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なぜ私たちはアップル製品に魅了されるのか。ジョニー・アイヴに聞きました。 (前編)。(Saori Masuda)

  • 2018.11.20
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なぜ私たちはアップル製品に魅了されるのか。ジョニー・アイヴに聞きました。 (前編)。(Saori Masuda)
2018.11.20 18:00
私たちが日常的に使っているiPhoneを始めとするアップル社のあらゆる製品のデザイン総指揮をとり、故スティーブ・ジョブズが彼を“クリエイティブ・パートナー”と呼び、ジョブズとともにiPhoneやiPodなどを作ってきた、アップル社 チーフ・デザイン・オフィサー、ジョナサン・アイヴ(通称ジョニー・アイヴ)。11月初旬、私は来日中の彼にインタビューするチャンスに恵まれた。


これだけ多くの人に愛されているハイテク製品を作ってきた人は、テック系の話が得意な“オタク”な人なのだろうか、それとも案外気さくな人柄なのだろうか、などといろいろな推測をしながら、少し緊張ぎみに指定された場所にひとりで向かった。


インタビューが行われたのは、都内某ホテルのスイートルーム。部屋に入ると、カジュアルな装いのイギリス紳士が「ハロー、ジョニー・アイヴです」と手を差し伸べながら、出迎えてくれた。彼は、フルーツやケーキが並ぶビュッフェの前に立ち、飲み物をすすめてくれた。そして、私たちは最近発売されたばかりのiPad ProやApple Watch Series 4などが並んだテーブルに向かった。


今回のインタビューで私は、アップルの製品がなぜこんなに多くの人に愛されるのか、それぞれの製品(特に多くの人に馴染みのあるiPhone)はどのような過程を経てデザインされるのか、ヒットするデザインの秘訣は何なのだろうか、テック系ガジェットにそんなに興味がなかった私がアップルウォッチやiPad Pro、iPhoneこんなにも魅了されるのはなぜなのか、などといった素朴な疑問が少しでも解けたら、という思いでインタビューにのぞんだ

ーー10月30日にニューヨーク、ブルックリンでのイベントで発表されたiPad Pro、早速使っています。スクリーンが美しくて、とても気に入っています。

ジョナサン・アイヴ 以下JI それはよかった。

ーーところで、コンデナスト・ジャパン社が独自に行なっているヴォーグの会員を対象とした調査で、最近、アップル社の製品がシャネルやルイ・ヴィトン、グッチなどと同じように、ラグジュアリーブランドとして認識されていることがわかり、少し驚きました。

JI ほんとに? それはすごい

ーーもはや彼女たちにとってiPhoneは単なるスマートフォンではなく、ラグジュアリーアイテムなのでしょう。消費者の思考の変化に驚きました。

JI 何が変遷しているのか考えると、興味深いですね。人間は進化し学び続けますから、「ラグジュアリー」という言葉の意味や定義が移り変わっていることも考えられます。また、言うまでもなく私たちも変化し、学んだことにもとづいて新たな製品を開発しています。つまり、この結果にはふたつの要因が関係していると考えられますね。いずれにせよ、人によって「ラグジュアリー」の意味が異なることがわかり、非常に興味深いと思います。

ーー高級感があることに加え、高度なデザイン性を兼ね備えた「クール」なものといった意味なのかもしれません。

JI 確かに。人々は、製品に深みと誠実さを求めているように感じます。単に新しさが求められているのであれば、新しいものをデザインするのは簡単です。しかし、今までにないものを作るのは容易で、それが既存のものを上回っていなければ、責任ある素材や資源の利用を実践しているとはいえません。最近は、人々のあいだでも消費者の購買行動には責任が伴うという意識が高まりつつあるように思います。また、製品には実用的な素材使い、使いやすさ、そして配慮(care)が求められているとも。15年前であれば、新しいものに対する貪欲な好奇心がすべてで、ただ新しければ価値があると思われていたかもしれませんが。

ーーそうですね。

JI  今では、そういったことも少なくなりましたね。

ーー数あるスマートフォンのなかから(日本では特に)iPhoneが消費者に選ばれている。その理由をどう分析されますか? 

JI デザインをするうえで最も難しいのは、さまざまな先入観や課題のバランスをとることです。アップルは、他社を模倣しません。この市場でアップルが模倣されていることは、皆さんご承知の通りですし、異論もないでしょう。

ーーなるほど。

JI 何より興味深いのは、アップルが他のメーカーを模倣していない——つまり、アップルが他のメーカーに目を向けていないこと。我々の視線の先には、我が社の顧客がいます。他のメーカーは、アップルに比べると顧客への関心が薄い。彼らはアップルのやっていることばかり気にして、模倣します。しかし、製品を販売する相手である顧客に注目すれば、製品を作る理由が明確になります。製品は、顧客のために作るものなのです。そして、顧客には製品に込められた配慮(care)や誠実さ(integrity )を感じ取り、享受する力があります。彼らは、実際に言葉で指摘し表現するよりも、はるかに多くのことを感じています。たとえば、誰かに「この製品のどこに魅力を感じますか?」と尋ねたとします。大抵の場合、彼らは説明に苦労するでしょう。しかし、言葉で説明しにくいところこそ、直感的に感じた何かがあるのです。その何かが、我が社の製品に込められた配慮だといいですね。実際、配慮を尽くして製品を作っているので、きっと感じ取ってくれているはずです。配慮のない製品からは、配慮のなさが感じ取れるようにね。日本語に翻訳すると伝わらないかもしれませんが、英語における「無配慮」(carelessness)は、かなり重みのある言葉なんですよ。いずれにせよ、アップルは配慮を重んじていますし、人々のためにデザインすることを第一に考えています。他社の動きを見て行動するようなことはしません。

ーー製品を作る上で、最も重要視することは何でしょうか? それは、結果……つまり顧客の反応でしょうか?

JI それも必要ですね。まずは、顧客にとって素晴らしい製品を作ろうとする。素晴らしい製品とは、様々なものが組み合わされたものであり、大きなコンセプトにもとづくものです。最近の製品は大変複雑で、シリコンチップ等のハードウェアやソフトウェア、そして物理的な物体(オブジェ)をも含む様々なものを組み合わせ、統合しています。アップルは、70年代以来ハードウェアとソフトウェアの両方をデザインしている点で、きわめて珍しい企業です。アップル製品の体験は、一体化された体験であり、切り分けることはできません。ハードウェアとソフトウェア、そしてオブジェのすべてがしっかりと一体化された製品にこそ、アップルの真価が発揮されていると言えるでしょう。その意味でも、切り分けて考えるべきではないと思います。

ーーなるほど。差し支えなければ、これまで手がけてきた製品のなかで最も気に入っているものをお聞かせください。


(この続きは次回(2018年11月21日にアップします)

ジョナサン・アイヴ(通称 ジョニー・アイヴ)

アップル社 チーフ・デザイン・オフィサー。

ロンドン生まれ。ニューカッスル工科大学でデザインを専攻。1989年、ロンドンでデザインコンサルタント会社、タンジェリン社を設立。1992年カリフォルニア、クパチーノにあるアップル社入社。スティーヴ・ジョブズにクリエイティブ・パートナーとよばれた。iMac、PowerBook、iBooks、iPod、AppleWatch、AirPods、HomePodなど、アップル社のすべての製品やそれぞれのパッケージングのデザイン、アップル パーク(本社屋)や世界各国のアップルストアなどの建築プロジェクトの責任者。2005年、英広告賞『D&AD Award』President's Award、2013年同the Best Design Studio of the past 50 yearsを彼とチームが受賞。ニューヨークのMoMAやパリのポンピドゥセンターなど世界の美術館に彼のデザインした製品が展示されている。また、2013年には大英帝国勲章を受章、イギリス王室からサーの称号授与。


Jony Ive Portrait Photo: © Apple Inc.

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