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「I analyze. 」~私は分析する。~|12星座連載小説#141~乙女座 最終話~

  • 2017.8.17
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「I analyze. 」~私は分析する。~|12星座連載小説#141~乙女座 最終話~

12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。
文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第141話 ~射手座-最終話~

―――半年後
大きな講義室にズラリと並んだ机。その前には教壇と部屋いっぱいの、大きな黒板。
基礎薬学入門の講義が終わり、座っていた学生たちが一斉に退室していく。
私は、黒板に書かれてある内容を全てノートに写している最中だ。
どんなに小さなことでも、漏れなくメモしておきたいのは、もはや性分としか言い様がない。
『よし……っと』
だんだんと日も落ちてきた。ひとり残った講義室に差す夕日は、どこかノスタルジック。不思議と高校時代を思い出す。
大学生活が始まって、もうすぐ3ヶ月が経とうとしている。
履修方法、講義内容、学生食堂……。何もかもが新鮮で、驚きの連続だ。
友達は……まだ出来ていないけど……。
―――恋人はいる。
講義室を出てLINEを確認する。
「6時に迎えに行くね」
とメッセージが入っていた。
6時まであと5分。急がなきゃ!
茜色のキャンパスでは、青春真っ只中の学生たちが“サークル棟”へと向かい、ゾロゾロ歩いている。
その流れに反するかのように、小走りで正門前へと向かう。
―――いた!
見覚えのあるBMWが、ハザードランプを点滅させて停まっている。
駆け寄るとドアが空いた。
『ごめんなさい、真司さん! 講義内容を書き写すのに手間取っちゃって……』
ハアハアと息を切らせながら喋る私に、
「大丈夫だよ。さぁ、乗って」
と優しい言葉をかけてくれた。
そう、彼、真司さんが“私の恋人”―――
半年前、鍵を取りに行くという名目で、真司さんの家にお邪魔した“あの日”。
あの日から私たちは、“本当の意味で”恋人になれたんだ。
「わざわざ取りに来てもらって、申し訳ないね……ハイ、これ。」
ウサギのマスコットがついた鍵を、真司さんが差し出してきた。
だけど、私はそれを受け取らない。
『あの……真司さん……私、間違っていたわ』
「……どういうこと?」
『夢のためには、何かを我慢したり、切り捨てたりしないといけないって思っていたの。でも、人に迷惑を掛けながらでも、欲しいもの全部手に入れたい!』
「…………」
『だから、私と“付き合い直して”下さい!』
我ながら、意味不明なことを言ったと思う。しかも相当自分勝手。
だけど、頭に浮かんできた言葉を、そのまま彼にぶつけることができた。
「……初めて、ホンネで話してくれたね」
そう言って、彼は抱きしめてくれた。

「沙耶、俺って、そこまで甲斐性なしじゃないよ? もっと甘えて、頼ってくれていいんだから……」
『真司さん……、私…、私……』
言葉が出てこない。
今まで、心に浮かんだことは全て、頭の中で考え直して、結局ほとんど飲み込んできた。
でも、今回はそれとは違う。
言いたいことが沢山ありすぎて、詰まっている感覚。
ただ一言、全てまとめて、
『ありがとう』
そう言えた。
―――それから彼は、私のためにいろんな約束事を決めてくれた。
私が、恋と仕事と学業を、“両立”するための決めゴト。
効率化を考えて、一緒に住むこと。
学業を最優先して、卒業を目指すこと。
仕事はムリをしない範囲でシフトを組んでもらうこと。
忙しくてもできる限り一緒に食事すること。
月に2回はデートすること。
金融庁に勤めている彼だけあって、情報処理能力は抜群。アッサリと私の求めているものを提案してくれた。
お陰で、こうして大学生活が始まった今でも、何の問題もなく毎日を過ごせている。
私もかなり、彼に頼ることができるようになった。
夜の方も……甘え上手になってきたと思う。
結局、私が、考え過ぎていただけなのよね―――
今も彼は、こうして私を勤務先の病院まで送り届けてくれている。こんな人……多分、日本中探しても、きっといやしないわ。
「今日の予定はどんな感じですか、お嬢様?」
ハンドルを握りながら、彼が冗談めかしてきいてくる。
『そうね……到着後、患者さんの容態管理とカルテ整理、並行して急患が入れば手術サポート。終わりは……夜中の3時かしら』
「沙耶って、ホント、“マイ・ルール”大好きだよね。自分を追い詰めることに快感覚えてるんじゃない?」
『もう! そんなことないよ~』
真司さんの肩をペシッと叩く。このやりとりが、たまらなく楽しい。
半年前にはなかった感覚。心の底から泣いたり、怒ったり、笑ったりできる。
この人となら、あらゆる感情を共有していける。
私は、“自己完結の人生”からは、もう卒業したんだ。
これからは、彼と、周りの人たちに甘えながら、色んな夢を叶えていけるだろう。

―――勤務先の救急病院が見えてきた
乙女座の女の人生は、
“I analyze.” ~私は分析する。~
自分の掲げた目標に対しての責任。
決して破綻することのないように組み込まれた行動原理は、機械プログラミングのよう。
だけど、ひとつボタンをかけ違うと、全てが崩壊し無駄になってしまう危うさも内包している。
自分ひとりで完結させるというのは、そういうこと。
だからこそ、周囲の人々との調和を大切にし、最適化を図ってもらうことが大事なの。
視野が狭くなってしまわないためにも……。
“目的のために手段を選ばない”なんて考えは、もう捨てたわ。“手段が目的を正当化する”ことだってあるんだから。
今、私は助けられています―――。
乙女座の女の人生 ~Fin~

【今回の主役】
鈴木沙耶 乙女座30歳 看護師
眼鏡の似合うクールビューティーだが、理想が高くいわゆる完璧主義者なところが恋を遠ざける。困っている人を助けたいという思いから、看護師として8年間働いている。しかし、理想と現実のギャップに悩んでおり、さらに自分を高めるために薬学部に行こうと考えている。結婚願望はあるのだが、仕事や夢が原因で彼(辻真司)とうまくいかない。

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