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モネ、ジャンヌ・ダルク、ハートのチーズが待つルーアン。

  • 2018.8.24
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パリのサン・ラザール駅から列車インターシティに乗ればたった1時間半で着くルーアン。なんだか遠くの街というイメージがあるが、実はパリから日帰り旅行も可能な町なのだ。途中、ジヴェルニー訪問の時に下車するヴェルノン駅にも停車する。こことは40分の距離なので、パリを出て、まずジヴェルニーでクロード・モネの家と庭を訪問してからルーアンに移動して、1泊するコースというのはどうだろうか?

1. クロード・モネと大聖堂

なぜジヴェルニー経由でルーアンに行くのがいいかというと、この地の観光名所のひとつに、クロード・モネが連作を描いた壮麗な大聖堂を見学できるという“モネ”つながりがあるからだ。彼が大聖堂の正面の建物にアトリエを構え、そのファサードを描き続けたのは1892年と1893年の2月から4月にかけて。イーゼルを複数並べて、1日の移ろう光に照らされるゴシック建築の大聖堂に対峙した彼。「描くほどに描きたいものから遠ざかる」と語っている。残された作品は30点近く。パリのオルセー美術館、日本のポーラ美術館など世界中に散逸し、ルーアン美術館には『曇りの日、朝9時』の1点が残るのみである。時間があれば、美術館でその貴重な1点を鑑賞しよう。モネがアトリエを構えた大聖堂の正面の建物には現在ルーアン観光局が入っている。アトリエのあったフロアは一般公開されていないのだが、観光局主催のツアーに参加すると見学できるそうだ。

観光局の2階から、クロード・モネのように大聖堂を見る。

ルーアン美術館に飾られている『曇りの日、朝9時』の複製を展示。

ルーアン美術館の印象派の部屋に展示されている『曇りの日、朝9時』。印象派コレクションはフランスで第2位の作品数を誇る美術館なので、時間があればぜひ。

美術館内、ガラス屋根の下「彫刻の間」が素敵なティールームとなっている。

絵画に混じって鉄工芸品が展示されているのが不思議。美術館からそう遠くない場所のミュゼ・ル・セック・デ・トゥルネル(鉄工芸美術館)があることからだそうだ。

Musée des Beaux-Arts de RouenEsplanade Marcel-Duchamps76000 Rouenhttp://mbarouen.fr

この大聖堂。6月15日以来、陽が沈むと観光客だけでなく地元民もその前の広場に集まってくる。彼らのお目当ては、レース細工のような石の彫刻で飾られた大聖堂のファサード上で展開されるプロジェクションマッピングだ。テーマはふたつで、9世紀にノルマンディー地方を侵略した北欧のバイキングたちの物語『バイキング』とギヨーム征服王の数々の偉業をたどる『ギヨーム征服王』の合計50分。尖塔のてっぺんまでが150メートルあり、フランスで一番、世界で二番目の高さを誇るという大聖堂のファサードを余すとこなく使って繰り広げられる壮大なロマンとサウンドが、広場を満たす人々を驚嘆させる。歴史ファンでなくてもおおいに楽しめる仕上がりで人気を呼んでいるようだ。

大聖堂のプロジェクションマッピング。合計50分で2本が見られる。8月16日~31日は22時まで。9月1日~22日は21時30分まで。なおノルマンディー地方の人を“normand(ノルマン)”と呼ぶが、911年のノルマンディー公国建国当時、“ノルマン”というのは北の人、つまり北欧から侵略してきたヴァイキングをさす言葉だった。

2年ごとにテーマが変わる。次は2019年6月からで、海をテーマにした新しいプロジェクションマッピングが予定されている。

大聖堂は外観ばかりではなく内側も観光スポット。ステンドグラスには中世の聖人ジュリアンが描かれていて、この地に生まれた作家ギュスターヴ・フローベールに小説のインスピレーションを与えた。ステンドグラスはとても見事。物語は下から上、左から右へと流れているのだが、ちょっと面白いのは最下段には関係のない魚の絵柄が見られることだ。それはなぜか。このステンドグラスの制作費用を出資したのが漁業組合だったということで、この時代なりの宣伝方法だったとか。この大聖堂には世界史の授業で聞き覚えのあるリチャード獅子心王の心臓が葬られている。十字軍に参加した勇敢なイギリス王であるが、ルーアンを愛した彼は遺言でそのように希望したからだそうだ。

大聖堂内、ジャンヌ・ダルクの一生を描いたステンドグラス前で大勢が足を止める。

大聖堂内のステンドグラスは13世紀と16世紀のもの。

2. 街一番の有名人はジャンヌ・ダルク⁉

ルーアンという地名に、すぐさまジャンヌ・ダルクを思う人もいるのではないだろうか?街を歩いていて見かけるかもしれない、1431という年号。ジャンヌ・ダルクが異端とみなされてイギリス軍により処刑された年だ。25年後の裁判で、彼女は無罪となり名誉を回復し、救国の存在となる。処刑された広場はその後屋内市場となっていたが、1979年に聖ジャンヌ・ダルク教会が建築された。設計したのはルイ・アレシュで外から見ると上に立ち上るような屋根のフォルムが印象的で、 内部には造船技術が用いられ、船を逆さにしたような作りとなっている。

聖ジャンヌ・ダルク教会。火刑台の跡も見られる。

教会のジャンヌ・ダルク像。

ルーアン美術館にはジャンヌ・ダルクをテーマにした作品を集めたひと部屋があるので、モネの作品を見に行ったら、こちらも忘れずに。また、大聖堂の中にもジャンヌ・ダルクに捧げられた部屋がある。彼女の生涯を描いたステンドグラスは16世紀のもの。これはステンドグラスの職人仕事が頂点を極めた時期の作品である。その美しさを堪能しよう。

ルーアン美術館内、ジャンヌ・ダルクにまつわる作品を集めた部屋がある。故郷ドンレミーで「神の声」を聴く彼女の作品から、鑑賞をスタート。

ジャンヌ・ダルクはルーアンのセレブリティ。火刑された彼女の涙にアーモンドをみなしたジャンヌ・ダルクの涙(larmes de Jeanne d’Arc)というチョコレート菓子を大時計通りのチョコレート屋Auzou(オズー)が作っている。手頃なお土産になりそう。

「ジャンヌ・ダルクの涙」。31粒入った120グラムの袋入りもある。

チョコレートの内側、アーモンドを包むキャラメルのカリっとした食感が後をひく美味しさ。

Auzou163 rue du Gros Horloge76000 Rouen営)9:15〜19:15(火〜金)、8:00〜19:15(土)、9:00〜13:00(日)、14:00〜19:15(月)休)日曜午後、月曜午前www.auzouchocolatier.fr

3. 羊の大時計

大聖堂に次いで人気の観光スポットは一本針の大時計。ルーアン市内もパリと同じようにセーヌ川によって右岸と左岸に分かれているが、国鉄駅および観光スポットはすべて右岸に集中していて、大聖堂と大時計もすぐ近くという距離にある。大時計は改装されて16世紀のものだというが、中のメカは1389年のもので、しかもそれがいまも機能している事にびっくり。駅前広場からのびるジャンヌ・ダルク通りと大時計通りが交差するところのアーチで、14世紀から時を刻み続けている。アーチの下を通るときには、上を見上げてみよう。キリストがたくさんの羊たちとともに彫り込まれている。ちょっと珍しい図柄。羊はルーアンのシンボルである。

大時計(gros horloge)は針が1本の単針時計。右の建物は13世紀の鐘楼。

キリストと羊たち。

表情さまざまな天使の顔が彫られている。泣いてる?怒ってる?

4. ルーアンの食

旧市場広場の教会の建物の屋根は裾が広がるように片側に伸び、その下では市が開催されているので買い物が楽しめる。ルーアン名産の何に出合えるだろうか。ノルマンディー地方は酪農が盛ん。チーズも種類が豊富で、なかでもルーアンで有名なのはハート型をしたヌーシャテルだ。中世に戦いに出かける愛する人に女性が送ったことからハートの形をしているのだという。市場のチーズ売り場ではその隣に麻の花のチーズもみつけられる。花のように見えるフォルムは実はハートを5つ繋げたものなのだ。こんな愛らしいチーズ、なかなかパリでは見かけられない。

旧市場広場のマルシェ。

遠くから見ると真っ黒に見える教会の屋根だが、上方はグリーンだ。

チーズのヌーシャテルはハート型なので探すのが簡単。リヴァロ、ポン・レヴェックなどのノルマンディー地方のチーズが市場では簡単に入手できる。

ハートを5つつなげた花のようなフォルムもチャーミングなチーズ。黒いのはリネン・シード。これもヌーシャテル・アン・ブレイで製造されているのだが、AOC規定により地名は名乗れず。市場内のチーズ屋Jollitにて発見!

市場では魚、肉、野菜……食事に必要な素材が何でも揃っている。活気いっぱいの魚屋さんの裏手にはスタンド式のイートインコーナーがあるので、フレッシュなカキをはじめ、地元民に混じって海の幸を味わってみれば?ルーアンというのは海から車で45分の距離にある。たとえばカキはモンサンミッシェルやブルターニュから届くそうだ。市内のレストランでは新鮮な素材が入手しやすいので、シーフードメニューも自慢にするシェフも少なくない。肉は鶏、七面鳥、鴨がルーアンでは多く食される。名物料理に鴨のルーアン風というのがあり、これは二段階加熱と独特のまったりしたソースというのが特徴の料理。ルーアン市内でこの料理を出す店として名高いのは、市場近くにある創業1345年の旅籠レストランのLa Couronne(ラ・クーロンヌ)だ。

観光客相手な場所ではなく、いま風な食事をルーアンで、というのなら、18世紀の石造りの地下倉庫だった場所にできたレストラン6eme Sens(シージエム・サンス)を試してみよう。市場からも遠くない。ここはノルマンディー地方の食材を有効に用いた創作料理を出すことを使命にしている店。でも、もちろんポモーもシードルも味わえます!!

繁華な通りにあるレストラン。地下と1階が吹き抜けという作りで、食事スペースは地下にある。

地元の名産ハート型チーズのヌーシャテルをソースに使って。

6eme Sens2, rue Thomas Corneille76000 Rouen営)12:00〜14:00、19:00〜22:30(金土 〜23:00)無休https://le-sixiemesens.fr

ルーアン美術館の建物の通りの反対側には、In Situ(イン・シチュ)というカジュアルなカフェ・レストランがある。ここも料理はノルマンディー地方にはこだわっていないが、地元の新鮮な素材を用いている。美術館を訪れた際にはとても便利なので、知っておいて損はない。

カジュアル・シックな店内。1階にはカウンター席もあるので、ひとり旅ならここで気楽に食事を。

In Situ35, rue Jean-Lecanuet76000 Rouentel:02 35 88 93 48営)12:00〜14:15、19:30〜21:00休)日

熟成肉のレストランも発見!Rotomagus(ロトマギュス)はサン・マクルー教会に面した立地も素晴らしい人気店だ。熟成肉はブラックアンガス、シャロレといった肉の名産地からのものが揃い、もちろん地元ノルマンディーの牛もメニューから選べる。

ロトマギュスでは食べるのも牛なら、インテリアも牛!!

Rotomagus7, place Barthélémy76000Rouentel:02 35 07 26 57営)12:00〜14:30、19:15〜22:00休)水、日、土曜ランチhttps://www.rotomagus.eu

手頃なお土産に何か名産は?たとえば、りんご飴(sucre de pomme)がある。これはフランスの駄菓子屋さんでよく見かけるキャンディーのように棒状で、大麦糖の代わりにりんごの糖分を使ったもの。ほんのりとりんごが香る、透明なキャンディーは優しい味で疲れたときにちょっと口にしたくなる。観光局の1階にはお土産品ブティックがあり、そこではルーアン市が組織するハンディキャップを持った人々のアトリエで製造されるりんご飴を販売している。チェリーを使ったチェリー飴(sucre de cerise)も。りんご飴が透明な黄色なら、こちらはほんのり桜色だ。

りんご飴とチェリー飴。それぞれサイズは3種類あり、1本1.20ユーロ(小)、1.80ユーロ(中)、2.90ユーロ(大)。

ノルマンディー地方の名産を集めたブティックなので、お土産調達に活用できる。Auzouのチョコレート「ジャンヌ・ダルクの涙」の袋入りも販売。

Boutique de l’office de tourisme25, place de la Cathédrale76000 Rouentel:02 32 08 32 40

5. 角を曲がると何かが待っている街。

旧市街をぶらぶらと散策。細道がたくさんあり、角を曲がるたびに新しい何かが待っている。そんな気にさせるのがルーアンという街。たとえば、通りの両側の建物の上方が道側にはみ出してきている光景。2階、3階と階があがるごとに30センチずつ通り側に建物が張り出す、ということが1520年に禁止されるまで続けられていたのだ。こんなことをしていたら、内部は広がれど、道は暗くなってしまう!ゴシック建築の石の建物の屋根を見上げれば、ニョキニョキと動物たちが顔を伸ばす光景に出合うだろう。雨樋の役を果たすガルグイユだ。大時計通りのマクドナルドが入っているのは、ルーアン最古の建物だという。第二次大戦で打撃を受けたル・アーヴルと異なり、ルーアンでは中世の街並みが残っているのも魅力のひとつだ。

ゴシック建築の前を通ったら、上を見上げて。ガルグイユが目にとまるはずだ。

階が上がるごとに30センチ前に張り出していく建物が旧市街にはまだ残っている。

ルーアン焼きの可愛いブティックFaïencerie Augy(ファイアンスリィ・オジィ)の前を偶然通ることがあったら、中に入ってみよう。時間によっては、店内で陶器に手描きする職人の作業が眺められる。皿、カップ、タイルなどアイテムもいろいろ。昔から伝わるルーアン焼きの技術そのままの作業で、新しくなったのは釜が薪ではなく電気になったことだけ、とか。

いかにもノルマンディー、といった作りの店内。

水差し、ティーカップ、バターケース、タイル、プレート……種類豊富な品揃え。例えばマグカップなら26ユーロ。

職人の絵付け作業を目にする機会もある。

Faïencerie Augy26, rue Saint-Romain76000 Rouen営)9:00〜19:00休)日、月http://www.fayencerie-augy.com

6. ルーアン唯一の5つ星ホテルで、歴史の中に眠る

これだけいろいろ見たり歩いたりして楽しめる町なので、最低でも1泊は必要だろう。中世の町で眠るという気分を盛り上げるホテル、それはHôtel de Bourgtheroulde(オテル・ドゥ・ブールトルード)。以前は銀行が入っていて、ルーアン市内では唯一の5つ星ホテルとして開業したのは2010年と最近のことだ。

18世紀の木組み建築の建物が並ぶピュセル(ジャンヌ・ダルクの別称である乙女の意味)広場にあり、ホテルはルネッサンス建築の6世紀の建物なので、町の名所のひとつのように観光客が建物をひと目見たいと中庭を覗き込む。確かにファサードは鑑賞に値する壮麗さ。1520年の仏国フランソワ1世と英国ヘンリー8世の有名な会合である金襴の陣をテーマにした装飾で、一番上の馬2頭は建物を建築させた領主ブートルードの家紋である。

ホテルは78室あり、内装は部屋ごとに異なる。部屋によってはバスルームが小塔部分にあり、天井に見事な木の梁が見られたり、ステンドグラスの窓があったり……モダンな家具を配すると同時に歴史を物語るパーツを上手に保存。旧市場広場に行くにも、カテドラルに行くにも便利な立地のホテルである。

角に立つホテルは6世紀の建物。入り口はピュセル広場に面している。この広場はノルマンディー地方特有の木組みの家に囲まれている。こうした家に使われている木は、7年間塩水に漬け、7年間乾燥させたもの。

ファサードのディテールを眺めることを忘れないよう。アンリ4世のシンボルであるサラマンダーも彫られている。

外観とは打って変わり、フロントはいたってモダンだ。

全78室。ホテルにはスパとブラッスリーがある。

Hotel de Bourgtheroulde15 place de la Pucelle76000 Rouentel:02 35 14 5050www.hotelsparouen.com

●協力ノルマンディー地方観光局www.normandy-tourism.orgルーアン観光局www.rouentourisme.comセーヌ・マリティーム県観光局www.seine-maritime-tourisme.comフランス観光開発機構http://jp.france.fr

 

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