1. トップ
  2. レシピ
  3. 柑橘系やぶどう山椒、もろみ…。全国からファンが訪れるオンリーワンのチーズを求めて和歌山へ

柑橘系やぶどう山椒、もろみ…。全国からファンが訪れるオンリーワンのチーズを求めて和歌山へ

  • 2018.6.10
  • 3300 views

美味しいチーズがあるところに、美味しいものあり。そんな嗅覚を持つチーズ好きのライターと行く、”チーズでつながる美味しい旅”。美味しいチーズを探していたらどんどんと美味しいものと出会え、その土地の魅力を改めて発見することができました。第1回目に訪れた土地は、和歌山。チーズに魅了された職人が、和歌山とチーズをつなげて、チーズの本場イタリアで称賛される味を生み出したとか。その秘密は日本古来の発酵食品としてお馴染みの「醬油」でした。

和歌山で唯一のチーズ専門店「コパン ドゥ フロマージュ」

日本の食材を使ってチーズの本場イタリアでオリジナルのチーズを作り話題を集めているお店があると聞き、チーズ好きとしてはいてもたってもいられず和歌山へ。JR和歌山駅から和歌山電鐵貴志川線に乗り、のんびり電車に揺られ終点の「貴志駅」で下車。ネコのタマ駅長がいる、ネコ好きに知られる駅です。ここからお店までは車で10分ほど。静かな住宅街にある真っ白な一軒家が「コパン ドゥ フロマージュ」です。

お店を入ると、ショーケースには普通のチーズショップにはない、ちょっと変わったチーズがずらりと並んでいます。チーズプロフェッショナルの資格を持つ店長の宮本さんが10年ほど前に自宅の1階に開いたお店です。ヨーロッパ産のチーズが中心なのですが、どれも宮本さんがひと手間加えてアレンジしたものばかり。日本のお酒にも合うようにと作り上げた、ここでしか買えない品が並んでいます。

和歌山産の食材×ヨーロッパチーズで新たな味に

特に宮本さんがこだわっているのが、和歌山県産の食材を使うこと。例えば写真一番手前はコンテと呼ばれるフランス産チーズに和歌山県産のぶどう山椒をまぶし熟成させたもの。完熟した山椒は香りが芳醇で風味も穏やかなので日本酒をぐっと引き寄せます。カップに入った右側のチーズは金柑ソースに漬けたデンマーク産クリームチーズ。和歌山県産の金柑をシロップ炊いてピュレにし、ミカンの蜂蜜と白味噌をアクセントに入れて深い味わいにしたソースは、濃厚なチーズと一緒になるとスイーツのよう。左側の少しくぼんだチーズはフランスのウォッシュチーズ、ラングル。芋焼酎で洗ってから酒粕に浸けることで、臭みが抑えられ、旨味が出てくるのだとか。

ほかにもフランス産ブルーチーズに紀州備長炭をまぶし、炭の吸湿殺菌効果でゆっくりじっくり熟成させたチーズや、ブルーチーズにハーブをまぶして熟成させることで青色の生地に仕立てた美しいチーズも。どれもさまざまな素材と組み合わせることで、また新たな香りや風味を生み出し、合わせるお酒のイメージをかき立たせてくれます。

チーズの味わいを広げる、和歌山産醬油

さらに宮本さんは和歌山県産の醬油を使った珍しいチーズを考案。和歌山県には日本の醬油発祥の地と言われている町があり、ここでは昔ながらの醬油づくりが続けられています。同じ発酵食品であり、地元の名産であるこの醬油の原料である“醬油もろみ”をカマンベールチーズに浸けて発酵させたのが「湯浅醬油風味の燻製カマンベール」。日本人が慣れ親しんだ旨味に溢れたチーズに燻製の香ばしい香りがアクセントになって…やっぱり日本酒を合わせたくなりますね。

さらに、チーズ発祥の地ともいわれているイタリアにこの“醬油もろみ”を持ち込み、一からチーズを作ることを思いついた宮本さん。
チーズ作りに必要な材料の一つに塩があり、長期熟成のチーズは塩水に漬けたり、塩を擦り込んで雑菌が繁殖しないようにします。その塩の代わりに湯浅の“醬油もろみ”を使い、誕生したのが「モロマッジョ」。塩を使うよりもさらに旨味が増し、熟成期間以上の旨味や味わいが生まれています。イタリアの料理人にも認められるなど、現地でも話題を集めたとか。
これをイタリアから逆輸入し、自身のお店でも本格的に販売することができるようになりました。ヨーロッパで日本人がチーズを作ること、食品の輸出入の規制の多さなど、その苦労は並々ならぬものがあったと想像できます。売り切れてしまうことが多く、入荷も不定期なので欲しいときは事前に問い合わせをしておくと安心です。

チーズを進化させた醬油発祥の地、湯浅

ヨーロッパと和歌山を繋げた驚きのチーズを生み出した“醬油もろみ”は「コパン ドゥ フロマージュ」がある紀の川市から車で1時間ほどの場所にある海沿いの町、湯浅で作られています。この町は日本の醬油発祥の地として知られ、醬油蔵や麹屋などが立ち並ぶ古い町並みが保存されています。町を歩けば醬油の良い香りが漂ってくることも。

宮本さんがチーズ作りに使った“醬油もろみ”は、湯浅でも随一の規模を誇る醬油店「丸新本家」からチーズ用に特別に分けてもらったもの。「丸新本家」が全面的に協力してくれたそうです。“醬油もろみ”とは醬油を絞る前の醬油の元。これを袋に入れて圧搾して出てきた液体が醬油となります。「丸新本家」ではさまざまな醬油を醸造していますが、チーズ作り使われているのは木樽でじっくりと熟成させた昔ながらの製法の醬油「蔵匠 樽仕込み」の”醬油もろみ”。「丸新本家」ではそんな”醬油もろみ”を熟成させている醬油蔵や醬油もろみを絞る様子など、醬油の製造工程を見学することもできます。

和歌山を発信するチーズ造りはこれからも

その土地のワインにその土地のチーズを合わせるように、和歌山の食材とチーズを組み合わせ、新しいチーズの発想を膨らませる宮本さん。「和歌山はチーズの消費量全国ワースト1の県。そんな場所だからこそ、和歌山と繋げた商品を開発して、チーズの魅力を知ってもらいたいとやる気がでてきますね」と言います。今までにないものだけれど、誰もが親しみやすい味のチーズに全国からファンが訪れるほど。
「周囲にお店はなく、街中でもない場所ですが、美味しいものが好きな人が自然と集まってくれているようで…」。お店の中でお客さん同士が交流し、美味しいものの話で花が咲いている…なんてことはよくあることなのだそうです。

小さなお店だけれど、宮本さんのチーズの知識やその思いに溢れた「コパン ドゥ フロマージュ」。ここに来れば新たな美味しいものが見つかることを確信した旅でした。

元記事で読む
の記事をもっとみる