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私が本当にやりたかったコト…|12星座連載小説#143~魚座 11話~

  • 2017.8.21
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私が本当にやりたかったコト…|12星座連載小説#143~魚座 11話~

12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。
文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第143話 ~魚座-11話~

支度をして安岡さん宅へ向かう。
安岡さんのお家までは、ここから歩いて10分もかからないくらいの距離。
でも、こうして直接お邪魔するのは初めてだ。
普段は挨拶を交わしたり、ちょっと会話したりする程度の仲なので、いざ自宅に行くとなると、ちょっと緊張する。
でも!
フラワーエッセンスの講座について、いろいろ教えてもらえるのは助かるわ!
種類が多すぎて、ひとりだといつまでも進まないもの。
見なれた道をテクテク歩く。
確か……安岡さん家は、そこのスーパーマーケットを右に曲がって、郵便局を左だったわよね。
ここら辺はよく買い物で来るので、大体の地理は把握している。本当はかなり方向音痴なんだけど。
あ、あった!!
立ち並ぶ家々の中でも少し大きくて、お花でいっぱいの広い庭があるお家。ここで間違いないわ……!
しっかし、安岡さんの家、素敵ね……これって持ち家よね。
ローンってあと何年くらいかしら。
“主婦病”ではないけど、ついついよそ様の“値踏み”をしてしまう。

―――ピンポーン
チャイムを鳴らすと、すぐに安岡さんがドアを開けてくれた。
は、早い……。
「まぁ! 和辻さん、ようこそいらっしゃいました! ささ、どうぞ」
スリッパを出してくれて、奥へと促す。
『安岡さん、突然すいません……お邪魔します』
安岡さんは、私よりも5歳くらい年上。結婚後、なかなかお子さんに恵まれなかったらしく、うちの子と同じ幼稚園に通っている勇太郎くんは、苦労の末やっと授かった子だって言っていたわ。
夢叶、けっこう勇太郎くんのこと気に入ってるのよね。
「あたまがよくてかっこいいの!」って言ってたっけ。
「どうぞ、良かったら」
リビングに通され、上品なティーセットで紅茶を振舞ってくれる安岡さん。窓からは、綺麗なお花が咲いているのが見える。
きっと、彼女はこうして人をもてなすのが好きなんだろうと思った。
『素敵な眺めですね……私、お花が大好きで』
「ありがとうございます。こうしてお花を眺めながらお茶するのが、私の楽しみなんです」
しばし、世間話に花が咲く―――
『それで、フラワーエッセンスについてなんですけど、安岡さんはどういった講座を受講されたんですか?』
本題を切り出す。
「ええ、私は一番古い歴史がある協会が主催する講座を受講しましたわ。講座自体も細かく分けられていて用途ごとに選べますし、お値段も手ごろでしたから」
『そうなんですね』
確かに、一番歴史がある協会の講座なら、間違いなさそう。
「でも、大事なのはどのような目的で受講するか、ということなのかもしれません」
目的……か。
『私は、人を癒すために使っていきたいと考えているので、基礎的なことが分かれば十分です』
「ふむふむ……ちょっと待っててね」
そう言って安岡さんは立ち上がり、奥の棚から小瓶がぎっしり詰まった木箱を持ってきた。
「和辻さん、今、どんな気分?」
『え……』
突然の質問に戸惑う。
『う~ん、ちょっと焦っている……感じ、でしょうか』
「なるほど」
安岡さんが、透明な液体が入ったたくさんの小瓶のなかからひとつ選び、“理科の実験で使うようなやつ(ピペット)”で液体を吸い取る。そして、それを私の紅茶の中に数滴落とす。
『えっ? あっ!』
「大丈夫ですよ。良かったら飲んでみてください。身体には無害ですから」
ニコニコしている。
『は、はあ……』

恐る恐るティーカップに口をつける。
どうしよう、安岡さんが実は私に殺意を持っていて、変な薬を盛られたのだったら……?
一瞬、妙なことが頭をよぎる。
『ん……!?』
味は紅茶のまま。だけど、何これ……! なんだか緊張がほぐれるような感覚……。
「和辻先生、結構敏感でいらっしゃるのね。これが、ジャスミンのレメディです。ごめんなさいね、驚かせちゃって。実際に体感してもらった方が早いかと思って」
『レメディ?』
「ええ、お花のエネルギーを抽出した液体のことよ。焦ってらっしゃるって話だったから、ジャスミンを使ってみたの」
『ああ、なるほど……』
「そう、フラワーエッセンスは、お花のエネルギーを取り入れているから、その人に合ったものを提供するの。もちろん、身体には無害だし、味も香りもないわ」
『へぇ……』
「で、今回は直接お口から取り入れてもらったけど、いろんな方法があるのよ。お風呂に入れたり、身体に塗ったりね」
『お花のエネルギー……』
身体的な部分から精神的なところの奥深くまで働きかけられる。
これだわ!
『あの、安岡さん。是非、教えてください! 私、受講してみたいです!』
「本当!? お仲間ができて私も嬉しいわ! じゃあ、早速先生に連絡しておくわね」
―――そうして、フラワーエッセンスについての話はとめどなく続いた。
帰り際、
「また遊びにいらしてね~」
と、安岡さんが手を振ってくれたのが嬉しかった。
“占い”とは異なる、精神ではなく身体から働きかける方法。
これこそ私が求めていたもの……!
人を癒す上で、私が本当にやりたかったのはコレだわ。
いつも通っている道が、何だか光り輝いているように見えた―――

【今回の主役】
和辻花子(フレイア華) 魚座33歳 占い師
既婚者であり、夫に和辻哲夫、子供に和辻長輝(9歳)と和辻夢叶(5歳)がいる。家庭と仕事の兼ね合いで悩みつつも、占い師としてそこそこの人気を得ている。しかし、あるお客の鑑定をきっかけに、占いの限界を感じて心理カウンセラーの資格を取ろうと考える。

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(C) Nina Buday / Shutterstock

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