映画「コーヒーが冷めないうちに」では、実家を離れ自由に生きる女性を演じている吉田羊さん。お仕事での選択基準、毎日感謝帳をつけているというマイルールなど、吉田さんのお話には「素敵な女性」になれるヒントがちりばめられていました。
自分が選んだ人生を大切に生きること
ーー映画「コーヒーが冷めないうちに」では実家の老舗旅館を飛び出して、スナックを営む平井八絵子という女性役。彼女の生き方についてはどう感じました?
「私自身はすごく共感しました。私も5人兄妹の末っ子で2人の姉がいます。姉は私と違って、堅実な人生を歩んでいる人々(笑)。姉2人は自由に生きている私に対して、「いいね」と思う気持ちもありながら、自分が選んだ人生を大切に生きています。今の仕事を選んだときも、「ちゃんとしなさい」と意見を押しつけずに、両親も姉も私が選択した俳優という道を応援してくれたので、それは大変ありがたいなと思っています」
ーー八絵子さんには老舗旅館を継いでくれた久美さんという妹がいますが、吉田さんの立場としては姉の八絵子さん寄りですね(笑)。
「断然、姉ですね(笑)。『わかる、わかる!』と思いながらセリフを言いました。私も人生は他人に決められるものではなく、最終的には“人生は自分のものだ”という思いを日々感じているので、八絵子さんの気持ちはとてもよくわかります」
自分の心が喜ぶ瞬間、きっと人は良い顔をしているはず
ーー吉田さんご自身の生き方についてお聞きしたいのですが、吉田さんにとっての自分らしさとは?
「私は自分らしさって、自分で決めるものではないと思っています。自分が好きなもの、熱中できるもの……小さくても大きくても、何でもいいんですが、そういうものに一生懸命に取り組んで、ふと後ろを振り返ったときに、気がついたら自分の道や自分の世界ができている。それを他人が魅力的だと思ってくれる。そういうものがきっと“自分らしい”ってことなんだろうなと思います」
ーーそう思うようになる経験はありましたか?
「小劇場時代の話ですが、最初の頃は『もっと羊ちゃんらしくやればいいのに』、『羊ちゃんらしいお芝居をすればいい』と何人もの人に言われたんですね。でも私自身はわからないわけです。自分らしさなんて(笑)。だって自分の性格なんて自分がいちばんよくわからなかったり、人間はいろんな面があるじゃないですか」
ーーわかります。誰でも機嫌が良いとき悪いときがあって、その時々で人に見せる顔も違ったりするから。
「話す相手によって、声のトーンも変われば、顏の表情なんてのも変わりますよね(笑)。ただわからないながらも模索して、私の場合は自分が好きなお芝居という世界で活動を続けていくうちに、いつの間にか自分の世界というものができていたのかなって思います。自分の好きなことをやり続けることは、自分の心が喜び続けるということだと思うので、心が喜ぶ瞬間はきっと人は良い顏をしているはずなんですよね。だとしたら、それが自分らしさということなんだろうなと思います」
演じてる間は自分じゃない人間になれる
ーーそもそも演じることに興味をもったきっかけは?
「子供の頃からテレビを見て、ドラマのセリフのマネをするのが好きでした。私は小さいときから、どこか自分に自信がない人間で、自分なんて他人に思ってもらうに値しない人間だとずっと思っていたんです。本来の素の自分でいるのが怖いと言いますか……。でも演じている間は自分じゃない人間になって立っていられる。“演じる”ということは私にとっては、自分を奮い立たせるすごく便利なツールでした。その小さいときからの思いが今も根底にあるのかなって気がします」
ーー役柄の影響もあるのか、吉田さんはいつも凛と立っている女性というイメージがありました。
「姉妹の話に通じるんですが、私の姉二人が優秀なものですから、いまだに私はずーっとコンプレックスを感じていて、自分が選んだお芝居、俳優という道で姉2人に認めてもらいたいという思いがあります。正直に言うと、私は俳優としてこれだけやったという満足感を、いまだにどの作品にも感じたことがないんですね。もっとできたんじゃないかと思うことのほうが多いんです。でも俳優をやり続けているということが少なからず私にとっては一つの自信になり、姉に胸を張って『やっているよ』と言えることなのかなと思います」
マイルールは一つだけ。毎日感謝帳をつけること
ーー自分を成長させるマイルールはありますか?
「マイルールはあえて決めないようにしています。決めてしまうとできなかったことにとらわれてしまうので。でも一つだけ……感謝帳をつけるようにしています」
ーー感謝した出来事を書き留めておく?
「はい。毎日寝る前に1日にあった出来事の中で感謝できたことを書いています。朝時間通りに起きられた、電車に間に合った、そういう小さなことを一つひとつ書き出していく。そうすると、例えばすごく印象的なイヤなことがあったとしても、足し算引き算していくと、良かったと思えること、ありがとうと思えることのほうが多いんじゃないか、と。それが視覚的に実感できるんですよね。そうすると明日も頑張ろうと思えるというか」
ーー感謝することが自分の活力にもなる。
「私は感謝する人に感謝するべきことはやってくると思うんです。だからどんなにしんどいことがあっても、それすらこれは成長のチャンスなんだと発想の転換をして、『感謝すべきことでした』と無理にでも言葉に出してみたら、感謝するべきことが向こうからやってきてくれるのかなって思います」
迷ったら難しい方を選ぶ。その先に成長があるから
ーー例えば選択肢が二つあるとして、右に進めば自分にとってすごくメリットがあることはわかっている。それに対して、左に進むと成長はできるけどリスクが伴う。この場合、吉田さんはどちらに進みますか?
「難しいですねぇ(笑)。私の選択基準は心が喜ぶかどうか、なんですよ。だからリスキーであっても、ワクワクするという部分があれば挑戦したいです」
ーーその選択基準はどうやって作られたのでしょうか?
「以前ご一緒したプロデューサーの方に、『迷ったら難しいほうを選びなさい。自分では想像もつかないような苦労をするからこそ、その先の成長があるんだ』と言われたんです。それはとても難しいし、勇気のいることです。でも自分がその役を演じていることを想像できるか、その稽古をつらいながらも楽しめるか、成長したいと思えるか……それを毎回自分に問いかけて、最終的には自分で答えを出すことを大事にしています」
ーー他人に相談したりはしませんか?
「しますよ。ただ女性には多いと思うんですけど、相談するときってすでに答が決まっていたりしますよね。自分の気持ちを確認したかったり、背中を押してもらうために相談する。だからどれだけ迷って寄り道して時間をかけてもいいと思うんです。でも最後は自分で決める。これは大きなテーマの一つかなと思います」
Photographs:Yutaka Matsumoto
Writing:Yuko Sakuma
Edit:TRILL編集部