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タラレバ・ロンバケ・モダンロマンス 小田明志コラム#4

  • 2017.6.13
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JJ圏外から一言! #4

今年から吉高由里子の主演でドラマ化もされている東村アキコの漫画『東京タラレバ娘』。この作品は、東京で暮らす独身女性の倫子、香、小雪の3人が「〜だったら」「〜してれば」というタラレバを語っていたら、いつのまにか33歳(ドラマ版では30歳)になってしまった、という設定のラブコメディ。なんでも、作中に登場する年齢に関する数々のセリフたちが、独身アラサー女子には文字通り「刺さる」と聞く。

女子でもねえのに女子会だの
現れてもいねえのにいい男と結婚だの
オレに言わせりゃあんたらのソレは
女子会じゃなくてただの
行き遅れ女の井戸端会議だろ

たしかに、厳しいセリフが並ぶが、作中で語られる独身アラサー女子の実感とデータが表す実際には、少々ギャップがある。たとえば、2015 年の女性の初婚平均年齢は29.4歳。タラレバ娘たちが生活する東京に限ってみればすでに30歳を上回っており、結婚までの交際期間を考えたとしても、彼女たちは目立って行き遅れているわけではない。「月曜日はOLが街から消える」と言われたほどの社会現象を巻き起こした木村拓哉主演のドラマ「ロングバケーション」と比較してみよう。一方的に婚約を破棄され、まさに行き遅れの象徴として描かれたヒロイン葉山南は31歳の設定だった。ロンバケ放送時の1996 年、女性の初婚平均年齢は今よりも3歳若い26.4歳だったから、現在は当時にくらべて晩婚化が進んでいるにもかかわらず、「行き遅れ」のボーダーラインだけが30 歳前後に据え置かれたままだと言っても良いだろう。

ロンバケといえば、この作品は“携帯電話を使わない最後の恋愛ドラマ”とも言われているらしい。たしかに連絡は家の固定電話か公衆電話がメインで、携帯電話は一般的な連絡手段としては描かれていない。ロンバケをはじめ数々の名作ドラマを世に送り出してきたフジテレビの亀山社長が以前、携帯電話の普及で「すれ違い」や「思い違い」がなくなり、ラブストーリーが生まれにくくなったと語っていたが、それが本当ならテクノロジーが進化するほど恋愛ドラマはさらに味気ないものになっていくに違いない。例えばタラレバ娘たちがあれだけ出会いを求めておきながら、作中に決して出会い系アプリが登場しないのは、指先ひとつのタップによってもたらされる出会いが、「ドラマ」には相応しくないと思われているから、かもしれない。

出会いがない生活も耐え難いが、出会いの選択肢があればあるほど幸せとも限らない。

そういうわけで、恋愛ドラマの中に登場するのは先の話だろうが「Tinder」に代表される出会い系アプリの普及スピードには目覚ましいものがある。次々と表示される異性ユーザーの顔写真を「いいね!」と「スキップ」に振り分け、お互いに「いいね!」を押したユーザー同士のみがメッセージ交換をすることができるという、極めてシンプルな構造のこのアプリのユーザー数は全世界で5000 万人以上にものぼると聞く。こうした新しいテクノロジーが、僕たちの出会いのチャンスを広げてくれているのは明らかで、コメディアンのアジズ・アンサリの言葉を借りれば「今日、スマートフォンを持っているなら、四六時中ポケットのなかに独身者向けのバーを持ち歩いているようなものだ」。

しかし、出会いがない生活も耐え難いが、出会いの選択肢があればあるほど幸せとも限らない。これはレストランのランチメニューと同じで、何種類もあるメニューからひとつを選んで決めるには時間がかかるし、ようやく選べたとしても、食事が運ばれてくるころには、別のメニューが気になっている。要するに、出会い系アプリによって「ほかにもっと良いパートナーがいるかもしれない」という期待を持ちやすくなっている状態では、目の前の恋愛関係に力を尽くすことが難しくなってしまう。

「30歳を超えたら結婚を急がなければ」という根拠なき呪縛や、テクノロジーの進化によってさらに色濃く浮かび上がる「もっとほかに良い人いるかも」という甘い幻想はJJ読者にとって避けては通れない価値観だろう。ただ、年齢を理由に焦ってパートナーを探したり、アプリでまだ見ぬ出会いを求めるばかりに、目の前の人と向き合えなくなっては意味がない。世間の価値観に縛られずに決断をすることは難しくても、そこから離れた自分の声を知っておくことは大切だ。

テレビとパソコンと携帯の電源を切った時、頭の中に誰の顔が浮かぶだろう

 

 

 

小田明志

おだ・あかし 1991年生まれ、25歳。東京都出身。編集者。高校在学中、17歳の時にカルチャー雑誌『LIKTEN』を創刊。一躍話題を集める。2016年11月には、発行人兼編集長を務める、サッカー選手のでないサッカーマガジン、『OFF THEBALL 02』を発表。

 

Illustration/小田明志

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