伝統を守る

石川県珠洲市奥能登塩田村。目の前には日本海の荒波が、そのすぐ裏手には大きな森のある長閑な街。ここで500年間変わらぬ製法で塩造りをしてらっしゃる職人の現場を見学させていただいた。

海水で塩を造る。

いたってシンプルなその方法は「揚げ浜式製塩」と呼ばれる。目の前の海から汲んできた海水を塩田という砂浜に撒く。太陽と風の力を借りて乾かした砂を集めて箱に入れ、上から海水を掛け塩分濃度の高い塩水を作り、大釜で焚く。言葉にすると簡単そうに聞こえるが、それはものすごい重重重労働!!

浜士(はまじ)と呼ばれる塩造り職人の登谷さん、御年67歳。

片側40kg入る木桶を2つ肩に掛け、海まで歩き海水を汲む。何度も何度も繰り返し、塩田に均一に撒いて行く。水で綺麗な弧を描けるようになるまで10年はかかるという。なんとも美しい水の形。

薪で焚くため、この部屋はものすごい煙で充満してた!登谷さんは目から涙を流しながら丸1日、火加減を調節する。

手間隙かけて造られた塩は、最後にお姉様方に検品され、商品となる。それはそれは、今まで食べた事のないような、ただしょっぱいのとはまた違った、なんとも深~い味わいの塩だった。

最っ高に美味い塩だったけど、実際に現場に行き、聞いて見て、その大変さを肌で感じこの商品を知ったとき、僕はこれを「味噌で沢山使わせてほしいんです」なんてとてもじゃないけど言えなかった…。

 

職人さんの造るモノというのは大概がいいお値段で限られた量しか生産できない。今はネット社会でパソコンを開けばいつでも買い物ができ、何でも簡単に手に入る世の中。情報にはすごく敏感で、人がいいと言ったモノやメディアで評価の高いモノなんかはすぐに注目を集める。それが本当に今の自分に合っているものなのか、必要なのかという価値観なんかはさておき、流行り廃りに左右される。そして、えい!っとポチられる。

造ってる方は瞬く間に注文が殺到し、需要と供給のバランスがとれなくなり、てんてこ舞いになる。どんな人でも「お客さん」には変わりない。求められればそれはそれは本当に有り難い事で、最高のモノを提供したいってのが本心。だけど、そういう危機的状況だといつも保っているバランスを失い、いつものパフォーマンスを出すことができず、商品にブレが出るかもしれない。いや、働きすぎて身体を壊してしまうかもしれない。若い弟子や後継者の居ない所なんかは、もしそうなったらそりゃあ大変!!大げさかもしれないけど、一つの伝統が途絶えてしまうかもしれない可能性だってある。

 

伝統を守るって、どういうことなんだろう。誰が守るんだ?親方?地域?それともお客さん??

造る側としての自分と、一消費者としての自分の両方の立場で考えてた。

 

てんてこ舞いな時こそ平常心を保ち、いつもの自分でいるためにはどうすればよいのか。長く愛されるモノを造り続けて行くためには、何が必要なのか…。一方では、若い後継者がやっとでさえいないと言われている職人たちの現場を、買う側の欲求だけで乱しているのではないか。今の自分にとってそれは本当に必要な物なのか、ちゃんと考えて購入しているのか…。

 

いろんな知識を得るのはもちろん大切だけど、それだけでは人の心を震わせるようなモノは造れない。知識を土台に、どんな状況にも対応できるよう「知恵」をもっとつけなければ!

 

美味しいのはもちろん、それ以上に幾人もの「手」を渡り、苦労を経て大切に造られたモノ。それほど素晴らしい価値のあるモノはないのではなかろうか。この塩を使うに相応しい人になるには、まだまだ勉強不足でした…と。

ほんの壱刻だったが、いろんなことを考え改める事のできた、とてもいい出会いになった。

「大変な仕事だけど、辞めたいと思った事は一度もない。いろいろあるけど、毎日が楽しい」と仰っていた登谷さん。海を見つめるこの姿を思い出すと、なんだか泣けてくる。。

 

88g入の小さいお塩を一つだけ購入。汗水たらして仕込む登谷さんをちゃんと想いながら使います。

 

 

いただきます。

OMIYA

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