からない。個人的に「PROJECT」は、洋服だけにとどまらず、音楽から芸術まで彼のクリエイティブなビジョンすべてを表す言葉だと思っているよ。

WWD:ヨハンの他に影響を受けたデザイナーは?個人的にはマルタン・マルジェラ(Matrin Margiela)かと。

マーティンス:90年代の人間だから、マルジェラと共に育ったと言っても過言ではないね。マルジェラは、単なるデザイン以上のものをつくりあげる人物だ。もちろん他のデザイナーにも刺激を受けていて、華やかなジョン・ガリアーノ(John Galliano)時代の「ディオール(DIOR)」も、ラフ・シモンズ(Raf Simons)の概念も、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)の奇抜さも大好きなんだ。アントワープ王立芸術アカデミーに入ったのも、アントワープの6人(Antwerp Six)を追いかけていたからさ。今、1990年代と2000年代が再び注目を集めているけど、それは90年代に子どもだった僕らの世代が大人になり、自分たちのアイデンティティーを形成した時代を振り返っているからであって、自然なことだと思うよ。

WWD:脱構築的だったり、いろいろな要素をミックスさせたりするアイデアはどこから着想を得ている?

マーティンス:多様性を重要視している。やりたいことをやるべきと考えているからこそ、アイデアはあらゆるところから湧いてくる。今後、「Y/プロジェクト」でスポーツや、ストリート、クチュール、テーラリング、コルセット、ランジェリーなど、全く異なる着想源やコンセプトのあらゆる種類の洋服で構成する1つの広範なコレクションを作る計画があるんだ。

WWD:建築を学んでいたこともデザインに活きている?

マーティンス:建築物を設計することと、洋服におけるパターンを考えることは、“構造が大事であること”という点で非常に類似しているね。

WWD:ヴァージルやサミュエルなど、建築をバックグラウンドに持つデザイナーが注目されている。

マーティンス:注目を受ける理由はそれぞれある。それこそがファッションの面白いところで、成功するためのルールや理由なんてないんだ。とにかくファッション業界は、さまざまな才能であふれていると思うよ。

WWD:ヴァージルのようにメゾンへのデザインに挑戦したいと思う?

マーティンス:僕の中では常に「Y/プロジェクト」にプライオリティがある。就任した当初は、従業員が4人しかいなかったけど、今では25人もいる。アカウント数も5から170まで増えて、売上は700万ユーロ(約9億円)を達成した。ビッグブランドではないけど、驚くべき速さで成長していることは間違いない。今はとにかく「Y/プロジェクト」をもっとメジャーなファッションブランドにすることだね。

WWD:次世代を担う意味合いで、“NEXT OFF-WHITE”と称されることもあるが。

マーティンス:どちらもある意味でストリートウエアブランドだと思うけど、「Y/プロジェクト」の“ストリート”はコレクション全体の20〜30%しか占めていない。僕らにとってのストリートは、日々の暮らしを映し出す“リアリティ”という意味合いかな。だけどストリートからすべてのインスピレーションを得るようなブランドはいつの時代でも必要だと思っていて、今はそれが顕著だよね。

WWD:2018-19年秋冬コレクションでは、「アグ」とのコラボブーツが印象的でした。

マーティンス:コラボの依頼を受けることは多いけど、こんなにも自然にフィットした企画は「アグ」が初めてだった。「アグ」の誠実で大胆不敵な点と、「Y/プロジェクト」の流行を追わず面白いことを追求する点で最高に相性がよかった。2つのブランドが出会うべくして出会った感じだったね。

WWD:コラボして実感した「アグ」の魅力とは?

マーティンス:「アグ」の最初のシューズは、快適さと純粋な機能性を追求して生まれたけど、それが年月と共にアイコニックなシルエットへと発展していった。僕は、この歴史が内在するデザインに魅力を感じたんだ。履いたことがなかったから、コラボをスタートさせるときにブーツを送ってもらったんだけど、履いた瞬間にまさに“形態は機能に従う”というコンセプトを体現しているブーツだと感じて、支持される理由がわかったね。

WWD:「Y/プロジェクト」らしさをどう「アグ」のブーツに落とし込んだ?

マーティンス:ブーツのデザインの核に立ち戻り、それを強調する、あるいはそこにひねりを利かせるという「Y/プロジェクト」の伝統的な手法を用いた。それでいて、楽しさ、実験、よろこび、華やかさ、贅沢さを大事にした結果、“EXTRA LONG CRASSIC BOOTS”や“TRIPPLE CUFF”が生まれたんだ。

WWD:今回のアイテムを履きこなす際のアドバイスがあれば。

マーティンス:「アグ」のブーツはカリフォルニアではサーフブーツとして人気があり、ヨーロッパではファッションブーツとして愛用されているように、さまざまな理由で多くの人に履かれている。だからこそ今回のコラボブーツは、履く人によって、下に降ろしてダボつかせたり、スッキリと伸ばしたり、1つのシューズなのに何通りにも楽しめる。いろいろな人に自分の好きなスタイルを見つけてほしいね。

WWD:最後に、今後のブランドの展望は?

マーティンス:時代に合わせながらもいまの方向性を維持しつつ、業界の誇大広告に屈しないということかな。変にグローバルブランドになろうとはせず、面白いクリエイションでチームと楽しく仕事をして、多様性のあるコレクションをつくっていきたいと思っているよ。ただ「ANDAMファッション・アワード」でグランプリを受賞したことで、フランチェスカ・ベレッティーニ(Francesca Bellettini)=イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)社長兼CEOからクリエイティブとビジネス戦略についての指導を受けれたことは、ビジネス的にかなり大きかった。何よりもビジネスセンスを得られたことで、3年間でブランドが急成長することができた。日本への出店計画は……秘密だ(笑)。

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