映画『クレヨンしんちゃん』は大人こそ観るべき! 25年間描き続けてきた、多様性の肯定

大人の鑑賞に耐える。なんて陳腐で偉そうな言い草だろう。そうではない。映画『クレヨンしんちゃん』は、大人こそ観るべきシリーズである。

やけに映画評論家ウケがいい『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)や、後に山崎貴監督が実写化もした『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(2002)など、原恵一監督の印象が強いかもしれないが、彼がシリーズから離脱してからも傑作が生まれ続けている。

たとえば、世界映画史へのありったけのオマージュを捧げながら、凄まじい社会批評を繰り広げたムトウユージ監督の『伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!』(2006)は、ある雑誌の企画で個人的にオールタイムベストアニメの一本に選定した逸品だし、近年も高橋渉監督の『ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(2014)の、もし父親がロボットだったら? という今日的命題の提示には心底唸らされた。

映画『クレしん』は四半世紀もの歴史がありながら、決してマンネリズムに陥らない。なぜなら、さまざまなお約束を全うしつつ、常に現代というものを見据え、立ち向かい、時代の息吹きと共にあろうとしているからだ。ここでは、お約束がむしろ、果敢に飛び立つためのジャンプ台たりえている。

25周年記念と銘打たれた橋本昌和監督による最新作『襲来!! 宇宙人シリリ』は、しんのすけと宇宙人の子供が旅する過程で信頼と友情を育んでいく物語だ。スティーブン・スピルバーグ監督の『E.T.』を想起させもする(パロディ場面もある)が、このシリーズは既成の感動に安易に便乗したりはしない。

「シリリ」という名は、しんのすけのトレードマークである「お尻」だけでなく、iPhoneに搭載されている「Siri」とのダブルミーニングを感じさせる。「お友達」の意味が、こうしたセンスによって、多層的な拡がりを獲得していく。

そもそも本作は、25周年だから、しんのすけの両親を「25年若返らせる」という思いつきとしか言いようがない発想が出発点にある。野原家の二階に墜落した小型宇宙船に乗っていたシリリは、生命の危険を察知すると手からビームを発射する。それを浴びると若返ってしまうという設定だ。シリリの故郷の星では、本来、対象物を「成長させる」力が正当とされている。若返らせてしまうシリリは、だからその星の常識では、未熟な落ちこぼれだ。映画は、シリリのコンプレックスを背後に忍ばせながら、子供の姿になったひろしとみさえを元通りにするため、日本を縦断する野原一家と宇宙人の姿を追いかけていく。

こうしたサワリにふれるだけでも、この作品の非凡さは伝わるのではないだろうか。能力の価値は、視点をズラすだけで、変幻する。対象物を成長させる力は確かに素晴らしいが、若返らせる力も同様に素晴らしくはないだろうか? だが、どのような世界でも、常識とは画一的なものであり、多様性は排除される。ここでは、そうした残酷な真実も指摘される。

映画『クレしん』は一貫して多様性を肯定してきた。あるときまで、敵方は常に性的マイノリティであった。性的マイノリティを攻撃するために敵方に設定しているわけではない。性的マイノリティが受けている抑圧を表現するために彼(女)らの抵抗を描いてきた。言うまでもなく抵抗活動とは、抑圧を受ける者たちの起死回生の一撃に他ならない。

『襲来!! 宇宙人シリリ』のラスボスは性的マイノリティではない。彼は、トランプを思わせる子供じみた「正義」を振りかざす。戦争をなくすためには、サービス残業をなくすためには、地球人を全員子供にしてしまえばいい! なぜなら、悪いのは全部、大人だから! そうして、シリリの若返りビームを悪用しようとする。

笑い事ではない。こうした画一的な「正義」が、いま、世界を揺るがしているのはご存知の通りだ。

『クレしん』は、決して敵方を否定しない。「正義」が陥りがちな、一人相撲のありようを笑いにくるんで、グイと差し出す。そうして、私たちが生きている世界の素肌が露わになる。

絶対的な「正義」など、どこにもない。だから、トランプにはトランプの言い分があることをじっと見据える。戦争も、サービス残業も、ないほうがいいに決まっている。だが、戦争をなくすために戦争しようとしたり、サービス残業をなくすためにサービス残業したりすることって、どうなんだろう? 他にやりようはないのだろうか? そう考えることができる世界こそが、真の意味で、多様性を肯定する。

この映画の魅力は、こうした大文字の主題だけにあるわけではない。

子供たちだけでヒッチハイクすることの困難がここでは描かれるが、彼らを車に乗せるのが、宇宙人おたくの青年や性的マイノリティであるというさり気ない描写にも、本シリーズの良心が静かに顕れている。

異端を排除するのではなく、多様な人々と共棲すること。きわめて真っ当なメッセージが、主軸にも細部にも宿っている稀有なアニメーションである。(相田冬二)

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