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交通事故とファーストキス【彼氏の顔が覚えられません 第7話】

  • 2014.12.25
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毎年クリスマスの時期によみがえる、幼いころの記憶がある。小学1年生のとき、家でサンタさんと鉢合わせしたときのこと。

夜中、トイレ行きたくなって。部屋に戻ると、大人の男性が私のベッドに何か置いてて。

「パパ?」

そう聞いたのはスーツ着てたからなんだけど。ただ、口元に白いヒゲをたくわえていて、

「ち、ちがうよ…サンタさんだよ、ホホウ」

そう低い声で言って、慌てて部屋から出ていって。

翌朝、「きのうイズミの部屋に変な人いたよー」って母に言ったら、

「へぇ、サンタさんかしら」

「ううん、なんかねぇ、スーツ着てパパみたいだったよ」

言うと、父が慌てて、

「そ、そんなはずないよっ。パパみたいな顔してたかい?」

言われて、父の顔をじいっと見た。ちょっと思い出そうとしたけど、できなかったし、少なくとも父に白いヒゲはなかった。

「ちがーう。やっぱりパパじゃなかったみたい」

だから中途半端な変装だった父にも、当時は本気でそう答えた。

父は翌年のイブの日、交通事故で死んだ。私のためにプレゼントを買おうと街に繰り出していたとき、飲酒運転の車が突っ込んできたのだ。

父は、私がその年にサンタさんに頼んだプリキュアのコンパクトを最期まで抱えていたという。それを聞き、やっぱり私にとってのサンタさんは父だったんだと知ることになった。

いや、それとも父は本物のサンタさんだったのだろうか。私が人の顔を覚えられない悪い子だと知ってしまったから、あれ以来もう二度と私の前に姿を現さなくなってしまったのだろうか。

「どうした、イズミ」

ネカフェの個室。クリスマスの夜なのにあまりムードのない場所に、私はカズヤといる。お金が無いのに、二人きりになれる場所なんて限られてるから仕方ない。

「や、ちょっとこの映画、泣けちゃって」

見てるのは、前日ユイから借りたDVDの、恋愛映画の方。竹野内豊か金城武か、どっちが出てるやつか忘れたけど。そして話の内容も、あまり追えてなかったけど。

主人公の男性の元カノとか今カノとか、なんかいろいろ出てきてよくわかんない感じ。それに男性もいろいろ出てきて、どれが主人公かわかんなくなりかけてた。唯一、ユースケサンタマリアぐらいは区別できた。なんかひとりだけ、場違いな雰囲気のヤツが出てるなって思った。

ふと、カズヤが私の手を握る。温かいなって思う。

「イズミ」

私の耳元に口を近づけ、ささやく。なんだか、くすぐったい。

「好きだよ」

ぽあ。って、なんだか頬が赤くなる。私の目には、テレビ画面が映ってる。もしカズヤの顔を見たら、朝のマジックを一生懸命ゴシゴシ洗い落として、真っ赤になった口元が見えて、笑っちゃうって思ったから。あ、でも、ヤダ。思い出し笑いしそう。

…だけど次の瞬間。目の前が真っ暗になる。カズヤの唇が、私の唇に触れる。今ので、ぜんぶ忘れた。頭の中は、真っ白になる。

幸せだな、って思う。このまま、イヤなことなんて何も思い出さないで、終わっちゃえばいいのに。

テレビだけが静かに、映画のエンディングテーマを流している。

(つづく)

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(平原 学)

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