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ワーキングガールと新しい世界

  • 2018.6.12
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ティファニー・ゴドイが語るコレクションレビュー
今シーズンのトレンド「ワーキングガール」が生まれた社会背景を、「ダイバーシティ」の広がりとともに解説!

すべては#MeTooから始まった

女性へのエンパワーメント。このキーワードを打ち出すブランドが、今シーズン非常に多かったですね。その背景には、間違いなく近年の社会情勢があります。ファッションとは、社会と文化の鏡。なぜならデザイナーは、世の中の人々がどんなものを欲しているかを感じて、そのシーズンの女性像を編み出しているからです。この女性へのエンパワーメントが起こるきっかけとなったのが、2017年10月、女優のアシュレイ・ジャッドが映画界におけるセクハラを告発したこと。これに呼応して「#MeToo」運動が勃発。このムーブメントは音楽、ファッション、スポーツ、料理界、そして政界にまで広がりました。’18年1月21日には、「Women’s March」が世界中で行われ、同月7日のゴールデングローブ賞では、出席者が黒いドレスをまとい「Time’s Up」を表明。映画といえば’17年に全米で公開し大ヒットした『ワンダーウーマン』!強い女性の主人公を実はみんなが求めていたこと、女性がアクション映画の監督を完璧に務めうることを証明してみせました。

世の中のダイナミズムが、パワー・ウーマンを生み出した

こうした世の中の大きなうねりを受けて女性へのエンパワーメントをデザイナーたちが意識した結果、今シーズンのランウェイを「パワー・ウーマン」というトレンドが席巻します。その中で一大勢力となっているのが「ワーキングガール」。なかでも女性の社会進出が目覚ましかった80年代を彷彿させるパワーショルダーやスーツなどの強い女性像が大本命。アレキサンダー ワンやジバンシィ、マックスマーラがモダンにアップデートしています。マーク ジェイコブスもマーケティングを一旦脇に置き、ファッションが活発だった80年代を思い起こさせるクチュールライクな服作りを展開しました。同じく話題を呼んでいるのが「ポスト・フィービー」の行方。フィービー・ファイロの服を愛していた働く女性が求める静かなる強い服。その担い手となるのが、ルメールやジル・サンダーです。

一方でカルバン・クラインやメゾン マルジェラはジェンダーレスなユニフォームを展開。メンズのストリートではすでにトレンドのユニフォームを、ウィメンズのクチュールの歴史で生きてきたジョン・ガリアーノが手がけることに意味がある。このように「ワーキングガール」にはオフィスワーカーだけでなく、働くすべての人のための服が含まれています。

今、女性はさなぎから蝶へと羽ばたこうとしている

「パワー・ウーマン」に話を戻すと、さまざまな女性デザイナーが異なるかたちで表現しています。たとえばアレキサンダー・マックイーンのサラ・バートンは「女性のメタモルフォーシス(変身)」をテーマに現代女性を、さなぎから蝶へと自由を求めて羽ばたこうとする姿にたとえました。ディオールのマリア・グラツィア・キウリはさらに直接的にフェミニズムを打ち出してきました。面白かったのはヴェルサーチのドナテラ。英国の歴史に敬意を払いながらも、パンクの精神で刺激的なミクスチャーを提案。立場によって装いが異なる、イギリスの階級社会の崩壊を示唆したのです。この背景には’17年11月にヘンリー王子と婚約したメーガン・マークルの存在があります。アフリカ系アメリカ人の母を持つ米国出身の彼女が王室に入るというのは、多様性の意味においてきわめて重要なことです。

多様性をより大胆にミックスしたのが、新世代では群を抜いた才能を見せる、マリーン・セール。彼女はフュージョンの天才。たとえばヘッドピースは一見、水泳キャップにも、ムスリム由来にも見える。フレンチシックな着こなしにも見えてくる。つまり誰がどんなふうに解釈して身につけても問題ない。多様な社会的コンテクストをのみ込んで、エネルギッシュな現代女性のための服に昇華しているんです。

また今季はブラックのモデルがファーストルックを務めることも多かった。漆黒のヒー ローが話題を呼んだ映画『ブラックパンサー』の大ヒットや、その映画のプレミアムパーティでケータリングを手がけたブロンクス出身の黒人シェフ集団「ゲットーガストロ」の台頭なども、多様性の文脈で語ることができます。

二人のゲーム・チェンジャーがファッション界に革命を起こす

そもそもファッション界に多様性の価値観を浸透させたのは、’15年にグッチのクリエイティブ・ディレクターに就任したアレッサンドロ・ミケーレと、同時期にバレンシアガのアーティスティック・ディレクターに就いたデムナ・ヴァザリアでした。この二人のゲーム・チェンジャーが、今季、また新たな価値観「政治と社会責任」をファッション界に持ち込みます。バレンシアガはWFP(国際連合世界食糧計画)とパートナーシップを組んだコレクションを発表。グッチは100万人以上をまきこんで行われた銃規制デモ「命のための行進」への支援として、50万ドルを寄付しました。これらが意味するのは、ブランドが特定のブルジョアに向けて服を作る時代の終焉。社会全体に対して「We are One World」で責任を取っていこうということなんです。女性だけではなく、これまで力に抑圧されていたさまざまな人種、年齢の人々が、アンチを唱えて行動を起こしている。「白髪のおじさんたち」が支配していた世界が今、少しずつ終わろうとしています。今シーズンのファッションが目指すのは、革命を起こそうと動き出す人々のための服作りなのです。

TIFFANY GODOY
アメリカ出身のファッションジャーナリスト。現在パリと東京をベースに活動中。「SSENSE」などのメディアに寄稿しており、7月1日に、メディアプロジェクト「The Reality Show Presents」をローンチさせる。ブランドのコンテンツ制作も行う。

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