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うつわディクショナリー#39 美しき薪窯の仕事、境知子さんのうつわ

  • 2018.10.31
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薪窯から生まれるうつわに、ひとつとして同じものはない

陶芸家の境知子さんは、夫の道一さんとともに香川県の里山で薪窯を用いてうつわを作り続けている。透き通るような白磁と乾いた大地を思わせるエキゾチックな焼締めは、どちらも上品でおおらか。きちんと手をかけて料理をしたくなるうつわです。

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—境さんは、さまざまな作風をお持ちですが、なかでも南蛮焼締めと白磁の表情が豊かで何を盛りつけようかと想像が膨らみます。

境:薪窯を使って焼物を作りたいと思ってこの仕事についたので、焼き具合によって表情に変化が出る焼締めは、私にとって大好きなものであり、大事なものです。そして、その焼締めの肌合いに一番よく似合うのが、白磁だと私は思うんです。

 

—白磁は、澄んだ白やブルー、グレーがかったものまで色味に微細な違いが見られますね。

境:焼締めは穴窯で6日間かけて焼くのですが、白磁は倒炎式という薪の窯で2日ほどで焼成します。薪窯は、薪をくべて温度をあげるのですが、炎の流れに沿って薪の灰が窯の中の作品に降り注ぎ溶けて釉薬となってうつわに色味や表情を与えます。自然の力に任せながら、炎の流れを予想して窯の中のどこに置くとどんな作品ができるだろうかと予想しながら作るのも私たちの仕事の醍醐味。窯を開けるのが、毎回楽しみです。

 

—手間と時間のかかる仕事ですが、薪窯で作りたいというのが陶芸を始めた理由なのですね。

境:昔から里山歩きが好きなんですが、ある時、山道の途中に小さな薪窯を見つけて。聞けば、近隣に住む年配の方が趣味で始めた焼物の窯だというんです。そこで体験をさせてもらったら、土を扱う感じも、薪での素朴な焼き方もとても心地よく感じられて「この感じ、やりたい!」と。それはもう、直感でした。それを機に備前焼の職業訓練校で陶芸を学んだんです。

 

—いまのような作風になったきっかけは?

境:和歌山で作陶する陶芸家の森岡成好(もりおか・しげよし)さんの作品に出会ったことですね。薪窯で焼成した焼締めの碗や甕だったんですが、その力強さと佇まいに、その時も「この感じ、素晴らしい!」と感銘を受けて。弟子入りをお願いしました。

 

—散歩道で出会った薪窯が森岡さんの薪窯へと、ご縁を繋いでくれたのですね。森岡さんから学んだことで一番大きなものは何ですか?

境:薪窯とずっと一緒にやっていく生活というものでしょうか。森岡さんの工房での2年間は、仕事と生活の間に区切りのない、それはもう、別世界のような毎日でした。厳しさと心地よさが表裏一体の生活。その中で、たとえ女性ひとりでも大きな土の塊を運び、土を練り、作品を作り、薪を割り、窯を扱うことが当たり前だということ、自然とともに暮らし、焼物を生業とすることの姿勢を叩き込まれたのだと思います。そういう生活の中から生まれる、奥様で陶芸家の由利子さんのやわらかな白磁にも大きな影響を受けました。

 

—きりっとしたかたちも境さんのうつわの魅力です。

境:高台が小さくてそこからキューっと外に広がったような緊張感のあるフォルムの鉢やポットが好きなんです。ろくろをひく感覚は体が覚えていて、ぴんと張り詰めたギリギリのラインを狙うことができているかもしれません。ピッチャーなど洋風なかたちは、最初に簡単なデッサンをします。思い描くかたちに合う土の硬さや焼成温度など、すべてを想像し納得ができたら制作にとりかかりますね。

 

—どんなものを作りたいと思っていますか?

境:わくわくするもの、ですね。私がわくわくして作ったものは、手にとってくださる方もきっと同じようにわくわくして使ってくださるはず。薪窯の作品は、同じものはひとつとしてなく一期一会なところがありますが、それを一緒に楽しんでくれるお店やお客様がいてくださることがありがたいですね。

 

※2018年11月5日まで雨晴にて「境道一&境知子×雨晴 『碧と白』」を開催中です。

 

今日のうつわ用語【薪窯・まきがま】

薪を燃料にして焼成する窯。山の斜面などを掘って作る穴窯、斜面の地形を利用してレンガなどで複数の焼成室を連結して築く登窯、縦型の倒炎式窯などがある。

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