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尖ってしまった心【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第22話】

  • 2015.3.4
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「無理? 今まで親身になってくれてたじゃない。私の弟だから無理してやさしくしてくれてたの?」

「ちがうよ。ちがう。慎ちゃんのこと、好きだよ。もっともっと元気になって欲しい」

「ほら、言ってることメチャクチャじゃない。てか、桃香、結婚願望なんか今までなかったじゃない。歌やってるから結婚はまだまだって言ってたよ。そりゃ慎吾じゃだめだよね。だってバイトの身分ですから。」

話が前向きに進まなかった。何を言っても鮎子の怒りに触れる。桃香は恋する気持ちにひたることが自分のわがままだと思えてきた。周りの人を傷つけてしまう。慎吾にやさしくしたのはたしかに好きだからだ。

その気持ちに偽りはない。冬馬があんなことを言うからクラリとしたのだ。冬馬とは昔のままの友達でいて、今まで通り慎吾と仲良くできればすべておさまる。

「鮎子、ごめん、私がおかしかった。自意識過剰のイヤな女になってたね」

鮎子は、目をそらしてまた歩き始めた。ブーツのかかとがカツンカツンと音を立てる。桃香は鮎子の背中を追いかけた。指の先がとても冷たい。そろそろ手袋が欲しいと思った。きっと鮎子の心も冷たく尖っているはずだ。

日曜日、自由が丘南口のシンガポール紅茶の店で慎吾と待ち合わせた。高級ホテルのラウンジのような高級な店構え。照明も控えめでしっとりした雰囲気。ほかのカジュアルカフェと違い、はしゃぎ声は少ない。

近隣に住む主婦層のアフタヌーンティーや、仕事の商談で使われることが多いのか。店名のロゴをおしゃれにあしらった紅茶缶が壁一杯にディスプレイされている。ふんだんな紅茶の品揃えを見ていると異国にいるようだった。ふわふわの白いセーターを着て桃香は慎吾を待った。ただ、胸の中には小さな渦巻きができている。

「桃香さん、今日は時間あけてくれてありがと」

慎吾が笑いながら桃香のいるテーブルに近づいて来た。

(続く)

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(二松まゆみ)