ドリス・ヴァン・ノッテンがカメラの裏側で見せた素顔。

巨大企業の傘下には入らず、手軽なバッグや靴に頼ることなく、広告は一切出さない。自由なクリエイティビティと独特の美意識で、モード界に稀有な地位を築いたファッションデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテン。

彼の初めてのドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』が1月13日(土)から公開される。1年にわたりドリスに密着しカメラを回し続けた、ライナー・ホルツェマー監督にインタビュー! まずドリスとの出会いから語ってくれた。

『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』では、2015年春夏レディス・コレクションの舞台裏から、2016/17年秋冬メンズ・コレクションの本番直後までの1年間、デザイナーのドリス・ヴァン・ノッテン(写真右)に密着。

最初の出会いは、僕が写真家のユルゲン・テラーのドキュメンタリー映画を撮っていた時。ユルゲンのUS「VOGUE」撮影のために、ドリスが素晴らしい服を用意してくれたんだ。実はその時までドリスのことはよくは知らなかった(笑)。

服の美しさに惹かれたのと同時に、彼のキャラクターに興味を持ったんだ。ファッションデザイナーというのは、エキセントリックで少しクレイジーなイメージを持っていたんだけど、彼は正反対。謙虚で控えめなんだ。普通の彼が、普通とは言い難い、とてつもなく傑出した服を作っている、そこに惹きつけられたよ。


アントワープのアトリエにて。生地作りからスタートする創作過程もドリス ヴァン ノッテンの特徴。

「ドキュメンタリー映画を撮りたい」というホルツェマー監督のドリス・ヴァン・ノッテンへの取材交渉は、実に3年に及んだという。

最初は“YES”という返事はもらえなかった。でもオファーをし続けたんだ。いままで作った作品を送り、僕がどんなふうに被写体と向き合っているか、知ってもらった。アーティストのきらびやかな横顔ではなく、ものづくりの過程や、人物そのものに興味を持っていることもね。

ある時、ドリスに手紙を書いたら、彼から自筆の返事をもらった。そこには「本も出版するしエキシビションも計画していて、いまはとても忙しい」と書かれてあった。重要なのは、そこに“NO”という言葉がなかったことだ。これが大きなモチベーションになったよ。3年後にテスト撮影を依頼して、そのまま撮影に入ることになったんだ。


社内で仮縫いされた150〜160点ものサンプルから、発表する約50〜60体を絞り込んでいく。

カメラは、アントワープ郊外にあるドリス・ヴァン・ノッテンの自宅「ザ・リンゲンホフ」にも初潜入。広大な美しい庭でドリスが花を摘み、菜園で採れた野菜を料理する、豊かな私生活も伝えている。

ドリスの手料理は何度もごちそうになったけれど、とてもおいしかったよ。そう、自宅での撮影では、美しい瞬間が何度も訪れたんだ。いちばん印象に残っているのは、ドリスが花を摘んで、花瓶に活けているシーンだ。

ディナーにゲストを呼んでその準備をしていたんだけれど、1時間も2時間もかけて花をアレンジしていた。あれほどの情熱を注ぎ、美しいものを作ろうとしている人を僕は見たことがない。ドリスは、服であれ、花や食事であれ、美しいものを作ることを心から愛している人なんだよ。


今回初めて撮影が許された、アントワープ郊外のドリスの邸宅。

>>公私ともにドリスを見守るパートナーの存在。

公私ともにドリスを見守るパートナーの存在。

世界中の織物メーカーに発注した生地サンプルを、ドリス自らチェック。

映画では、ドリス・ヴァン・ノッテンの創作の過程もつぶさに映し出す。オフィスの床一面に広げた無数の生地のサンプルを吟味し、スタッフと議論し、異なる素材を合わせて、ドリスの世界を深めていく。これ以上ないほどシンプルなドリスの服装も印象的だ。

アトリエでの彼は、誰かと軽い話をする暇もないくらい、1日が完璧にオーガナイズされているんだ。朝9時くらいからデザインやコレクション、会社の経営について、時間ごとにスケジュールがびっしり組まれていた。そう、彼はいつも青系のシャツやニット、そしてベージュか青のチノパンを身に着けていたね。あれは、デザインや生地を厳選しなければいけないから、彼自身のスタイルは選ぶ必要がないようにしてあるんだ。


ドリスが、モデルの履くブーツのわずかなステッチの色にこだわるシーンがある。自らを完璧主義者と自嘲するドリスを公私ともに見守るのが、パートナーのパトリック・ファンヘルーヴェだ。ショーが終わったあと、バックステージに戻ったドリスを真っ先に優しく抱擁する姿が印象的だ。

ドリスのパートナーであり、長年ドリスとともにブランドのデザインやコレクションを担当するパトリック・ファンヘルーヴェ。

彼らはファッション界というストレスがかかる場所で30年以上もともにいるんだ。1日の半分をアトリエで一緒に仕事し、そして自宅に帰ってふたりの時間を過ごす。いつも一緒だ。お互いがそれぞれに果たす役割も興味深かったよ。

ドリスがクリエイティブになり過ぎた時に、パトリックがクライアントに受け入れられるものを作ることを忘れないで、と思い出させる。ドリスがシンプルなものを考えすぎていると、パトリックがもっと振り切って見たこともない新しいものに挑戦しよう、と背中を押すんだ。


愛するパートナー、癒やしの庭、そして信頼するチームに支えられているドリス・ヴァン・ノッテン。ファッションデザイナーとしての輝ける成功の裏には、影もある。

1年という時間、カメラを通して一緒に過ごしていると、旅の終わりには、それまで見えなかったことも見えるようになるものだ。ドリスは、自身の感情的な部分や、弱さをだんだんと吐露してくれるようになった。最後のほうのインタビューで、疲れることはありますか?という質問にYESと答えてくれた。

ファッションデザイナーの仕事は、その人に根ざしたパーソナルなクリエイションでなければならないと同時に、商業的に広く成功することも求められる。このふたつはそもそも矛盾しているから、当然ストレスがかかるよね。ドリスも大変なストレスと戦っていたし、最後にはデザイナーとして生きるうえでの弱さも見せてくれたよ。


ドリス ヴァン ノッテン 2016年春夏メンズコレクションより、挨拶をするドリス。

映画の冒頭で「時代を超えた、タイムレスな服を目指している。この撮影を通じて成否を判断してほしい」と語るドリス。このドキュメンタリーは、シーズンごとに未知の美しさに挑む、ひとりのデザイナーの愛の記録だ。

Reiner Holzemer
1958年ドイツ・ゲミュンデン生まれ。ドイツ語圏のドキュメンタリー界をけん引する映像作家。エイズ患者に密着した『I Am Still Alive』(原題/1986年)、アウシュビッツに強制収容されたロマ族に光を当てた『Verfolgt und vergessen』(原題/85年)が高い評価を得た。そのほか、写真家ユルゲン・テラーのドキュメンタリー『Juergen Teller』(原題/2012年)や、日本でも公開された『マグナム・フォト 世界を変える写真家たち』(99年)など、長編・短編含む30本以上の作品を発表。現在はミュンヘンの美術館の長期改築プロジェクトを撮影中。『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』では、監督・脚本・撮影・製作を担当。

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提供元: madame FIGARO.jpの記事一覧はこちら
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