俳優・村上虹郎、ここにありーー『武曲 MUKOKU』で綾野剛と渡り合った演技力

『2つ目の窓』で初登場したときも、『ディストラクション・ベイビーズ』で一部で絶賛されたときも、まったくピンとこなかった。初々しく、みずみずしいが、それはこの年代の男子特有のものとしか思えず、決定的な固有性に欠けていた。彼が彼自身以外の何者でもない。そんな不動のアイデンティティが見当たらなかったのである。

映像表現において、若いエキス、それ自体に価値があるわけではない。映像を起動させる独自性と存在感が、演じ手には求められる。まだそれがないように思えた。

だが、『武曲 MUKOKU』を観て確信した。村上虹郎、ここにあり。今年3月、20歳になったばかりのこの俳優はいま、オリジナルのオーラを放っている。ついに、彼は彼だけの色彩を獲得したのだ。

村上虹郎がここで演じているのは、台風で死にかけた過去を持つ高校生。そのトラウマを克服するためなのか、死と生、つまりは実存をめぐる言葉をノートに書きつけている。その言葉たちはやがてラップのリリックとなり、ライブ表現にもなっているようだが、昇華された音楽によって彼が救済されている様子はない。そんな彼が、あるトラブルから剣道にふれることになる。彼を導く老師匠は、剣の道を棄てたかつての弟子との激突を企てる。かつての弟子は、ある事故をきっかけに、すべてから逃避する人生を送っていた。虚無にもなりきれない爛れた日々を送るこの男も、高校生と向き合うことで魂がスパークしていく。

かつての弟子に扮するのは綾野剛。人物の弱さと強さが混在し、反転する凄まじい力演を見せる。だが、その波動を受けとめる村上虹郎はさらに素晴らしい。

芝居の攻守のバランスが見事だ。この物語には挑発する高校生と仕方なく応じる男という対決の構造があるが、両者の演技においてはそれが真逆になっている。つまり、綾野が挑発し、村上が反応する。演技とはリアクションだとよく言われるが、村上虹郎のリアクションは、綾野剛が投げつけた豪速球を真芯でとらえたものになっている。相手の球の本質を見極め、己のバットの最良の部分で打ち返す。それが出来ているから、場が活性化するし、より深いものになる。村上は、相手の力をキャッチし、別なかたちで戻し、還元しているのだ。

漫才にたとえばわかりやすいかもしれない。綾野がツッコミで、村上がボケ。ボケはそのリアクションによって、ツッコミを活かし高める。言ってみれば『武曲』は、ボケのふりをしたツッコミと、ツッコミのふりをしたボケとの決闘映画なのだ。

剣をふるうほとばしりに、己の欠落を託し、成仏させようとする高校生。だが村上は単に血気盛んなだけではない少年のイノセンスを随所にしたためながら、「ゆらぎ」の時間を派生させ、キャラクターに奥行きをもたらしている。

父は村上淳。母はUA。サラブレッド中のサラブレッドである村上虹郎は、ようやく己の個性を制御せずに放射できるようになったのかもしれない。『武曲』の彼には、若き日の村上淳が有していた愛くるしい無垢さと、UAの決して朽ちることのないオーガニックな野性味との融合が感じられる。(相田冬二)

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