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ビョークとビジュアルチームが語る、『ユートピア』ツアーの舞台裏。

  • 2018.9.11
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ビョークとビジュアルチームが語る、『ユートピア』ツアーの舞台裏。
2018.09.11 13:30
世界に賞賛をもって迎え入れられた新作アルバム『ユートピア』を提げてのヨーロッパツアーを、夏の終わりとともにクローズしたビョーク。フルートや鳥のさえずりをふんだんに用いたロマンチックな桃源郷をステージに具現化した彼女が、最大の信頼を寄せるビジュアルコラボレーターの2人、イギリスの刺繍アーティストであるジェームズ・メリーと、「Distorted Drag」として知られるメイクアップアーティストのハングリーと共に、ツアーに登場したヘッドピースからシュールに咲く花のようなメイクアップまで、ビョークイズムに満ちたビジュアルの裏話について語った。

「アドバイスが必要になると、みんな、ビョークのところに行くんだ」

ビョーク アルバム『ユートピア』に込めたメッセージは、「明るい未来を思い描く想像力を羽ばたかせよう!」というものだった。つまり、地球が直面する環境問題について、絶望感を抱いたり悲観するのではなく、前向きに解決策を考えよう、見つけようと、呼びかけたかった。過去を省みると、どうしてもそこに囚われてしまって次のステージにポジティブな想像を巡らせることが難しいけれど、このアルバムを通して辿り着きたかった場所とは、まさにそこだった。

ジェームズ・メリー(以下、ジェームズ) 僕がビョークに初めて会ったのは、2009年。前作『バイオフィリア』(2011年)のツアーに付随する、子どものための音楽教育プログラムのリサーチを始めたばかりのときで、ロンドンに住む共通の友人から、ビョークがアシスタントを探してるって聞いて紹介してもらったのがきっかけ。それ以来のつき合いだよね。

ビョーク ジェームズと出会えたのは、人生でまたとない、天からのすてきな贈り物よ! あなたの「なんだって可能」というオーラが、私に大きな勇気を与えてくれた。今回のツアーのビジュアル的な仕掛けも、私たちの何気ない会話から生まれたのよね。

ジェームズ そう。僕らは常に、一緒に冒険の旅をしているよね。ツアーや撮影、ニューアルバムの制作、そして、新しいクリエーターの発掘……。ビョークといると、まるで取り憑かれた冒険家のようなエネルギーに浸れる。最高の気分だよ。彼女は、作品に無限のプレイグラウンドをつくりだす才能があると同時に、とても実践的で几帳面な部分もあるんだ。世間が捉えるビョークのイメージが「クレイジー」であることに、ちょっと違和感すら感じるよ。だって君は、とても強くて現実的な人。アドバイスが必要になると、みんなビョークのところに行くぐらいだから。

「自分でも驚くような一面を、互いに引き出し合えたら最高でしょ」

ビョーク 人間は、この世に生まれた時点で、独りで生きられる存在じゃないと私は思うの。上下関係というのも、あまり素敵とは言えないわね。だから、誰かとコラボレーションする時は、お互いの能力を称え合い、高め合えるような関係を築きたい。自分でも驚くような一面を、互いに引き出し合えたら最高でしょ。私は、ほとんどの楽曲を自分で作曲、アレンジしているから、孤独感に苛まれることも多い。他人と一緒に何かを、特にビジュアル面で何かをつくりだす時はいつも、みんなと一つになりたいと思っているわ。

ジェームズ 僕らのコラボレーションは、とてもゆっくり進行していったよね。まずは彼女のアシスタントとして働きはじめ、何年もかけて、少しずつビジュアル面での共同クリエイティブディレクター的な役割を担うようになっていった。以来、常に新しくてエキサイティングな経験をしている。多くの人は、僕のことをビョーク専門のヘッドピース作家だと思っているようだけど、それは比較的最近のことなんだ。

ビョーク 2015年頃、あるコンサートのためにマスクを作ろうとしていたの。蛾にインスピレーションを得たもので、自分で作るには、根気も刺繍の才能も持ち合わせていなかった。その話をジェームズにしたら、彼が黙って自分の部屋に引っ込んじゃったの。そして翌朝、彼がつくったものを見せてくれたの。それが、ガバナーズ・ボール・フェスティバルで私が被った、あの驚くべき刺繍の蛾のマスクよ。もう、本当に驚いたわ。

ジェームズ プロジェクトによってプロセスはさまざま。参考になるものを見せ合ったり、一緒に映画を観たり、長距離フライトの機内でアイデアを話し合ったり……。ヘッドピースも、それぞれに異なる物語がある。視覚的な手がかりだけでなく、感情やキャラクター、雰囲気まで、僕は毎回、できる限りの情報をビョークから引き出すんだ。そして、そのあと数週間をかけて試作品をつくり、彼女と微調整をしながら、最終形を仕上げるんだ。

「たとえ人類が突然変異を起こしても、自然とテクノロジーは共存できる」

ハングリー 私とビョークの出会いは、私のインスタグラムを見つけたジェームズが、私に『ユートピア』のメイクを依頼しないかってビョークに持ちかけてくれたのがきっかけ。私の作品の中では珍しい、綺麗なタイプの花のメイクをとても気に入ってくれたの。すぐに二人のいるロサンゼルスに向かって、一緒にテスト写真を撮影した。結局それが、アルバムのプロモ用写真に採用されたの。

ビョーク ハングリーはすごい才能の持ち主で、自分をしっかり確立している人。私の持論では、彼女のように自信を備えた人ほど、他者とのコラボにおいても自分を見失うことなく、強くいられるんだと思う。

ハングリー ビョークとの共同作業は、とてもクリエイティブよ。インスピレーションの“芽”を絶えずシェアしてくれて、新しいアイデアにも熱心に耳を傾けてくれる。

ビョーク 自分が求めるビジュアルに関して、妥協はしないわ。このアルバムの“主人公”は、とても覚醒している上に、過剰なまでにロマンティックな歌詞ばかり歌っているでしょう? だからメイクにも、ストレートな表現が必要だと思った。私が目指すものを共有するために、「スケルトン・オーキッド(蘭のガイコツ)」というフレーズを頻繁に使ったわ。楽観的な文明が滅亡した後の、生物学的に繁殖力が強まっている世界よ。たとえ人類が突然変異を起こしたとしても、自然とテクノロジーが手を取り合って共存していけるの。

ジェームズ ビョークが纏った蘭の形をした骨のヘッドピースと、それに呼応したフルート奏者のヘッドピースは、ビョークとの対話から生まれたんだ。よりSFっぽくするために、フルート奏者とビョークには、異なる造形と性質を与えた。『ユートピア』のビジュアルは、花の美しさが前面に出てしまいがちだったから、わざと生々しく、異世界の生物を想起させるようなものにしたかった。そうして完成されたヘッドピースによって、頭蓋骨から新たな蘭の骨が突き出て突然変異を起こした人間みたいに見えるだろう? 彼女たちは、人間と植物の間の生物なんだ。

「ツアー中、神秘的な感覚にいく度となく襲われたわ」

ハングリー 「ヴィヴィッドで有機的で女性的」というテーマを念頭に、メイクには赤を多用し、チークやアイメイクを強調したの。時には、まゆげに花のスワロフスキーやバラの花びらを使ったりもしたわ。


ビョーク
夏のヨーロッパは貪欲な生命力で満ちているから、今回のツアー中、神秘的な感覚にいく度となく襲われたわ。地球温暖化の影響か、あちこちで熱波や暴風雨が起こり、訪欧中のトランプ大統領に対するデモが行われていたりして、まるで熱帯のようだった。

ハングリー ロンドンでの公式ツアー初日に、ビョークがステージに上がった途端、フェスティバル会場のすぐ隣で雷雨が起こったの。自然の威力が炸裂するすぐそばで、それまでの努力がパフォーマンスに花開いた瞬間を目撃した。本当に、劇的なツアーの始まりだった。

ジェームズ トランプ大統領がプーチンとの会談のため、ヘルシンキに滞在していた日に、僕らもヘルシンキにいたんだ。まさに、ユートピアとディストピアの衝突。街中バリケードが張り巡らされ、2時間くらい足止めを食らったんだ。「未来のために、母権制や環境問題への解決策を見出そう」と唱えるツアーのすぐ近くで、あんなことが起こっていて……。あの不協和音は、忘れ難い思い出だよ。

ビョーク どこでやったショーも、それぞれに神々しかったわ。だけど、イギリスのエデン・プロジェクトからローマの古代遺跡まで、途方もないロケーションを探し回った中でも、私はスウェーデン公演が一番良かった。一番自由を感じながら歌えたし、没入感もあって、最高のナチュラルハイだった!

Text: Hattie Crisell

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