頭の中ではじけた声【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第13話】

慎吾が近所の公園でボールを足首に乗せる練習をしている時だった。後ろから声がした。

「おい、慎吾? 慎吾じゃないか」

昔のサッカー仲間だった。慎吾はドキっとした。あの事故以来、慎吾は引きこもりになったと噂を流した連中だ。表面では頑張れ、立ち直れと言っていたが、影で「もうあいつはおしまいだ」と言っているのを耳にした。それから慎吾は人を信じなくなっていたのだ。

「なんだ、サッカー復活したのかよ。すげえなあ。エースストライカーだったもんな。怪我、治ったんだ」

「おい、今、どっかの会社に所属してるのか?」

「てか、自宅療養してるって聞いてるけどな」

興味本位の質問が矢継ぎ早に飛んでくる。慎吾の心の窓が、またバタンと閉じようとしている。ボールを脇に抱えて、下を向いた。

「何か言えよ。どうしたんだよ」

体育会系のいかつい奴が声を荒げる。こんな奴らと一緒にサッカーをしていた自分が馬鹿みたいに思える。こぶしを握ると、桃香の艶やかな声が頭の中ではじけた。

"慎ちゃん、強くなんなよ。負けてない?"

慎吾は顔を上げて3人の男達をキっと睨んだ。

「今はフットサルをしてる。こいつと離れる事はできないって思ったから」

ボールを手のひらの上に乗せてスっと彼らの前に差し出した。

「お前らもフットサルやれよ。試合を挑むよ。絶対負けない自信がある」

3人は、黙って顔を見合わせる。

「…へえ…そうか。ま、いつかフットサルやろうや」

「あ、ああ。いいね、フットサル…」

その場を繕う言葉が続く。

「じゃあな、慎吾」

3人は背中を丸めて立ち去った。

「おにいちゃーん、ボール、おねがいしますー、そっちに転がったあ」

小学生の男の子がサッカーボールを追いかけて走って来た。

コロコロ転がってくるボールを足で止めて、

「おにいちゃんも練習に混ぜてくれよ」

と慎吾は笑った。

「ほんと? 教えてくれるの? おにいちゃんプロ選手でしょ」

男の子がニカっと笑う。

「なんで、プロなんだよ?」

「立ってるだけでわかるよ。ボール持って立ってる姿がチョー様になってる。ただ者じゃないって感じ」

「おもしろいこと言うなあ。チーム名教えてくれよ」

慎吾はボール二つを両手に抱えて男の子と歩き始めた。

(続く)

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(二松まゆみ)

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