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彼氏に振られ、ブスになっていく恐怖…|12星座連載小説#66~牡牛座6話~

  • 2017.4.26
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彼氏に振られ、ブスになっていく恐怖…|12星座連載小説#66~牡牛座6話~

12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。
文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第66話 ~牡牛座-6~

『それでは、お先に失礼します』
「はい、お疲れ様」
春日先生に挨拶して、玄関で靴を履こうとすると、
「あ、清水先生」
『はい?』
「最近、だんだん仕事の要領が良くなってきているわね。……頼りにしているわよ」
『あ……ありがとうございます!』
「でも……たまに何か考え事しているみたいだけど、大丈夫? 何かあったら、いつでも相談してちょうだいね」
『はい……』
見抜かれていた。
認めてもらえたことは嬉しいけど、このままだと大きなミスをしてしまいかねない……。いつになったら、彼のことを忘れられるんだろう。
もう一度、春日先生に軽く会釈して、園を後にした。
ほんのり暗い群青色の空の上には、“一口かじったお饅頭”のような形の月が出ている。今日は満月に近いのか……どうりで明るいはずね。
『帰ろっと』
――自転車のペダルに足を掛け、自宅に向かって漕ぎ出す。
祥子……彼女とは、短大の頃からの腐れ縁。
そう、雅俊さんと初めて会った合コンをセッティングしてくれたのも、実は彼女。
だから、私と雅俊さんとのことを、ずっと一番近いところから見てきたし、別れたことも勿論知っている。
「和歌子と雅俊さん、いつゴールインするの?」
って、会うたびに聞かれてたっけ。恥ずかしいながらも、嬉しかったな。
でも、もう私たちダメになっちゃったし……、正直会いたくない。
ましてや、他の男の人を紹介されるだなんて、考えられないよ……。
――無意識にペダルをこぐ足に力が入った。

いつもより早く家に到着した。少し腹立たしく思いながら、ペダルを思い切り踏みつけていたからかな。ははは……。
鍵を開け、普段と同じ場所にカバンを掛け、普段通りお風呂を沸かす。冷蔵庫の中は……OK。今夜は揚げ出し豆腐に、明太子スパゲティ、ハンバーグかな。
うちの冷蔵庫はいつも食材でパンパンだ。空っぽになるのが不安で、週にだいたい二回、特売の日に買い込むクセが、私にはある。
『お腹すいた……』
一つ一つレンジで温め、テーブルの上に乗せていく。
そしてテレビを、ぼーっと見ながらパスタとハンバーグを交互に口に運ぶ。
食べている時間は、私にとって至福の時間。この時だけは、嫌なことも忘れられる。
揚げ出し豆腐を食べ終わり、最後にデザートのプリンを頬張る。
『ふ~~~』
お腹いっぱい。
よく食べるねって、周りの女友達から言われるけど、雅俊さんが「わかちゃんの美味しそうに食べている姿、好きだよって」言ってくれたから、よく食べるようになっちゃったの。
でも、雅俊さんと別れて以来、どんどん太ってきている……みたい。怖くて体重計には乗ってない。このままブクブクと太って、一人ぼっちで死んじゃうのかな……。
そう考えると、目の前がゆらゆらと波打ってきて……、そして涙が頬をつたってひと粒、ふた粒と滴り落ちる。
『うう……、うえぇぇ……ん』
テーブルに突っ伏して、子供みたいに泣きはじめる。なるべく声は出したくないのだけど……、我慢できない。
もう、色々寂しいよぉ。
どれくらいの時間泣いていただろう、泣き疲れちゃった。涙と鼻水でグシャグシャになった顔を、ティシュで拭く。
……もうお風呂に入ろう。
テレビの電源を切り、脱衣所で服を脱ぐ。
浴室のドアを開けると、湯気がモクモクと立ち上ってる。
私はどんな日も、シャワーだけでなく、湯船に浸かるようにしている。これは、小さい頃から変わらぬ習慣のひとつ。
雅俊さんとも、一緒に入って身体を洗いっこしていたな……
ひと通り、体を洗い終え、バスタブの中に身体を沈める。
このまま、どんどんデブになって、ブスになっていくの、嫌だな……。見た目だけじゃなく性格も歪んできて、誰にも相手にされないままアラフォーになるなんて、サイアク。
街で雅俊さんとバッタリ会ったりなんかしたら、もう恥ずかしくて生きていけないよ……。
きっと雅俊さんは私に気づきもしないんだ。年上の女と幸せそうに歩いていて、もしかして子供もいたりして。

そう思ったら、急に怖くなってきた。
祥子に返信しなきゃ―――
ザバァ
いてもたってもいられなくなり、お風呂を上がる。
バスタオルで適当に身体を拭き、まだ濡れている身体にパジャマを羽織る。
そして、スマホを手に取る。
「こんばんは祥子。ありがとうね。良かったら紹介してもらえる?」
返信した。
オトコがいれば、私だって体型とかオシャレに気を遣うだろう。彼氏が欲しいというより、雅俊さんに“気づかれないような醜い容姿になる”ことの方が怖かった。
すぐに祥子から返信が来た。
「OK、いいよ! じゃあ今週末の20時に有楽町で待ち合わせね。頑張れよ!」
緊張。勢いで送っておきながら、少し後悔した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そこからは、何だかフワフワした感覚で日々をやり過ごした……。
そして当日。
実はあまり乗り気じゃない。というか、誰にも会いたくない。生理がきてしまったということもあり、怠くてたまらない。
――有楽町には2時間前に着いた。
念のために、薬局でナプキンを買っておこう。……ん? メガネの美人さんがレジに並んでいる。
キレーな人……。私もあんなふうにスラッとしていたらなぁ。ふわっといい匂いを漂わせ、その人は去っていった。
時間は、まだ18時10分。何だかお腹もすいたし、モヤモヤする。
……景気づけに、銀座でお寿司でも食べよう!
緊張と生理で、自分でもよく分からないコンディションだった。
手頃で美味しい『味源』が一番ね。徒歩10分か……。少し早歩きでお寿司屋さんへ向かう。
お店ののれんをくぐると、ちょうど席が空いていて、すぐに座ることができた。
注文してすぐに、“竹セット”が運ばれてくる。
一口、口に入れると……
オイシ~~!
パクパクと食べて、……あっと言う間に完食。
さすが『味源』ね。どんな人が食べに来ているのか、好奇心からチラッと横目で見てみると、これまたセクシーでスタイルのいい女の人。夜のお仕事かな。さすが銀座近くには、美人も多いわね。
よし! お腹も落ち着いたし、行くか。約束の時間まで30分を切っていた。
牡牛座 2章 終

【今回の主役】
清水和歌子 牡牛座28歳 保育士
子供好き。学生の頃から付き合っていて、結婚まで考えていた彼(飯田雅俊)に振られる。彼との恋をずっと引きずっており、復縁を望んでいる。ややぽっちゃり体型だが、男ウケする柔和な笑顔が特徴的。結婚していい奥さんになるのが夢。友人の紹介で、同郷の志田秀と引き合わされ、淡い恋心を持ちながらも、過去を忘れられずに苦しむことに。

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