アイラブピンクペッパー【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第9話】

「慎ちゃん、なんでメールくれなくなっちゃったの?」

「…」

「フットサル誘ったから気を悪くした?」

「…」

「私、あやまらないわよ。嫌なら嫌だってはっきり言ってくれなくちゃ。プロの選手になれって言うんじゃないんだから、気軽に楽しめばいいじゃない。マネージャーになるんでもいいじゃない。」

「…」

「慎ちゃん、ほんとはボールと一緒にいたいんでしょ」

「ボールと一緒にいたい」という言葉に慎吾は、ハっと目が覚めたような気持ちがした。どうしてこんなに我慢しているんだろう。ボールと一緒にいることを。ボールを思い浮かべると胸が苦しくなるくらい寂しかった。だからわざと考えないようにした。サッカー友達とも縁を切った。

桃香の誘いは頑固な自分の殻をコツンとつついて割ってくれたようだった。サッカー選手になる夢はなくなってもボールと一緒にいることはできるんだ。その瞬間、するっと言葉が出ていた。

「桃香さん、フットサルの練習日、次はいつ?」

桃香は にっこり笑った。

「慎ちゃん、その前にさ、髪、へんだよ。ガオカはかっこいいイケメンいっぱい歩いてるんだから。そんなヘアスタイルしてると負けちゃうよ」

桃香は慎吾の頭のてっぺんにピョコンと立っていた鴨の毛を指で直した。慎吾は思いっきり恥ずかしそうに微笑んだ。

ふたりは普段歩かないような裏道を歩いた。3坪ほどの小さな香辛料専門店がある。さすが女性が愛する自由が丘。料理好きの女性は香辛料や隠し味にこだわる。それを知ってか、ここに来ると世界の料理がその味を再現できると思える品揃えだ。

棚を見回すとサラクワペッパーだのポナペペッパーだの聞いたことがない胡椒の名前を貼ってあるボトルが並んでいる。

「胡椒って、黒と白しかないと思ってたよ」

桃香がボトルを手に取ってじっと見つめる。

「桃香さん、僕に胡椒かけてくれた」

「はい?」

「じっとしてる僕が、なんか刺激されてピリってなった」

「おもしろいこと言うね、慎ちゃん」

「じゃあ、ピンクペッパーってかわいいから買ってみようかな」

お店のスタッフが「それほど辛くないんですよ。ほのかな香りで、色が美しいので、熱をくわえないで最後のひと振りにしていただくといいですね」

「僕、買う」

「鮎子に買って帰るの?」

「桃香さんに。僕に胡椒かけてくれたから。お礼」

「えー。おもしろすぎ。でもほんとかわいい名前だ。ピンクペッパー。半濁音がふたつはいてって、耳に残るね。知ってる? お菓子のヒット商品は名前にパピプペポのどれかが入ってるんだよ。愛されやすい音なの。とくにわかーい層にね」

「へえ、よく知ってるね。じゃあ桃香さんの歌にも入れればいい」

「ピンクペッパーの歌かあ」

「アイラブピンクペッパー…」

慎吾が小声で適当なメロディをつけて歌った。

「いけてない!」

桃香が背中を叩く。店員が、「とっても仲良しですね」と笑った。

(続く)

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(二松まゆみ)

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