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本格稼働から半年、大和ハウス主導の“シェアリング”物流は倉庫の常識を変えるか

  • 2018.12.5
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レンタルサービスやパーソナルスタイリングを手掛けるエアークローゼットが4月、AIやIoT、ロボットを活用した“シェアリング”モデルの「DPL市川」(千葉県市川市)に物流拠点を移転した。同社が資本・業務提携を結ぶ大和ハウス工業が開発した最先端の実験的倉庫で、子会社・ダイワロジテックがシステムを担当。エアークローゼットの他に通販サイトのwaja、オタク文化を発信するメディアTokyo Otaku Modeの3社が共同で物流倉庫を稼働させており、倉庫内にはGROUNDが開発した自動搬送ロボット“バトラー”も導入。従来の場所貸しという考え方ではなく、ささげや入出庫作業、保管などの利用率に応じて各社が利用料を払う仕組みをとっている。新物流拠点への移転から半年が経ったが、最先端の“シェアリング物流”から見えてきた可能性と課題とは。タッグを組んだ秋葉淳一ダイワロジテック社長と天沼聰エアークローゼット社長に話を聞いた。

WWD:そもそも、ダイワロジテックが新しい物流施設を作るにあたり、どのような背景があったのか。

秋葉淳一ダイワロジテック社長(以下、秋葉):大和ハウスグループに入って昨年時点で5年が経ち、ある程度物流に新しい技術を取り入れなければいけないと考えた。そんな中で、業界的にも人手不足が深刻となり、ロボティクスやAIをどう活躍させるかに焦点が当たるようになった。グループとしてもロジスティックに対して本気でやろうということで庫内ロボのGROUNDやバース予約のためのHacobuなどに出資をし、アッカ・インターナショナルをグループ化するなど、見える形の動きが増えてきた。これまで倉庫や商業施設などを建てることに対する価値提供はできていたが、人々の生活をどう豊かにするのか。作った建物に“血液を流すこと”こそが、今ロジスティックにできることだと考えた。

WWD:そうした思想のもとで4月にオープンした「DPL市川」の位置付けは?

秋葉:新しい物流の在り方を紙の資料で見せても理解できない人も多い。だったら実態を見てもらうことが最大の理解につながると考えた。何より新しい仕組みのいいところ、悪いところを見つけることは自社のためにもなる。さまざまな新しい仕組みを導入して実験的に、とはいえ倉庫を実稼働させるということはチャレジングなことだったので、賛同してくれる企業を集め、スタートすることにした。

WWD:この実験的な物流倉庫にエアークローゼットが参加した理由とは?

天沼聰エアークローゼット社長(以下、天沼):きっかけは秋葉社長の話を聞いて、物流に変革を起こすべきだという考えがしっくりきたから。これまでは業務改善をするにも倉庫は不動産業、仕組みは別会社という分断が起こっていた。しかし、われわれが見るべきは顧客で、顧客にとってはどんな梱包で届くのかは重要だが、その裏側までは関係ない。だからこそ、機能を進化させるためにも、われわれのような企業と物流業社が一体となって仕組みを作っていくことが必要だと感じた。

WWD:これまでの倉庫とは何が違うのか?

天沼:目線が変わった。これまで、例えば、いかに梱包を効率よくこなすかといった事業者目線の業務改善ばかりに目がいっていたが、「お客様にいいものを届ける」という目的をダイワロジテックも理解してくれた上で一緒に業務改善に取り組めることで、会社目線ではなく顧客目線のサービス改善が行えるようになった。

WWD:特にエアークローゼットは販売して終わりではなく、レンタル終了後の商品の検品やクリーニングといった複雑な工程がある。

天沼:われわれの仕組みが特殊だということではなく、通常のeコマースの物流と比べるとわれわれは圧倒的に業務量が多い。さまざまなサイクルをサービスの中に持っているので、その分発見も多く、そこがダイワロジテックからお声掛けいただけた理由だと思っている。

秋葉:ロジスティックという観点からも、機能が多いほど、それぞれの機能を進化させて単独で他企業に提案することができる。これも一つのシェアリングで、そういった意味では一般的な通販以外の企業に入ってもらうことには大きな意味があった。かつて私はヨーロッパで巨大な返品専用の倉庫を見て衝撃を受けたが、返品率が低い日本でも今後EC化率の上昇とともに返品量が増えるだろうし、そもそもネット通販に慣れた顧客が増えれば、返品率も上がるだろう。そうしたときに、レンタル後の商品の扱い方を応用した返品機能をアパレル企業に提案することもできるわけだ。

WWD:「DPL市川」では倉庫自体を3社で共有しているが、こうした倉庫機能の“シェアリング”も事業想定にあったのか。

秋葉:これまでのような人力での棚卸しには、たしかに倉庫内を区分する必要があったかもしれないが、ロボットの動きやすさを考えると、企業ごとに棚を分ける必要はない。庫内効率化のためにロボットを使うとなれば、そうならざるを得ないだけだ。

天沼:倉庫を区分けするというのは企業側の問題で、顧客にとっての価値提供という観点から考えれば、倉庫内のどこに商品があってもいいということだ。

秋葉:これまでの“坪貸し”という概念は、使う側にとっては場所を所有しているという安心感があるし、事業者としても借りてくれたことで安定収入が入るわけだが、この考え方が両者にとって弊害になっていたように感じる。例えば、500坪を借りると線引きしてしまうと、その範囲と契約期間を考慮した上での業務しかできない。オペレーションもそれぞれ独自になるので、隣の倉庫の費用対効果を比較することはないわけだが、複数社で一緒にやれば、標準の価格が見えたり、自社でやろうとしている付加価値のコスト感が明確になる。また自社の空間が決まっていると、自由にモノを置きがちになって、長い間売れない在庫に目がいかなかったり、結果として非効率的な部分が生まれることにもなる。

WWD:新しい“シェアリング”モデルの物流システムを半年運用してきた中で見えたメリットと、課題は?

天沼:この倉庫を使うことである種考え方を共有している部分もあるので、こうした取り組みについての他社からの問い合わせは圧倒的に増えた。また、スペース貸しだと契約期間が制限となり、それ以上の時間軸で倉庫業務を見ることができなかったが、今は直近の採算を度外視してでも10年先を見据えた話ができるようになった。他にも実験的施設ということで、新しいシステムやロボットが入ってきたときに利用できるスピードが圧倒的に速いこともメリットだろう。

一方、課題としては、新しい取り組みなので、これから品質の担保と人員リソースをどうするのかという課題が見え始めた。小さな課題は日々あるが、むしろ、これによって倉庫事業者との連携はかなり密になった印象だ。

秋葉:私は課題が出てくることが一番の価値だと思っている。先ほどの話にもあったが、これまでの倉庫業務の課題は「どうすればコストが下がるか」という企業視点での課題で、最終的な顧客に向けた価値の話ができていなかった。だから、これから出てくる課題は顧客目線で考えれば、そもそも課題ではないかもしれない。

WWD:ここで生まれた新しい仕組みをオープンにすることに対して抵抗は?

天沼:われわれだけで閉じてしまうと、進化が止まってしまう。もちろん僕たちが最前線を追い続けることは変わらないが、他社もそのプラットフォームを使えうことで進化のスピードが圧倒的に速まるので、相乗効果が生まれるだろう。

WWD:ここで得られた知見を今後どう発展させるのか。

秋葉:ここで得られた知見はすでに新しくできた「DPL流山」でも導入をはじめている。流山には大和ハウスグループが持つ広大な土地がまだあって、今後倉庫が増えれば、巨大な“物流タウン”ができるだろう。そうなれば倉庫同士でのシステムやノウハウのシェアリングは当然に起こるだろうし、そのための準備をしていると考えている。そもそも、これまでの物流は全国どこでも同様のサービスを提供するという“ユニバーサルサービス”が一般的だったが、実際には首都圏と名古屋、大阪がその利用の大半を占めている。だったらまずは首都圏でサービスの土台を作り、そのサービスを地域ごとにカスタマイズして広げていくべきで、市川からこうした動きにもつながることを期待している。

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