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なぜ私たちはアップル製品に魅了されるのか。ジョニー・アイヴに聞きました(後編)。(Saori Masuda)

  • 2018.11.21
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なぜ私たちはアップル製品に魅了されるのか。ジョニー・アイヴに聞きました(後編)。(Saori Masuda)
2018.11.21 08:00
アップル社のあらゆる製品のデザイン総指揮をとる、チーフ・デザイン・オフィサーのジョニー・アイヴ。どんな質問にもまるで数式を解くように答え、アップル流のオチをつける。話を聞いていると頭のなかが整理されていく話し方にすっかり引き込まれました。それでは、2018年11月20日にアップしたインタビューの続き(後編)をお届けします。

ーー差し支えなければ、これまで手がけてきた製品のなかで最も気に入っているものをお聞かせください。


JI
いい質問ですね。デザイナーにしろデザインチームにしろ、現在進行中のデザインに集中していますからね。まだ結果が見えていないもの、つまりは先のことで頭がいっぱいで、心はここにあらず未来にあるというわけです。また、課題の解決に取り組んでいるため、野心的なアイディアに心を躍らせながらも、困難な課題の解決に躍起になるという、なかなかおもしろい状態にあります。そんなわけで他のことは考えられませんが、実際に使用中の製品が好きなので、お気に入りはこのウォッチかな。Apple Watch Series 4は、私にとって非常に重要な意味を持つ製品です。また、iPadやiPhoneも気に入っていますよ。このiPhone(XS)と、あちらのiPad(最新のiPad Pro)です。

ーーでは、そのなかで最も長い時間使用する製品はどれですか?


JI
どうかな。いつも身に着けているのはウォッチです。おもしろい。いい質問ですね。深い意味を秘めているという点で、実に良い質問だと思います。例えば私は、ウォッチを通じて通信世界と繋がっており、ウォッチは私自身と繋がっています。機能とは何か、「使用中」の概念をどう定義し、理解するかといった点が興味深いですね。私は、今このウォッチが「使用中」だと考えます。なぜなら、私が動いているか静止しているかを検知しているから。常に私と個人的かつ親密な繋がりを保っていると考えれば、常時使用中であると言えるでしょう。しかし、ないと困るのはスマートフォン。よくスマートフォンを使用しますし、新作のiPadにも夢中です。繰り返しになりますが、Apple Watch Series 4は私たちにとって重要な意味を持つ製品で、一連の製品には興味深い繋がりがあります。こうして並べてみると、わかるはず。たとえばウォッチのスクリーン。iPadをオンにすると——私のiPhoneと見比べていただくと、ディスプレイに共通点があることがわかるでしょう? 通常、ディスプレイの四隅は角ばっていますが、こちらのiPhone、iPad、そしてウォッチのディスプレイは……。

ーー丸みを帯びていますね。

JI そう。このシリーズ特有の関連性があることがわかります。今までにはなかったことですよ。

ーーなるほど。


JI
私たちの願いが実現したのです。以前から、製品を見てバラバラの部品の寄せ集めのような印象を受ける度に、少しばかりの悲しさと失望を感じていました。もちろん、ディスプレイもシリコンも、すべて自社で開発したものではあるのですが。ただ、製品が個別の部品の寄せ集めにすぎないという感覚があると、製品体験自体ががらりと変わってしまいますし、がっかりします。一方、新作のiPadとiPhone、Apple Watch Series 4は、完全に一体化されていると感じます。ディスプレイと物体(モノ)の境目があるようには感じられず、高度に一体化された製品のように感じられるのです。アップルが自社でソフトウェアとユーザーインターフェイスの開発を行っているおかげで、同業界における他社のセット製品にはない独自の体験が得られます。私にとっては実にエキサイティングなことであり、長年この日が来ることを心待ちにしてきました。

ーーすごいことなのですね。ところで、数百万あるといわれるアプリのなかで最も使用頻度の高いものは何ですか? 


JI
うーん、どうでしょう。メッセージやEメールはよく送るし、もちろんSafariもよく使いますよ。

ーーアップルイベントではゲーム用アプリなどが発表されますが、ご自身は利用されますか?


JI
たいていは、先ほど挙げたアプリを使用しています。カメラも結構使いますね。新作i-Phoneに搭載されたカメラが気に入っているんです。

ーーインカメラのような。


JI
そう。このインカメラを使用するときには、複数のセンサーによる顔認証を使用するのですが、メインのカメラがずば抜けて優秀ですね。なぜ優秀かと言うと、先ほども申し上げたようにアップルは光学系のデザインだけでなくシリコンやソフトウェアのデザインも手掛けているので、ユーザーが最終的に複数の要素と技術から成るカメラを体験することになるからです。ところで、スクリーンタイムは使ってる? あれは面白いですよ。

ーーもちろんです。


JI
面白いし、自分が何をどれだけ使用しているか把握できるしね。 

ーーはい。私の場合は、特にインスタグラムを利用している時間が多いということを教えてくれています。話は少し飛びますが、近年、持続可能性(サステイナビリティ)が何かと問題になりつつあります。9月にアップル パーク(本社)に隣接するスティーブ・ジョブズ・シアターで行われた発表会では、アルミニウムを再生利用されているとおっしゃっていました。


JI
その通りです。

ーーハイテク製品は、持続可能な製品になりうるとお考えですか?



JI
持続可能性とは、言うまでもなくシニカルで多くの意味を持つ言葉であり、この件については話が尽きません。個人の集合体としても企業としても、私たちが非常に心を寄せている問題であり、これまで多くを学んできました。学びの成果については世間に示してきましたし、我が社の製品はあらゆる意味において持続可能なものになりつつあります。デザインと製造の拠点でもあるキャンパス(アップル パーク 本社)では、すべてのエネルギーの生成から、製造方法や仕様材料まで、すべてが持続可能性を考慮しています。我が社には優秀な材料工学者のチームがおり、弊社で使用する材料は、デザイン面に優れていることはもちろん、様々な能力を秘めています。ミラネーゼストラップやラバーストラップを例にとっても、素材がフォルムや知覚体験を形成していることがおわかりいただけるでしょう。


アップルではアルミニウムを多用しています。他の材料についても研究を続けていますが、アルミニウムが、素材として非常に優れていることからとても注力・注目しています。100%再生素材でこれほどの品質のものを製造するのは、まさに偉業です。皆さんは、私たちがどれほど苦労したか気づかないでしょうが、チームは素晴らしい仕事をしましたし、このようなエンクロージャの開発の一端を担えたことを心から誇りに思います。私たちは持続可能性を重視しており、今後ますます持続可能性の高い製品づくりを行っていくつもりです。この15、20年で我々がどれほど進化したかをご覧いただければ、私たちが多くを学び進歩していることがおわかりいただけるでしょう。

ーーもう時間がきてしまいましたので、最後の質問です。ヴォーグはファッション誌なので、ファッションについてお聞きします。ファッションデザインとして、個人的にどのようなデザインがお好きですか?


JI
デザイナーとしては、異なるデザイン手法のあいだにあるとされる壁の多くは、人為的なものだと考えています。ホテルであれ製品やシューズのデザインであれ、デザイナーが用いる創造工程の基本は変わらないはず。とは言え、分野によって異なる特殊な技能やノウハウはあるので、昔からデザインには幅広い興味があります。スーツのテーラリングでも何でもね。今着ている45 RPMなどは大好きですよ。

ーー東京で買われたのですか?


JI
数日前、ニューヨーク店で買いました。建築であれ何であれ、デザインは大好きです。なかでも、ファッション界には親しくしているファッションデザイナーが大勢います。

ーー具体的に名前を挙げていただけますか?



JI
あなたの知っているデザイナーの大半とは、知り合いですよ。僕が何よりも畏怖しているのは、デザインに見られる実践と規律。ファッションの世界における専門的知識や先見性、そして野望の大きさは並外れていますね。個人的に励みになりますし、刺激を受けます。それに、偉大なファッションデザイナーの持つ技能と言ったら……。

ーー分野を問わず、お好きな日本人デザイナーはいますか?



JI
いますよ。いないと言うべきかもしれませんが、もちろんいます。オフレコであれば、いくらでも名前を挙げますよ。

ーー今日は貴重な時間をいただき、ありがとうございました。



JI
お会いできてよかったです。

ーーこちらこそ。屋久島で開催されるApple Watch HERMESイベントで、またお会いできるのを楽しみにしています。屋久島は、宮崎駿監督の映画「もののけ姫」の舞台になったところともいわれているところなのですよ。



JI
それは初耳です。縄文杉のことは知っていましたが…。では、また屋久島でお会いしましょう。


屋久島で行われたApple Watch Hermesのイベントでは、アップル社とエルメス社とのコラボレーションの秘訣をジョニー・アイヴとピエール=アレクシス・デュマ(Executive Vice President in charge of Artistic Deirection, Hermes)が語る記事を本誌2019年2月号で掲載します。是非チェックしてみてください。

ジョナサン・アイヴ(通称 ジョニー・アイヴ)

アップル社 チーフ・デザイン・オフィサー。

ロンドン生まれ。ニューカッスル工科大学でデザインを専攻。1989年、ロンドンでデザインコンサルタント会社、タンジェリン社を設立。1992年カリフォルニア、クパチーノにあるアップル社入社。スティーヴ・ジョブズにクリエイティブ・パートナーとよばれた。iMac、PowerBook、iBooks、iPod、AppleWatch、AirPods、HomePodなど、アップル社のすべての製品やそれぞれのパッケージングのデザイン、アップル パーク(本社屋)や世界各国のアップルストアなどの建築プロジェクトの責任者。2005年、英広告賞『D&AD Award』President's Award、2013年同the Best Design Studio of the past 50 yearsを彼とチームが受賞。ニューヨークのMoMAやパリのポンピドゥセンターなど世界の美術館に彼のデザインした製品が展示されている。また、2013年には大英帝国勲章を受章、イギリス王室からサーの称号授与。


Jony Ive Portrait Photo: © Apple Inc.

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