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アライアよ、永遠なれ。回顧展、そしてブティックと香水と。

  • 2018.2.20
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アライアの『私はクチュリエ』展で見る、珠玉の41点。

昨年11月18日、大勢のモード関係者を突然の訃報で悲しませたクチュール界の巨匠アズディン・アライア。彼と家族のような関係にあった親しい人々が、2ヶ月という短期間で彼にオマージュを捧げる回顧展『私はクチュリエ』展をオーガナイズした。19世紀後半の鉄骨建築の建物内、アライアのギャラリーであり、またアライアがショーを行い、展示会を行っていた場所が展覧会場となっている。外の美術館で行うのではなく、アライアのメゾンの一部でという内輪的な意味合いもあるイべントなのだ。

ヴェールリィ通り18番地の奥、19世紀の鉄とガラスの建築物が展示スペースとなっている。中央に、最後となった2017秋冬のクチュールコレクションからの3点を展示。©Alaïa

若き日のアズディン・アライア(1940〜2017)。チュニジアで彫刻を学んでいる時にクチュールに興味を持った彼は、1957年にパリにやってくる。ギ・ラロッシュのメゾンで2シーズン仕事をし、パリのオートクチュールに接した後、自宅兼アトリエでクチュリエの道を歩み始める。1970年代、作家ルイーズ・ドゥ・ヴィルモランや女優のアルレッティなど当時のエレガントなセレブリティ女性たちが彼の顧客となった。© Lord Snowdon 1990

建築的、ボディ・コンシャスと讃えられるアライアのドレス。1990年夏。©Alaïa

革のビスチェのドレスは2003年夏。

1986年冬のクチュールコレクションより。アライアのドレスは女神のようなシルエットと形容された。

展示されているのはアーカイブから選ばれた、1981年から2017年までの41点。キュレーターを務めたのは、元ガリエラ美術館の館長で現在ウエストンのADを務めるオリヴィエ・サイヤールである。2013年に改装を終えたガリエラ美術館の初の記念すべき展覧会を『アライア』展に決めたオリヴィエは、その展覧会の準備にあたり、アライアと実に多くの時間を過ごしている。それも、アライアのダイニング・キッチンで彼による手料理を食べながら、だったとか。そんなオリヴィエゆえ、『私はクチュリエ』というアライア自身の言葉を今回の展覧会のタイトルにすることがごく自然に浮かんだという。デッサンを描くところで終わらず、実際に布に触れ、自分自身でハサミを使い、針と糸を操って服作りをしていたアライア。それゆえに、自分はスタイリストではなくクチュリエであると生前繰り返し語っていた。私はクチュリエ、と言えることをアライアは大変誇りに思っていたのだ。

シーズンごとの流行にはこだわらず、女性の体がもつ立体的な美しさを賛美する服作りをアライアは追求していた。

展示のための樹脂製透明マヌカンは、各ドレスに合わせた特製。マヌカンの存在が消えて、ドレスを最高の状態で見せることができる、というアライアの考えからだ。

2013年グラミー賞のセレモニーでリアーナが着用した赤のドレスは、1996年夏のオートクチュール。

会場構成はアーティストのクリス・ラッシュが担当。自身の『Hanging Garden』展が2015年にここで行われたこともあり会場を熟知している彼は、パールのロング・ネックレスが壁を優しく這うように服を配置。パールの1粒ずつがアライアのドレスというイメージになっている。“珠玉の”という形容がふさわしいアライアの服に、まさにぴったりな展示法といっていいだろう。セレクションの基準はアイコン的、歴史的な作品によって彼のクリエーションの全体像をみせるということで、予定は35点だったが、絞りきれずに最終的には41点の服の展示となった。過去から現在にいたる服をメゾンのアーカイブでオリヴィエが実際に手にとりながら行ったセレクションである。チュニジアに生まれ、現地のボ・ザール校で彫刻を学んでいるアライアにとって、黒はデッサンの筆の色、白は石膏の色。1979年の最初のコレクションから、黒と白が彼のクリエーションの基礎をなす色だったことから、展示もほぼ白と黒でまとめられている。

アライアのオートクチュール・コレクションからの展示に混ざり、1981〜83年の革のデイウエアも3点展示(写真左)。これはアライアが最初にマスターした素材ということからだ。隣の白いドレスは1986年夏のコレクションのもの。

ロンドンのデザイン・ミュージアムでも、5月10日から10月7日まで、『Azzedine Alaïa, the couturier』の開催が予定されている。これはアライア自身も生前に関わっていたプロジェクト。ミーティングの過程で表明された彼の意思を尊重した展示となるらしい。

ブティックにジュリアン・シュナーベルの大型作品を飾り、試着室にマーク・ニューソンの椅子を置いていたことからもわかるように、アライアはデザインとアートのコレクターとしても名高かった。ジャン・プルーヴェを始めとする彼が所蔵した多くの作品、そしてグレ、ヴィオネ、チャールズ・ジェームスなどのクチュールピースの逸品のコレクションなど、すべてをFondation Azzedine Alaïaが管理。今後、それらをベースにさまざまな企画展を開催していくそうだ。アライアの視点、美意識を共有できる素晴らしい機会に期待しよう。

Azzedine Alaïa : « Je suis Couturier »
会期:開催中~2018年6月10日
Galerie Azzedine Alaïa
18, rue de la Verrerie
75004 Paris
開)11:00~19:00
無休
料金:5ユーロ

≫ ブティックでは新たにサングラスのコレクションが登場。

女神のようなボディは、ブティックのプレタポルテでも得られる。

「身体は小さいけど、才能は巨大」と言われたアズディン・アライア。スーパーモデルたちが、こぞって彼の服を着たがり、ずっと彼の服を愛し続けたのは、彼の温かな人柄だけが理由ではない。アライアは女性の誰もが、自分は美しい! と感じることのできる服を作り続けたクチュリエだ。展覧会場で彼のクチュールにため息をついた後は、プレタポルテを販売するブティックに行ってみよう。ナオミ・キャンベルやグレイス・ジョーンズといった特別なボディの持ち主だけがアライアを着ることができるのではないことが、確かめられる。

何年か前に8区マリニャン通りにもオープンしたけれど、展覧会場に背中合わせしているブティックが彼のファーストブティックである。選び抜かれた素材に素晴らしいカッティング、縫製が施された服を試してみると、アライアを着るということはこういうことなのか、と背筋が伸びる体験ができるはず。現在ブティックに並ぶ春夏コレクションは、アライアの生前に出来上がったもの。白、黒、赤、黄色、そしてペトロリアム・ブルーが美しい。チュニック、シャツ、プリーツドレス……いかにもアライア! といったシルエットが勢揃いし、さらにバッグやスニーカーのセレクションも、とても豊富だ。さらにこの春夏シーズンからは、サングラスのコレクションが加わった。スタッズのアラベスクモチーフがブラックフレームに描かれていたり、とってもアライア! である。

春夏コレクションから。メタリックな花はスニーカーにも、ドレッシーなサンダルにも。

レーシーなディテールが軽やかな靴やバッグで、盛夏もおしゃれに。

プレタポルテにも用いられる細かいスタッズが魅力のバッグ。

アライアのメゾンでは、彼が残した素晴らしい遺産から年に2回のコレクションが生まれ続けるそうだ。さらに2018〜19秋冬コレクションからは、Editionと名付けてアーカイブからの復刻アイテムも販売される。初回は10点ほどで、オーバーサイズの革のコート、厚手ウールのコート、バスク付きシャツ、革のビスチェ……。流行に無縁のクリエーションを続けたアライア。時代を超えて愛することのできる服との出合いは、彼から全世界の女性たちへの贈り物だといえるだろう。

全17型からなる2018年春夏のサングラス・コレクションより。ありそうで見つけられない! というフレームのフォルムと色! サングラスはKering Eyewearとのコラボレーション。

オー・ド・パルファムは黒、白、ヌード。

ブティックでは3種類のオー・ド・パルファムも販売されている。マイ・ファースト・アライアは香りから、というのもいいだろう。

黒いボトルに入った初のオー・ド・パルファムが発表されたのは、2015年。ボトルのデザインは、アライアと親しかったマルタン・ゼケリに託された。アライアのコルセットやバッグでおなじみのパンチング・レースのモチーフが凹凸を描き、まるでオブジェのようなボトルである。

ムスク、ローズペッパー、フリージア……彼の祖国チュニジアの大地の熱気とフレッシュな水を思わせる情熱的で官能的な香りは、アライアの子ども時代の思い出から生まれたそうだ。この香りについては、ボディクリームやボディオイルといった品も揃っている。女性だけでなく、男性のファンも多いとか。

Alaïa ParisのL’Eau de parfumは黒のボトル。30㎖、50㎖、100㎖の3サイズあり。

2017年、今度は光を感じさせる透明なボトルのオー・ド・パルファム・ブランシュが生まれた。黒のボトルではミステリアスなレース模様だが、このボトルでは通り抜ける光によってヴェールのような陰影をつくる。白くミルキーな花、パウダリー、ヴァニラ、ムスク……フェミニティが甘く香るオー・ド・パルファム・ブランシュは、アライアがグラナダでアルハンブラ宮殿を訪問した際の印象にインスパイアされた香りだ。

L’Eau de parfum Blanche。こちらも3サイズあり。

黒と白に、今年、シアカラーのオー・ド・パルファム・ヌードが加わった。身体のシルエットに沿ったアライアのドレスのように、セカンドスキンと呼びたい香りである。杉、白檀といったウッディノートに、トンカビーンズが温かみ、オレンジの花がビロードのような柔らかさを添え、そしてムスクが、ほんのわずかに野生的な顔をのぞかせる。柔らかな肌の繊細なセンシュアリティのヴェールを身体に纏うよう……。

最新作はL’Eau de parfum Nude。

シアカラーのパンチング・レースのコルセットやバッグなども、パフューマーには大きなインスピレーション源となった。

Azzedine Alaïa
7, rue de Moussy
75004 Paris
tel:01 42 72 30 69
営)10:00~19:00
休)日
www.alaia.fr

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