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『VOGUE JAPAN』8月号、編集長からの手紙。

  • 2017.6.30
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「THE MAGNIFICENT MILLENNIALS」 ドルチェ&ガッバーナのショーには、時代を牽引するミレニアルズをはじめ、女優から王族など、さまざまな世代や国籍の人々が集結。 Photo: Luca and Alessandro Morelli
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遊んで、楽しんで、ハッピーに。“無駄”が罪なんて、知らない!

2月に開かれたミラノ・コレクションのドルチェ&ガッバーナのランウェイには、いつものファッションショーとはまったく違う光景が展開していました。150人近くの、若者からその親や友人たちなど、年齢も体型も肌の色もさまざまな人々がきらびやかで遊び心満載の服とアクセサリーをまとい、次々と登場したのです。

それは、歓びにあふれ、それぞれの個性を祝福する素敵な「お祭り」のようなショーでした。今月号の表紙は、そのランウェイに登場した総勢67人が一挙に登場! 多様なたくさんの人々が集まることで表現できる「楽しさ」や個性的な「遊び心」をお伝えしたかったからです。

今号のテーマは「Playful(遊び心、楽しみ)」です。人はなぜ服をまとうのか。それには重層的な意味があるでしょうが、今回はそのなかでも「楽しみたいから」「ハッピーになりたいから」という部分に焦点を当ててみました。装飾やキラキラ、ユーモラスなモチーフなど「Playful」なモードを、シーズン初めにお届けしたく、ファッション特集もハッピーな気分にあふれています(p.061)。

また、この機会に、人間にとって「遊び」や「楽しさ」とはどんな意味をもつのか、という根本的なテーマにもアプローチしてみたく、さまざまな企画を考えました。遊び心から幸福論を考察した特集「Playful Life」(p.122)では、心理学者や生物学者、カラーセラピストなど多角的な分野の専門家からお話をうかがいました。そのなかで、私が印象に残ったのは、「上から自分を客観的に見て『なんでこんな状態なんだろう』 とか『将来ないな』とか、考えるからストレスになってしまう。今が楽しければOK!くらいの気楽な気持ちがベスト」という、進化生物学者、長谷川眞理子さんの言葉です。

もちろん客観性を完全に否定するのではなく、複雑でストレスの多い現代社会では「それくらいがいい」ということと理解しました。みなさんは、すばらしくきれいな色や輝くものを見て「素敵!」と思った瞬間、「何の理由で?」と考えたりしますか?  しませんよね。たぶん、その瞬間は魅了される感覚に意識が満たされる幸福感でいっぱいになるはずだから。それが、「今を生きる(=今が楽しければOK!)」感覚なのではないでしょうか。それは、理屈を越えて人生に魅惑のオーラを与えてくれる魔法の瞬間とも呼べそうです。

久々に登場した不定期特集の「淑女のためのヴォーグ講座」(p.128)では、「遊び」をテーマに「数学」「江戸文化」「人類学」の観点からそれぞれの専門家に講義していただきました。数学には、決まった目的や意味に縛られない一見、無駄にもみえる「遊び」に通じるものがあり、意味はあとからついてくる、といいます。

また、江戸文化では、辛く苦しみに満ちたこの世の「憂世」を「浮世」ととらえ、「短い人生、今遊ばなくていつ遊ぶ」と考えたそう。しかし、高度に成熟した江戸の「遊び」が否定されるようになったのは明治の近代化以降で、人々は出世や上昇志向を最優先していくことになります。

ちょっと話は飛びますが、5月末、世界で注目されるセレブ2世のミレニアルズたちが来日し、ヴォーグ ジャパンでもインタビューを行いました(p.098)。シャネルのメティエダールコレクションを披露する東京でのショーのためです。そのなかの一人、ウィロー・スミスとは取材だけでなく、原宿の街に出てファッション撮影も敢行(p.090)。のびのびとしてスーパークール&スイートなその表情にご注目ください。ウィローは、俳優のウィル・スミスとジェイダ・ピンケット=スミスの長女で、16歳ながら歌手、女優、モデルとしても大活躍。その才能だけでなく、彼女の発言は驚くほど思慮深いものでした。

世の中にはたくさんの苦しい境遇の人々がいるなかで、何不自由なく世界を傍観するような自分の人生に意味を見いだせずイライラした時期もあったとか。しかし、「そのエネルギーを良い方向に変換して発信していこう」と思い立ってから「物事の見方も考え方も変わった」と言います。「社会に居場所がないと思っている人たちに、ありのままの自分が素晴らしいって伝えたい」と。目標や成功ばかりにとらわれて「今を否定」することは、すなわち「自分自身の否定」にもつながることです。

生まれながらにして成功や社会的承認を得ているセレブの二世だからこそ、それ以外の価値に目覚めるきっかけも反対に多いといえるのかもしれません。ウィローは撮影場所の原宿がいたく気に入ったとか。「ジョイフルという言葉がぴったり。自分らしい個性をアピールするファッションをまとった人たちばかりで、何度でも戻ってきたいと思ったわ!」

未来の目標達成だけでなく、「今を楽しむ」遊び心にも、人生の価値は平等にあるべきでしょう。“目的のない”「遊び」から数学の大発見も生まれる可能性だってあるのですから。発見がなくたって、生きることはいつだって歓びのそばにあるべき。ファッションは、「無駄」という多義的で最高に贅沢かつ豊かな響きを、胸を張って受け入れてもいいのかもしれません。
参照元:VOGUE JAPAN

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