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家を持たないミレニアル世代が増加、働き方改革の先にある“アドレスホッパー”の実態

  • 2018.12.2
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定住する家を持たない、多拠点生活をするといった“住み方改革”がミレニアル世代に広がっている。仕事の多様化によって、働く場所が自由になり、家賃や公共料金を払ってまで一定箇所に定住する必要がなくなったことが背景にあるようで、エアービーアンドビーでその日の宿泊場所を探したり、友人宅を利用することで生活する。そんな彼らを“アドレスホッパー”と呼ぶそうだ。

具体的な例を紹介する。エアビーアンドビーに勤めるマット・マスイ=デジタルリードはまさに“アドレスホッパー”を体現した人物で、4年くらい出張と旅を続ける多拠点生活を続け、半年前に家を解約したという。“Unleashed habit.(解放された習慣)”という価値観のもとに、プロダクト製作をはじめさまざまな分野で活動する「オンファッド(ONFAdd)」の藤川保徳セールスマネジャーも、ブランドの海外展開に合わせて世界中を転々とする中で12月に家を解約することを決めた。2人は仕事的にも“アドレスホッピング”がぴったりとハマる役柄で、実際にまわりの“アドレスホッパー”を巻き込んだ数十人規模のコミュニティーを作り、「Hopping bar」なる定例イベントまで開催している。

具体的な生活スタイルについて、2人に話を聞いた。まず住む場所だが、同じ生活をする人々が世界中にいるため“ギブ&テイク”で家を貸し合うスタイルが主流だそうだ。「面白がってくれて場を提供してくれたり、面識のない友人の友人が家を貸してくれたり。今度はギブ&テイクの精神で、日本に彼らが来た際に僕の実家を開放しようと思っている」と藤川氏。こうしたやりとりは実際に現地で行われることが多いそうで、オフライン・ローカルにしかない情報が得られるのも“アドレスホッパー”の醍醐味だ。

しかし、こうした生活スタイルが増えることで、宿泊事業にデメリットはないのか。マスイ氏は「もちろん一番いいのはいきなり現地ローカルに飛び込むことだが、誰でもできるわけじゃないし、そうした場合に『エアビーアンドビー』はもっともローカルへのアクセスが容易なサービスだと思っている。だからもちろんサービスを使うこともあれば、あえてホテルに泊まることもあるし、選択肢の一つだろう」と説明。「そもそも、宿を寝るだけの場所と思いたくないし、寝るための場所だと家を借りた方がいいわけで。そもそも固定費だった家賃がただ変動費になるというだけではなく、ちょっと費用が増えてもそこで得られる経験とか、そもそもその地域にお金を落とすことでみんながハッピーになることとか、そういった側面がある。“アドレスホッピング”は結局オフラインの濃度を楽しむためのもの。非合理にみえるが、そこで得られるものはお金じゃ買えないし、モノでも測れない。コンテンツにできない、言語化できないものだ」と補足する。

その上でマスイ氏は、会社員としてのメリットを強調する。「僕はむしろ会社員でもできるということを伝えたい。基準としてこれまでの家賃と旅費がイコールくらいになればいいとは思っているが、そもそも比較するものではない。僕は会社員なので、出張経費で落ちる分も合わせれば、キャッシュフローとしてトータルで上手く成り立てば、それでいい。組織としての考え方もあるので一概には言えないが、オンラインで仕事ができる形であれば望む人誰にでもできるライフスタイルだ。今の社会では『職場の負の環境から逃げたくてリモートワークを選ぶ』という構図が多いが、それは概念として間違っている。働き方については制度化されがちだが、どちらかといえば精神的な部分が大切で、それぞれがどうすれば働きやすいかが大事。“アドレスホッパー”でも海外を転々とする社交的な僕らのようなタイプがいれば、一方で都内だけを移動したり、日本にいくつかの拠点を構える人もいたりと、仕事に合わせてやり方はさまざま。僕はむしろ今会社に行くことがすごく好きで、実際に会った方が生産性が高いと思えることもある。でも、これは“アドレスホッピング”するからこそわかることかもしれない」。

“アドレスホッピング”から生まれた新しい働き方のアイデアも

東京で一級建築士として設計事務所に勤めていた木津歩氏も“アドレスホッパー”の一人だ。今年3月末に事務所を退職して以降、当初は家賃がないために千葉の実家をはじめ国内外を転々とするようになった。そんな中でみずから“居候男子”を名乗り、1カ月ごとの滞在であれば、地域と遠すぎず近すぎない客観的な関係性で地域の面白さを発信できるのではないか、と考えるようになったという。その一つのアウトプットが木津氏が提唱する“関係人口契約”という地域との新たな関わり方だ。木津氏は8月に滞在した兵庫県香美(かみ)町に拠点をおくNPO法人TUKULUから契約料をもらう形で同契約を締結。移住と観光の間にいる関係性として、定期的なオンライン会議や企画立案などを行う。木津氏はこの背景を「かつて住んでいた地域も時間が経てば関係性が薄くなってしまうが、こうした定期的な関係性を作ることで離れた地域が身近に感じられる。地域にとっても、企画やクリエイティブを自分ゴト化して考えてくれる若い人を求めている。ゆくゆくは地域おこし協力隊の新しい形として行政と組みたい」と説明する。「副業解禁という話題は多いが、実際に東京に住んでいて消耗するだけの副業では、副業がスタンダードになるのは難しい。こうした取り組みは、個人にとってもメリットのある形で副業化できるかもしれない」。

木津氏は“関係人口契約”締結に並行して、クリエイティブ面を担う創作ユニット「hyphen,」をデザイナーやエンジニア、カメラマンといった友人とともに立ち上げた。10月にはチームでの活動を増やすため、移住お試し制度を活用してチーム全員で青森県十和田市に移住、現地からの発信を続けた。その結果、最終日に現地で行ったイベントをSNSで見た別の地域から打診があり、来年2月には宿泊費・旅費を負担してもらう形で別地域への移住が決まったという。「関係人口契約もこの生活の中でお金をもらえる仕組みを考えた結果だが、例えば、企業から協賛金をいただく形で地方移住を実現するなどして、今後チームとして生計が立つことが目指すところだ」と木津氏。会社員として出張の延長に“アドレスホッピング”をする人もいれば、木津氏のように“アドレスホッピング”の中で新しい仕事のあり方を模索する若者もいるわけだ。

一方で、気になるのが彼らの荷物についてだろう。藤川氏いわく、「『オンファッド』のバックパックとスーツケースだけ。2週間くらいならトランクもなしでも大丈夫。それ以外は実家に置いてある」という。実家に荷物を置く“アドレスホッパー”は多いらしく、その背景には「定期的に帰ることが増え、実家との関係性がより濃くなる」という側面があるようだ。その他、荷物預け入れサービス「サマリーポケット」のようなクラウドサービスを使う“アドレスホッパー”も多い。

「サマリーポケット」を生み出した山本憲資サマリーCEOに聞くと、「“アドレスホッパー”というライフスタイルを送っている人たちが『サマリーポケット』を愛用してくれていると聞いて、うれしい限り。実際にはモノを所有をしておきながら、リアルには持たなくていい状況はリアルのバーチャル化がさらに一歩進んだ感じがする。そういう想定をしてはじめたサービスではないものの、サービス当初から掲げている“ライバルは四次元ポケット”という観点からすると、少し近づけた部分があるのかなと思う」とコメント。実際に同社のオウンドメディアでも”アドレスホッパー”実践者のインタビューを紹介しているほどだ。

こうした一連の話を聞いて感じたことは、ミレニアル世代にとって“働き方”だけではなく“住み方”が重要なのではないかということだ。アドレスフリーにシェアオフィス、リモートワークなど“働き方”に関する定義が次々と出てくる一方で、“住み方”に対する提案はまだ数少ない。こうした働き方を実現するにもそんな柔軟に住む場所がない、という場合も多いはずだ。一方で、“アドレスホッパー”というキーワードを企業が一過性の消費トレンドとして扱う懸念もぬぐえない。彼らいわく、具体的なノウハウは自分自身が参加してみないとわからないわけで、マストレンドとして単語だけが消費されることを危惧しているそうだ。まずは新しい暮らし方の一つとして世間認知が広がることが重要なのかもしれない。

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