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コレも自己責任? 親が経営するお店の借金は肩代わりするべきか

  • 2015.2.25
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【男性からのご相談】

40代です。長年親がやっている薬屋を手伝ってきましたが、調剤部門も持たない個人商店の薬屋の経営は厳しく、4年前から自分は薬剤師の資格を活かして大手のドラッグストアチェーンの店舗でパートナー社員(非正規雇用)として勤務しています。 薬店にはたまに、なじみのお客さまが買いにきてくれる程度なのに、問屋からの仕入れ代金やカードローンの残債など、親にはまだ決して少ないとはいえない借金の残高があります。

最近親も弱ってきて、借金を返し切れないまま逝ってしまうおそれもあるのではないかと思いはじめています。私が連帯保証人になっている債務は、1社の薬問屋さんについての仕入れ代金のみですが、その問屋さんへの未払い残高は数百万円はあります。一時は私もその薬屋の一員だったことは事実で、親の借金は肩代わりする必要があるでしょうか。

●A. 連帯保証債務以外は必要なし。連帯保証債務も自己破産・免責で消えます。

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。ご相談ありがとうございます。

私は法律の専門家ではありませんが、そもそも社会人としてのスタートが中小企業専門に事業資金を貸し付ける政府系政策銀行の職員だったこと、40歳代の約10年間は健康食品や生活雑貨を取り扱う商事会社を自分で経営していたこと、両親が町工場経営者で零細企業の資金繰りの実態を見ながら育ったこと、などの理由から、このご相談に回答させていただく次第です。

結論から申し上げますが、ご相談者さま自身が連帯保証人になっている薬問屋さんへの未払い買掛金残の数百万円以外については、肩代わりされる必要はありません。

その数百万円の連帯保証債務も、パートナー薬剤師としての今後の収入見込みからすると返済していくのは厳しいということであれば、裁判所に自己破産を申し立て免責を得ることによって消すことができます。

もちろん、高齢で今後お店の経営状態を再建できる見通しのない親御さんご自身が自己破産を申し立てることは、何よりも優先してなされるべきことです。

下記の記述は都内で法律事務所を開業し、“法テラス”の仕事にも携わっている弁護士の先生に伺ったお話を参考にしながら、すすめさせていただきます。

●国税・地方税・罰金等は免責されない。相続放棄しなければ相続する必要があります

大まかな回答としては上に書いた通りなのですが、いくつか気になる点がありますので述べさせていただきます。

親御さんのご商売は薬店経営ということですから、お客さまから預かった消費税がありますね。ここ数年間ずっと売上不振ということであれば、お客様から預かったはずの消費税がお店の資金繰りに使われてしまって、滞納税額が蓄積されてしまっていないでしょうか?

だとすると、税金は免責されないので親御さんがなくなられたときに相続放棄をしなければ、その債務を相続する必要があります。

また、ここまで業績が低迷する前に従業員さんを雇っていて、その従業員さんに未払いの給料などはなかったでしょうか。もしあったとすると、その未払いの給料の支払いを請求された場合、その責任も免じられません。

このように破産法では、仮に自己破産を申し立てて免責が決定した場合でも、免責されることのないいくつかの請求権について規定してあります。

したがって、親御さんがなくなられたときには、親御さんの資産がトータルでプラスなのか、マイナス(債務超過の状態)なのかを算出し、少しでもマイナスであれば相続を放棄するようにしないと、法定相続人であるご相談者さまは借金を相続することになると認識しておいてください。

●「数百万円くらいで自己破産することない」という債権者の言葉は鵜呑みにしない

『ご相談者さまの場合、現時点で“肩代わり”する必要がある親の借金は、1件の問屋さんに関する連帯保証債務の数百万円のみです。それ以外には何もありません。だから債権者である問屋さんは、「数百万円くらいのことで自己破産まですることはないですよ。一緒に方法を考えましょう」と言うかもしれません。しかし、ドラッグストアチェーンのパートナー薬剤師という立場のご相談者さまにとって、今後の毎月毎月の月給の中からこつこつ返していって数百万円を完済するというのは、実際にはかなり大変なことではあります。

自己破産をしても医師や薬剤師や看護師の仕事は資格制限を受けないので、ご相談者さまは今のお仕事を何の問題もなく続けることができます。“借りたお金は返す義務がある”のは当たり前のことですし、「簡単に自己破産するような者は最初から返す気なんかなかったのだ」と謗る人もいるでしょう。けれど、そのような言葉は債権者の立場にある人が使う“脅し文句”です。非正規雇用のパートナー薬剤師さんにとっての数百万円は、自己破産を申し立てるのに十分な債務金額ですから、債権者の言葉に左右されずに、しっかりとご自分で考えて、自己破産を申し立てるか否かの判断をしてください』(50代男性/都内法律事務所代表弁護士)

●自分の能力をかえりみず精神論で親の借金を肩代わりすれば、被害者が増えるだけ

私が、「親の借金を無理に肩代わりしようとせず、堂々と自己破産を申し立ててよい」と言うのには、理由があります。

それは、わが国に特有の“連帯保証人”という制度に象徴される、ささやかでも自立自営を志向して活動しているスモールビジネスに携わる人たちに対する厳し過ぎる制度の存在です(したがって、今後の民法改正で債務者たる中小企業経営者本人以外の第三者連帯保証人は取れなくする方向性が検討されています)。

あまり多くを語りたくはありませんが、私の親しくしていた青年で、ご両親と小さな雑貨卸店を営んでいる人がいました。リーマンショック後の大不況で店の経営が傾き仕入先への支払いが滞ったとき、青年はご両親から頼まれても奥さんと子どもたちのことを考え、仕入先への支払い計画に関する連帯保証人になることを、断りました。

ご両親は、「無理強いはできない」と理解を示し、その旨を仕入先に話すと、仕入先は、「それでは代わりに、こちらの指示通りの文言の公正証書を作れ」と要求し、ご両親は従いました。

債務者が直ちに強制執行に服する主旨の記載がなされた公正証書を手に入れた仕入先は案の定、それから間もなくして、裁判の手続きを経ることなく強制執行の申し立てをし、雑貨店の売掛金は押えられ、仕入先は債権を全額回収しましたが、雑貨店は営業続行不能となり、数か月後にご両親は失意のうちになくなりました。

相続した財産があるような人ならいいですが、それがない者(ないし小さい者)にとって、わが国で小規模企業を長きにわたって営んで行くことは、とても大変なことなのです。

軽々しく自己責任論を語る人の多くが、自分で小さな会社を経営した経験など持っていません。もちろん論理的に非があるのは支払いを滞らせた債務者の方です。けれど私は“情”がなくなった世の中になど価値を見出せません。親は子に無償の愛を惜しみなく注ぐものですが、子が親の犠牲になってはなりません。

さらに申し上げるなら、自分の能力をかえりみずに(あくまでも、お金を稼ぐ能力のことです)精神論でもって親の借金を肩代わりしようとする姿勢からは、より一層の被害者が出るおそれがあることを、付け加えておきます。

よく、有名な芸能人が何十億円の借金を、「借りたお金を返さなければならないのは当然です」などと言っているのをテレビの対談番組などで見かけますが、そういう考え方をしてもいいのは一攫千金的な経済的機会がある職業の人だけです。

そうでない場合は、潔く自己破産をして、これ以上の被害者を増やさないようにつとめる態度の方が、人として尊敬すべき姿であると言えます。

●資力基準を満たすのであれば、なるべく“法テラス”利用で破産費用を抑えましょう

最後に、自己破産の制度を利用してご相談者さまの連帯保証債務を帳消しにする場合、かかる費用について触れておきます。

『ご相談者さまのケースでは親御さんもご相談者さまも一緒に自己破産されるのがベターです。債務が商売に関わってできたものでもあり、同時廃止事件でなく(少額)管財事件となる確率が高いです。そうなると(東京地裁の場合で)20万円という予納金も必要になってきますので、資力基準(収入・生活状況等によって算定)を満たすのであれば、なるべく日本司法支援センター(法テラス)による法律扶助制度を利用して破産費用を抑えましょう。利用できれば予納金以外の負担は10万円(毎月5,000円の分割可)で済みます』(前出・法律事務所代表弁護士)

経済力の差が権利の差にならないように設立された「法テラス」はぜひ利用してください。

●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)

慶大在学中の1982年に雑誌『朝日ジャーナル』に書き下ろした、エッセイ『卒業』でデビュー。政府系政策銀行勤務、医療福祉大学職員、健康食品販売会社経営を経て、2011年頃よりエッセイ執筆を活動の中心に据える。WHO憲章によれば、「健康」は単に病気が存在しないことではなく、完全な肉体的・精神的・社会的福祉の状態であると定義されています。そういった「真に健康な」状態をいかにして保ちながら働き、生活していくかを自身の人生経験を踏まえながらお話ししてまいります。2014年1月『親父へ』で、「つたえたい心の手紙」エッセイ賞受賞。

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