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『VOGUE JAPAN』5月号、編集長からの手紙。

  • 2018.3.29
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パリコレのバックステージで魔法の杖を持って。次号『VOGUE JAPAN』2018年6月号(4月28日発売)でも、ファッションの“モードな魔法”を感じずにはいられない大人気企画をフィーチャー。パリコレをテーマパークに見立てて、2018年秋冬のコレクションの表と裏を余すことなく紹介しますので、乞うご期待。 Photo: Ryusuke Hayashi
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自分だけの魔法アイテムで、いざ変身!

子どもの頃に、おもちゃの魔法の杖やコンパクトを持っていた記憶のある女の子はたくさんいるのではないかと思います。自分だけに通じる呪文とともに、変身や現実を変える魔法を密かにかけていたはず。例え、目の前の現実が実は変わらなくとも、その魔法の小道具と呪文は、小さな自分自身を守ってくれる大切なお供だったことには違いはありません。

そのお供は、キラキラしていたり、ピンクやブルーのキャンディのような可愛い色でできていたため、持っているだけでも「気分が上がる」お守りのような存在だったから。今思うと、大人になった私たちがアクセサリーを買うときの気持ちの原型は、すでにそんな「魔法アイテム」を身につけるときに芽生えていたのかもしれません。

コム デ ギャルソンの2018春夏コレクションのショーに登場した、プラスティックの山盛りのおもちゃのアクセサリーを見たときに、子どもの頃に抱いたそんなワクワクする気持ちを思い出した人も多かったのではないかと思います。「Making Magic」。人から見たら、役に立たない単に価値のない「おもちゃ」に見えるものでも、自分にとっては大切な「宝物」であり、自分を、はたまた世界を変える力を持つかもしれない「魔法」の力を宿すものとしてのファッションのパワーを今月号ではテーマにしたいと考えました(p.093)。

女の子にとっての「魔法アイテム」のイメージの原型は、マンガやアニメーションから得られたものが多いと思いますが、魔法が生み出したものとして誰もが思い浮かべる物語としては「シンデレラ」の魔法の馬車やドレス、ガラスの靴があるでしょう。それは真夜中の12時に消えてしまう儚い幻のイメージですが、一晩限りでも自分に違う人生の夢を与えてくれるものであり、「王子様に出会う」チャンスを与えてくれる、かけがえのない「幻」です。実際、シンデレラは見事そのきっかけを生かして、「王子様と結ばれる」という「運命の変化」を手に入れるわけですが、彼女自身が魔法を操る力を持っているわけではありませんでした。

そんな魔法のパワーに魅せられた女の子たちの願望を担うように、日本のマンガ&アニメ文化では、自らが魔法の力を持った少女たちが大活躍する「魔女っ子」の系譜が脈々と進化してきました。魔女っ子キャラに精通するコラムニスト、ブルボンヌさんによれば「かつて、専業主婦が主流だった時代には、魔女はあくまでかわいらしい存在でした。その後、女性が社会進出を果たし、自らのスキルや魅力を武器に活躍し始めたころに登場したのが、戦う魔法少女たち」だったと言います(p.134)。

少女たちは「自分の幸せ」だけでなく、「世界」のためにそのマジックパワーを使う、より広いステージへと活躍の場を広げるわけですが、そこには新たな苦悩も……。「女性たちが社会で成功してパワーを得れば得るほど、周囲からのプレッシャーや羨望により孤立」という事態が。つまり、自らのパワーの「負の部分」も引き受けなければならない新しい領域に最新の「魔女っ子」=「現代女性」は直面し始めたのだといえるでしょう。

すべてに完璧なスーパーウーマンなどいない、では、自らのパワーとどう付き合っていくのが、人間らしい幸せといえるのでしょう。その答えそのもの、というわけではありませんが、ひとつのヒントとして今月号では、アメリカで最近話題の「夢を叶えた」女性たちを紹介しています(p.154)。その中の一人が、ダイアナ・ロスの娘で、女優として注目されるトレイシー・エリス・ロスです。45歳独身で子どもはいない。人気テレビドラマの主演で大成功し、ユーモアのある知的な発言で支持を得るゴールデングローブ受賞者。

それでも「子どもや結婚」のことについて彼女はまだ「文化的な圧力」を感じると言います。「私がこれまでやってきたことや、私が何者であるかなど重要ではないかのように」。そしてある受賞スピーチでこう語っています。「私は大人になる過程でいつのまにか刷り込まれた女性のあるべき姿などではなく、これからは自分の人生の現実と大きな夢に目を向けるつもりです」。自分のパワーは、ありのままの自分と向き合うことから生まれるもの。社会や他者の「あるべき何か」のためではなく。

最後に、最新の映画で見た「Making Magic」なお話について触れたいと思います。それは、アマゾンから連れてこられた「半魚人」と人間の女性とのラブストーリー。昔ながらのお話では、女性の温かい心により「怪物」は最後にステキな王子様に変身したりするものでしたが、最後まで「半魚人」は「怪物」のままで、女性主人公は地味な「清掃職員」のまま。本作で今年のアカデミー賞監督賞を受賞したギレルモ・デル・トロ監督は「変わらない存在そのものを受け入れる愛」を描きたかったと語っています。それこそが「本物の魔法」であるのでしょう。魔法の馬車もガラスの靴も、「半魚人」には意味ないし……。
参照元:VOGUE JAPAN

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