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『VOGUE JAPAN』7月号、編集長からの手紙。

  • 2018.5.28
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「The Spirit of Light」 PVCやメッシュなど、見た目にも軽い素材を用いたバッグ&シューズを一堂にピップアップ。この夏、軽やかなレディを目指して。 ブーツ ヒール H4cm ¥127,000/CHANEL(シャネル カスタマーケア 0120-525-519) Photo: Masaki Ogawa
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“愛”は軽くて、「いい加減」に。

私は「いい加減」という言葉が好きです。「いい加減」って、深く考えないまま「適当」に物事に対処する、というイメージですよね。重ねて言うと、私は「適当」という言葉も好きです。いずれも、「真面目に信ずるに足らない、軽い言動」に対して発せられる表現、というのが最もなじみのある解釈です。しかしながら、ご存知のように両方の言葉に含まれる意味は、それだけではありません。一方で、「いい加減」は「いい具合で適度な様子」であり、「適当」は「適してほどよい」状態を指す場合もあるのです。それってかなり素敵な言葉だと思いませんか?

「完璧」なんて世の中には、そうそうありません。そもそも「完璧の基準とは? 」と問い始めると、答えはまず見つかりませんよね。「完璧」を求めたとしても、なにかにつけて「欠落」の方が目について嘆くことになりがちです。言ってみれば「完璧」という目標は人間が生み出したフィクショナルな概念なのではないでしょうか。そんな「不可能」に悩むより、「いい加減」に満足して、楽しむ方がどれだけいい感じ(=いい加減)なことか。しばしば、そう思うのです。

そこで今月は、明るい季節の到来とともに、「テキトー(適当)」な軽さに心を寄せてみませんか。テーマは「Light Hearted」。「気軽な、気楽な、快活な」といった意味です。まずは、パリで活躍する日本人デザイナーのパイオニア、髙田賢三さんにご登場いただきましょう(p.224)。モデルの我妻マリさんと日本のモード史を振り返る対談で、賢三さんは初めて滞在したパリでのエピソードを語ってくれました。「日本人には無理」と言われ、パリでデザイナーになれるとは思っていなかったにもかかわらず、帰国する直前に突然デザイン画が描きたくなって、「フランス語もできないのに批評でもしてもらおうと」飛び込みで当時の人気デザイナーのアトリエを訪れたとか。まさに、「軽い気持ちで」とった行動だったのでしょう。

しかし、それが人生の大きな転機となったのです。賢三さんはまた、ファッションショーをスペクタクル化した元祖でもありました。当時はモデルが無音の中、ただ会場を歩くだけのショーが当たり前でしたが、彼はそこに音楽を入れ、白馬にモデルを乗せ、お城でイベントを開いてショーを見せたのです。まさに、今競われている多角的演出のファッションショーの先取りでした。それもこれも、「ショーの経験もなくパリに来たから、やり方が分からなくて」「ただ自分が面白いと思うことを」やっただけ、と言います。いろいろなことを知りすぎて、考えすぎると、人は身動きができなくなるものです。賢三さんのすごさは、その並外れた「いい加減」な「身軽さ」にあったのではないでしょうか。異国から来たピーター・パンのような“少年”がファッションの伝統や歴史を変えてしまったのです。

今月号では毎年恒例となったビューティーの大特集を組んでいます(p.105)。今回のテーマは「愛に満ちたボディになる」。愛とは、パートナーとの関係だけではなく、自分自身や大切な周りの人々に対して感じる調和に満ちた「愛」をイメージしています。その「愛」を高めるための食生活や女性ホルモンとの付き合い方、カップルでのエクササイズ、自身の女性性を見つめることなど、さまざまな企画を考えました。

特集の最後に登場するのは最近婚約を発表したグウィネス・パルトロウです(p.124)。彼女の「パートナーシップについての悩み」にカップル・セラピストが答えているのですが、お互いの関係づくりで大切なのは、「パートナーにすべての面で頼るのはやめて」ということだそう。「近代的な愛の概念では『パートナーがすべて』という考え方が押しつけられている」、と言います。女性たちの周りには、パートナーのほかにも友人や、家族、物知りの知人や頼りになる先輩など、さまざまな人間がいて、それぞれとの関係をバランスよく大切にすることでカップルの関係も良好になるということなのだと思います。「重い」関係は破綻のもと。Light Heartedな「軽さ」が愛にも必要なんですね。「適当」に育む愛って、なんて素敵に「いい加減」なんでしょう!
参照元:VOGUE JAPAN

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