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ハリウッドが誇るリビングレジェンド、メリル・ストリープの女優人生。【ジーン・クレールが選ぶVOGUEな女性】

  • 2018.9.20
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ハリウッドが誇るリビングレジェンド、メリル・ストリープの女優人生。【ジーン・クレールが選ぶVOGUEな女性】
2018.09.20 17:00
今年も数々の俳優たちが栄冠を手にしたエミー賞授賞式。そんなエミー賞をはじめ、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞のすべてを制覇した女優がいる。その名はメリル・ストリープ。女優が憧れる女優であり、希代のスターである彼女の女優人生を、ジーン・クレールが振り返る。

女優としての原点は、今も昔も「舞台」。


本名はメリル・ルイーズ・ストリープ。その変幻自在の演技力で名声を確立している、世代最高の女優だ。21回のアカデミー賞ノミネートは、女優としては最多記録。うち3回は受賞の栄誉に輝いた。さらに、ゴールデングローブ賞では31回のノミネートに8回の受賞と、こちらも史上最多記録を打ち立てている。


そんなメリルの代表作としては、『クレイマー、クレイマー』『ソフィーの選択』『愛と哀しみの果て』といった名作の数々、そしてもちろん、ファッション業界を皮肉った『プラダを着た悪魔』(06)での怪演が挙げられるだろう。その長きにわたる映画界での功績が認められ、2004年にはアメリカ・フィルム・インスティチュート(AFI)から生涯功労賞を受賞している。


彼女の女優としての出発点は、学生時代にある。学校で多くの舞台に立った彼女は、当時からその才能を発揮し、演技は独学ながらクラスメートの間で絶大な人気を博していたという。


プロの俳優として、まずは舞台からキャリアをスタートさせたのは1970年代のことだが、当時のメリルは、ロバート・デ・ニーロに大いに影響を受けていた。大スターになった今でも、自らの原点となった舞台を大切にしており、出演するなら舞台の方が映画よりも好きだと公言しているほどだ。


デビュー後まもなく、舞台俳優として高い評価を得ていた彼女に大きなチャンスがめぐってくる。それがマイケル・チミノ監督の名作『ディア・ハンター』(78)での、デ・ニーロの相手役だった。当時、彼女は舞台での共演をきっかけに俳優のジョン・カザールと交際していたが、彼はその後ガンにむしばまれ、帰らぬ人となる。愛する人を失ったメリルの哀しみには計り知れないものがあっただろう。

順風満帆ではなかった女優道。


メリルはその後もさまざまな役を演じ続け、「彼女ならどんな役でも演じられる」との評価を得る。80年代、すでにスターとしての座を揺るぎないものとした彼女は、主演女優として、次々と新しい役に挑戦していく。彼女の出演作で私が一番好きな『ソフィーの選択』(82)も、この時代の作品だ。この撮影は彼女にとって過酷極まりないもので、一部のシーンはあまりにむごいため、1テイクしか演じることができなかったほどだという。とはいえ、フィルムに焼き付けられた彼女の演技はまさに圧巻だ。


だが、その翌年の作品『シルクウッド』(83)の評価は賛否両論だった。労働組合の活動家カレン・シルクウッドを演じた彼女の演技が絶賛される一方で、「ミスキャストだ」「この役柄への理解が足りない」との批判もあった。続く『愛と哀しみの果て』(85)も、彼女の代表作とされているが、「演技に奥行きがない」、さらには「セクシーさが足りない」といった酷評も相次いだ。しかし、「その演技に圧倒された」という声も多かったことは挙げておくべきだろう。


その後も多くの映画に主演するものの、すべてが大ヒットとは言えず、苦戦の時期が続く。だが、この経験から悪役に活路を見い出し、再び多くの賞を受賞するようになる。彼女にとっても最大級のヒット作であり、大人のラブストーリーを描いた『マディソン郡の橋』(95)では、クリント・イーストウッドと共演。この作品の彼女の演技も、実に味わい深いものがある。また、これだけ多くの作品に出演しながら、常に平均以上の演技で人々を魅了することも、特筆に値するだろう。

慈愛に満ちた、飾らないメリルの素顔。


私はニューヨークでメリル本人にお会いしたことがあるのだが、普段の彼女もユーモアにあふれ、心にゆとりのある素晴らしい女性だ。大女優として、これは驚くべき特質だろう。20代になるまで正式な演技のレッスンを受けたことはなかったが、役柄を演じるというよりもキャラクターになりきる、そのたぐいまれな能力は天性のものだ。


また、政治活動にも積極的で、2016年の大統領選挙では、ヒラリー・クリントン候補を支持するスピーチも披露している。プライベートでは落ち着いた、ごく普通の暮らしを守り、夫である彫刻家のドン・ガマーとの間に4人の子どもをもうけた。あらゆる人を愛し、自身の名声を使って、この世界がすべての人にとって住みやすい場所になるようにと気にかける彼女には、信心深いというよりは、スピリチュアルという言葉が似合う。驚くべき才能に溢れた希代の女優、メリル・ストリープは、誰からも愛され、尊敬される唯一無二の女性だ。

Text: Gene Krell

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