結婚もムリ? 年収200万円以下の若者の約8割は“実家暮らし”と判明

【ママからのご相談】

27歳の息子と24歳の娘がいます。2人とも働いてはいますが正社員ではないため年収は100万円台前半のようです。どちらも一向に、「もうそろそろ実家は出て独立しよう」という様子が見られません。 今はいいとして私や夫がなくなったあと、伴侶も子どももなく生きて行くのかと思うと気がかりです。

もしかして私や夫の心の奥底に、子どもたちを近未来の介護の担い手として期待してしまっている面があるのでしょうか。そうだとすると安価な定住先を求める子どもたちと私たち親とは“共依存”の関係にあるのでしょうか。

このごろは、「今さえ平穏ならいいか」とついつい諦めてしまいがちなのですが、やはり成人して何年も経つような子どもには独立をすすめるべきでしょうか。

●A. 若者にとって実家は“出ていくべき”場所だが、経済的事情が実家に留めさせる。

ご相談ありがとうございます。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。

ご相談の内容は、ご相談者さまの家庭の問題にとどまらず、実はわが国全体が抱えている社会問題でもあります。働く人の4割を占める非正規雇用の人の賃金が低すぎるため、親の持ち家というものが低収入の若者の住宅問題上のセーフティネットになっており、本来なら実家を出て親に気がねすることなく好きな人と一緒に暮らした方が自由でもあり、子どもにも恵まれやすいということはわかっているのに、経済的な事情がそれを許さない、という問題です。

認定NPO法人であるビッグイシュー基金が2014年に発表した調査報告書によると、わが国では未婚で年収200万円以下の20代・30代の若者の約8割は親の実家に住んでいるという実態が明らかになっています。この傾向にさらに拍車がかかると、将来親の持ち家が老朽化・劣化したとき、低収入の中高年が大量に“住む場所を失う”という大問題が起きてくるおそれもあるのです。

以下、若者の貧困の実態に詳しい都内でメンタルクリニックを開業する精神科医師に伺った話を参考にしながら、この問題について考えてみたいと思います。

●収入が低くても働いてさえいるのなら結婚生活は可能であることを教えましょう

『よく、「非正規の収入では結婚なんてもってのほか」のように極端な発言をなさるかたがいらっしゃいますが、それは間違っています。非正規雇用で年収が200万円に満たなくても、例えば年収150万円同士の2人が一緒になれば、世帯年収は300万円になります。賃貸住宅を借りて公共料金を払っても、財やサービスを2人で共有できるわけですから、生活はしていけます。子どもを持つか持たないかはまた別の問題で、2人の価値観にもとづいて2人で決めればよいことです。

こういう話しをせずに、子どもが漫然と実家に留まることを良しとする傾向には、ご相談者さま自身が薄々気づかれているように、お子さんを“介護の担い手”として期待してしまっている深層心理もなくはないと思われます』(都内メンタルクリニック院長)

●“結婚はできない”という先入観にとらわれてはいませんか?

『ビッグイシュー基金の調査報告書によると、調査対象の若者たちのうち「今後、結婚できると思う」と答えた人は僅か6.6%でした。結婚は相手がいて初めて成立することであるにもかかわらず、自分の収入だけで「結婚はできない」と考えてしまう傾向が見られます』(前出・都内メンタルクリニック院長)

実家で暮らすことのメリットは、もちろんあります。私の知人の20代の独身女性で、外資系グロッサリー・チェーンのお店で契約社員として働いている人がいますが、非正規なので年収は200万円には届きません。が、彼女は、親の持ち家に住んでいるおかげで時間と金銭に余裕があるため、勤務がオフの日にその道の第一人者の工房に通い、オール・ハンドメイドのギターを造る技術を習得しました。この間、自分で作ったギターが初めて売れたそうです。

これは、実家住まいが良い方向に出た例といえますが、彼女にしても結婚や家を出ることに関してはやや臆病な面があることは否めません。成人し、学校を卒業して以降も家においてやっていることがお子さんの自立心を阻害してしまっているとするならば、それはある意味で親子間の共依存関係と言え、あまり好ましいことではありません。

●西欧では非正規の賃金は社員より高い。日本における“親の持ち家”という安全弁

『日本で暮らしている私たちは非正規労働者の賃金が正社員より低いのは当然で仕方のないことだと思い込んでいますが、西欧諸国はその逆で、非正規社員の賃金の方が正社員の賃金より高い国が数多く存在します。

例えばフランスの場合、“不安定雇用手当”というものがあり、有期労働者・派遣労働者の賃金は正社員よりも1割程度高く支払われています。これは、“必要なときにだけ雇用することができるという契約上のメリットを企業側にだけ与えるのは公正さを欠く”という認識からきている雇用慣習で、デンマーク、イタリア、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどでも同様の考え方から非正規労働者の方が正社員よりも高い賃金設定になっています。

これに対してわが国では、非正規の賃金は正社員より低くて当たり前といった考え方が迷信というか、まるで“言い伝え”のように常識化していますので、年収200万円以下の若者たちは自然に自分を守る防御策として、日本の文化の中に古くからあった“長男が家を継ぐ”という家族のあり方を巧みに変形させ、「長男であろうがなかろうが、いずれ介護を必要とする親のために実家を継ぐ」という安全弁を見つけたのかもしれません。そこにあるのは、「よほどのリスクを冒さない限り、収入が増えることはない」という諦めの境地です』(前出・都内メンタルクリニック院長)

●日本的な“同居”にも良い面はあるが、一度は実家を出てみる勇気を

いろいろな視点からお話ししてまいりましたが、私は日本的な何世代かの同居というものを否定するものではありません。実際、妻と結婚して20年以上、親が住む実家とは離れて自分と妻と娘と息子の核家族で暮らしていましたが、父親が高度の認知症になり、母親はリウマチをきっかけに体がボロボロになり、妻ともいろいろ話し合ったうえで実家の方を畳み私の自宅マンションの方へ同居させるという対応策をとりました。

同居してからそう長くは父親の命は持ちませんでしたが、それでも父親の人生の最後の日々を過ごさせる環境としては、よかったと思っています。日本的な“同居”の良さは、間違いなくあります。また、“変わらない土地”“変わらない故郷”“先祖が眠る場所”としての「実家」という価値観もあると思います。

『けれど、これから“恋”をし、“愛”を知り、子どもを生み育てる時期にある若い人たちが親元を一度たりとも出ない。出ようともしない。この姿は、経済的な事情を最大限に考慮したとしても、私たちが暮らす社会が持続して行くうえでの懸念材料だと言わざるを得ません』(前出・都内メンタルクリニック院長)

ご相談者様。今、“マイルドヤンキー”と呼ばれて、地元が大好きで、仕事も遊びも地元で完結させるようなライフスタイルの若者が増えていると言われております。

が、彼らの中にも“地元には居つづけているが、親の家は出て暮らしている”人たちが少なからずいることもまた、事実なのです。親に甘えることのできない環境に一度でも身を置いてみると、自分以外のものを思いやることができるようになります。

つれづれなるがままにお話ししたようなことについて、息子さん、娘さんと話し合う機会を持たれることも、子どもさんたちの今後の人生にとって、無駄ではないかと思います。

【参考リンク】

・『若者の住宅問題』認定NPO法人ビッグイシュー基金(http://www.bigissue.or.jp/activity/info_14121201.html)

(ライタープロフィール)

鈴木かつよし(エッセイスト)/慶大在学中の1982年に雑誌『朝日ジャーナル』に書き下ろした、エッセイ『卒業』でデビュー。政府系政策銀行勤務、医療福祉大学職員、健康食品販売会社経営を経て、2011年頃よりエッセイ執筆を活動の中心に据える。WHO憲章によれば、「健康」は単に病気が存在しないことではなく、完全な肉体的・精神的・社会的福祉の状態であると定義されています。そういった「真に健康な」状態をいかにして保ちながら働き、生活していくかを自身の人生経験を踏まえながらお話ししてまいります。2014年1月『親父へ』で、「つたえたい心の手紙」エッセイ賞受賞。

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