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週末は映画館へ。『バッド・ジーニアス』が最高にエキサイティング!(Toru Mitani)

  • 2018.10.26
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週末は映画館へ。『バッド・ジーニアス』が最高にエキサイティング!(Toru Mitani)
2018.10.26 17:00
全米で驚異のヒットとなり、日本の映画館でも外国人だらけで満員!となった『クレイジー・リッチ!』。キャストはすべてアジア人という作品ですが、もう1本、アジアのパワーをビシバシと感じる『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』が本当に素晴らしかった。ネタバレしないよう、レビューします。

2018年を代表する一本。間違いなく。


『スリー・ビルボード』『君の名前で僕を呼んで』『ザ・スクエア 思いやりの聖域』『アイスと雨音』『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』……と、2018年、色々と素晴らしい作品があったな、と振り返りつつ、先日観たこの『バッド・ジーニス 危険な天才たち』。え、これって今年を代表する映画のかなり上位にくる!!!と大興奮しました。とにかく、面白い!です。

カンニングで結ばれる、不可解な友情。


舞台はタイ、バンコクの進学校。この右の冨永愛さんにかなり似ている女の子が主人公です。名前はリン。学生ヒエラルキーだと、勉強ができるけど垢抜けなさすぎて第3軍、というような立ち位置のスーパー頭のいい彼女。左にいる、顔のハイスペックさと育ちの良さで天真爛漫に高校生活を謳歌するグレースから気に入られ、リンはけっこう早い段階でガリ勉・ガリ子から脱却。その薄皮が剥がれたせいか、リンは相当大胆なことを開始してしまうのです。まあ、カンニングに関連する何か、なのですが。

カーチェイス並みのスリリング。


安室奈美恵主演の『That's カンニング! 史上最大の作戦?』(1996年)で繰り広げられた、レトロで原始的な方法も登場します(たしか山本太郎が、ドレッドヘアの内側に解答を貼り付けてカンニングしていた)。が、今作で繰り広げられるカンニングはアクロバティック。アナログの極致をいく創意工夫から始まり、ハイテクな遠隔操作まで。そんな手があったか!と、カンニング歴のない人も関心するはず。そもそも、なぜこの学校でカンニングが蔓延していくのか。もちろん、学力の無い、努力しない生徒がラクをするためにデキる生徒にすがるわけですが、その駆け引きからは見えてくるのは、どの国にもあるスクールカーストの存在。でも今作では、映画やドラマで頻繁に描かれるようなイジメ、露骨な区別、差別はありません。じんわりと、物語が進行していく中でゆっくりとあぶり出されていく感じ。


カンニングのシーンは、手に汗を握ります。(あまり期待しないで観ていただきたいのですが)すごいです。バレたらおしまいですから、緊張感はマックス。『万引き家族』の子供たちがスーパーで万引きする「あ、なんか捕まらなさそう、、、かな?」というようなあの感じではなく、まるで自分がこの行為をしているかのような錯覚に陥るような。マークシートを記入する鉛筆と紙が擦れる音、乱れる呼吸、鼓動。それらが生々しく大きな音で響き、役者陣の緊張感あふれる表情も手伝って、こっちまで呼吸が乱れます。『セッション』(2014年)の演奏シーンを観た時も度肝を抜かれましたが、まさか、カンニングでこんな緊張感が得られるとは。しかもテスト中を眺めてるだけなのに。

格差ある4人が力を合わせて。


核となるのはこの4人。右が冨永さんに似ている主人公、リン(9頭身)。中央2人は、良くも悪くも余裕のあるお嬢&お坊ちゃん。左がもうひとりの天才、バンク。カンニングに関わっていく中で、リンとバンクは自問自答を繰り返し、考えが180度変わってしまったり、傷ついたり、そしてそれを癒し、置かれた状況の中を駆け抜けていきます。小学生からずっと成績はオールA。天才と呼ばれるふたりは、自分の内側にある“正義”と“悪”を向き合っていくわけです。色々な事件簿の中で。


学力を上げること、継続していくことは、アスリートから放たれるパッションと似ている。いや、同じであるということを今作から感じました。とあるきかっけで彼らはカンニングという表現を選んでしまいましたが、そこから放出される熱は、もう、本当に美しかった。絶対に変えることのできない、抗っても変わらない家庭環境(とか色々)。それを打破するための方法が、学力社会であるタイ・バンコクで生きてく術だと信じたふたり。


このパリピたちには絶対に味わえない、たどり着けない、美しい情熱を、リンとバンクから感じ取り、本当に心を打たれました。この人たち、ずるいんですよね……。けっこう嫌いです。でも、もちろんこの育ちのいいふたりも、さまざまな問題を抱えていたり、葛藤があったりするのですが。でも、僕の場合は主人公ふたりに心が同期したのでした。

サスペンスとしての、新しいバランス。


と言いながらも、このパリピをふくめ、4人の絆が描かれた側面もあります。後半では謎解きのエッセンスもありミステリー! カーチェイスが続くような感覚でアクション映画を観ている感覚にもなる。ひとりの人間の人生にフォーカスしたドラマでもあり、観終わった後は事実として淡々と描かれてはいたけど、“嘘のない”友情が描かれている。「俺たち仲間だよな!「私たちの友情、フォーエバー」という方向性ではありません。ただそこに存在した絆がポーン!と際立ち、本当に切なくなります。


そして、最後の最後にそれをシニカルに仕立て上げる仕掛けが。エンドロールで声を出して笑ったのは、けっこう初かもしれません。笑

フレッシュなタイの役者たち。


役者の演技もこの作品の魅力のひとつ。リン役のチュティモン・ジョンジャルーンスックジンはご覧の通り、9頭身のモデル。演技は初とのこと。彼女の瑞々しく、媚びない表現力、本当に素晴らしかった。モデルとしてのキャリアは長く、シャネルのコレクションに招待されたりも。バンク役のチャーノン・サンティナトーンクンは、苦学生が抱える切なさややるせなさを繊細に演じきっていて、最高。甘いマクスと鍛えたボディで中華圏や台湾での人気が過熱し、ヒットに拍車をかけたのだとか。監督は、僕と同い年のナタウット・プーンプリヤ。タイのアカデミー賞と呼ばれるもので、最優秀脚本賞等を受賞しているようです。


ミステリー、サスペンス、ドラマ、(ある意味)アクション、そしてほのか〜に漂う恋模様。スタイリッシュな構図、カット割り、断続的に効果的に耳に飛び込んでくるテクノ、アンビエントの要素を含む打ち込みなどで、テンポの良さも抜群。130分があっと言う間に過ぎ去る、濃密なエンターテインメント作です!


最後にインフォメーション。この作品は、とある国の学生が行なったあるカンニングをソースに誕生したとのこと。予告編やあらすじをみずに劇場へ行った方が、絶対に楽しめます。

Toru Mitani

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