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少年の夢から始まった奇跡のバナナ『もんげーバナナ』[岡山もんげーバナナ/岡山県岡山市] by ONESTORY

  • 2018.4.30
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「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに47都道府県に潜む「ONE=1ヵ所」の 「ジャパン クリエイティヴ」を特集するメディア「ONESTORY」から岡山県岡山市の「岡山もんげーバナナ」を紹介します。

岡山生まれの岡山育ち。熱帯果樹のバナナが日本の本州で育った!

日本の本州で熱帯果樹のバナナを、しかも無農薬で栽培する――そんな奇跡ともいえる偉業を成し遂げた人物が岡山に存在します。株式会社D&Tファームの取締役・技術責任者の田中節三(せつぞう)氏。もともとは農業とは関係のない企業の経営者でしたが、幼い頃からの夢をかなえるために、趣味でバナナの栽培を始めました。

その夢とは、かつては滅多に口にすることができなかった高級品のバナナをお腹いっぱい食べること。田中氏の幼少時代はバナナは非常に高価な贅沢品で、病気になった時かお祝いの時くらいしか食べることができませんでした。そのため、試行錯誤して40年前から自ら栽培を始めたのです。

「農業の素人」の執念が、夢のバナナを創り出した。

田中氏は、農業に関しては全くの素人でした。最初は「熱帯の気候を再現することから始めよう」と、ビニールハウスに電気ストーブを設置。ですが、ストーブが発する遠赤外線には植物を弱らせる性質があった上、気温も思うようには上がりませんでした。そんな試行錯誤を10年近く繰り返した末に、どうしても上手くいかずに諦めかけてしまったといいます。そんな時、それまでの発想をガラリと変えるきっかけを得ました。

それは、偶然目にしたソテツの化石でした。「生きている化石」とも呼ばれている、同じ姿のままで何千回もの氷河期を乗り越えてきた植物。「バナナはその時どうだったんだろう?」「熱帯でなければ育たないバナナが、どうやって極寒の氷河期を乗り越えてきたんだろう?」。バナナにも寒さに耐える力が秘められているのではないか――田中氏はそうひらめいたといいます。

バナナに秘められた「生き延びる力」。氷河期の記憶を呼び覚ます驚きの発想。

そして、「バナナの苗を凍結させる」という大胆極まる方法を思いついたのです。「あえて凍らせて過酷な状態に置いてみれば、バナナも必死に生き延びようとするのではないか」――生命の歴史上、氷河期は爆発的な進化のきっかけとなってきました。極寒の時代に淘汰されなかったバナナにも、その記憶と力が秘められているはず。氷河期の状態を人工的に作り出すことで、バナナの底力を引き出してみよう――田中氏の目論見は、見事に成功しました。

苗の一部を切り取って、ある液体につけた上で、零下60度で凍結。20年間の実験の末にたどりついたこの方法で、ついに岡山での露地栽培に成功しました。一旦氷河期の状態に戻してから植え直されたバナナは、寒さに非常に強くなるだけでなく、成長まで速くなるといいます。『凍結解凍覚醒法』と名づけられたこの方法で、更に育ちの良い、かつ甘みの強い苗を選別していきました。そして、ついに商品化に申し分ない美味しいバナナを完成させたのです。「ずっと想い続ければ成功する」をポリシーとしていた田中氏の、一途な想いと不屈の信念が成し遂げた奇跡でした。

こうして開発された奇跡のバナナは『もんげーバナナ』と名づけられました。「もんげー」とは、岡山の方言で「すごい」という意味。バナナの天敵となる害虫や病原菌が存在しない冷涼な土地でも育てることができるため、無農薬で安全です。更に、収穫できる量も多く普通のバナナよりも数段甘い。まさに「すごい」としか言えないバナナで、ぴったりのネーミングでした。

バナナが贅沢品だった頃の懐かしい味。かつての名品種を更に美味しく。

『もんげーバナナ』を食べた人が一様に驚くのは、その味だといいます。市場に出回っている輸入品のバナナとは、ひと味もふた味も違う甘さ。一般的なバナナの糖度は約18.3ですが、『もんげーバナナ』はなんと約24.8もあります。また粘りが強く香りも豊かで、スイーツ店からの引き合いも多いそうです。

その秘密は『凍結解凍覚醒法』だけでなく、品種にもありました。現在市販されている一般的なバナナは、かつてバナナの生産地で流行した『パナマ病』への耐性を持つ「キャベンディッシュ」という品種ですが、田中氏が幼少の頃に食べて感動を覚えたバナナは、それ以前に流通していた「グロスミシェル」という品種でした。台湾バナナの系統で、かつて贅沢品として珍重されていた想い出の味。当時を知っている50代以上の人は「死ぬまで食べられないと思っていた!」と感激し、それより若い世代は「今まで食べたことのない味!」と驚くそうです。
「更に無農薬・無化学肥料なので皮まで食べられます。皮は渋みもなくて、栄養素が非常に多い。マグネシウム、カリウム、亜鉛などのミネラルが豊富に含まれているので、体に良い食べ方として推奨しています」と田中氏。

商品価値が高い熱帯果樹で安定的な農業経営を。食糧危機をも救う可能性。

『もんげーバナナ』を開発した株式会社D&Tファームには、日本全国から農家が視察に訪れます。北はなんと北海道や東北からも。なぜなら、そこでも『もんげーバナナ』は育てられるからです。代表取締役の田中哲也氏は、「『凍結解凍覚醒法』は、世界の農業を救う可能性も秘めています。海外のバナナ生産地では近年『新パナマ病』という病気が猛威をふるっています。克服する方法はまだ見つかっておらず、世界中のバナナ生産地が壊滅的な被害を受けています。

日本に輸入されているバナナの主要な生産地であるフィリピンからの輸入量は、120万tから75万tにまで激減してしまいました。でも、『新パナマ病』の原因となるカビ菌は冷涼な日本では生きられません。たとえ外から入ってきても死滅します。日本で売られているバナナは99%が輸入品ですが、いずれはオール国産にできるのではないでしょうか。

それだけでなく、『もんげーバナナ』と『凍結解凍覚醒法』による様々な耐寒性作物が、今後フィリピンや東南アジアに輸出される時代が来るかもしれません」と語ります。

日本の農業と世界の食糧危機を救いたい。危機に挑む壮大な夢。

株式会社D&Tファームでは、バナナだけでなく、コーヒー、パパイヤ、グァバ、パイナップル、ライチなどの熱帯果樹を数多く栽培しています。その数、なんと約230種類以上。「グァバは種を凍結させると、ナスと同じくらいの気候で育つようになります。トウモロコシ、ジャガイモ、大豆、麦などの主食となる作物も、いずれはシベリアなどの寒冷地で作れるようにしたい。そうすれば、人口の激増と世界的な気候の変動によって起きている食糧危機を救うことができます。日本の食糧自給率を100%にするのも夢ではありません」

更に節三(せつぞう)氏と哲也氏は、この技術を独占せずに、日本全国から栽培農家を募集しています。希少価値のある高級果物を安定した価格で販売して、持続できる農業を目指すというビジネスモデル。賛同者には、苗や栽培方法だけでなく販路開拓の支援まで行っているといいます。単に果物を販売するのではなく、同業者に苗を販売する。「日本の農業全体を振興したい」という想いから始まったwin-winのビジネスです。

岡山生まれ、岡山育ちの純国産『もんげーバナナ』。「バナナをお腹いっぱい食べたい!」という少年の夢から始まった新技術が、農業を革新していきます。

写真提供:農業法人 株式会社D&Tファーム

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