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「既読」なのに返信がない…不安な夜|12星座連載小説#51~双子座6話~

  • 2017.4.5
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「既読」なのに返信がない…不安な夜|12星座連載小説#51~双子座6話~

12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。
文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第51話 ~双子座-6~

『一番右のネックレスでお願いします』
“一目惚れ”という言葉があるが、まさにそれだった。ダイヤモンドには女を虜にする魔法でもかけられているのかしら。
「畏まりました。少々お待ち下さい」
かなり値段は張るけど……間違いはなさそう。アナウンサーである自分が、このネックレスを身につけTVに出ているイメージが思い浮かぶわ。
「では、こちらになります。つけて帰られますか?」
『ええ、お願いします』
気分が高揚する。義久さんもきっと「可愛いね」って言ってくれるはず―――
そんな想像が、普段なら“絶対にしないであろう”軽率な行動に私を走らせる。
スマホでダイヤのネックレスを身につけた自分を撮影し、その画像をLINEで彼に送る。
「義久さん、今日は自分にご褒美です。一目惚れして買っちゃいました♡」というメッセージも添えて。
まだ、義久さんは仕事中かな。LINEに既読がつかない。
……つまんない。

夜の銀座が、急に自分には似つかわしくない場所のように感じられてきた。
今日はもうこれで帰ろうかな。
帰りのタクシーの中で、彼から返信がないのを忘れるために暇つぶし。流行りの、“出会い系”について検索してみる。
私は職業柄こんな出会いなんて、絶対できないわ。
でも、この高級会員制デートクラブなら話は別かも。プライバシーは完全に守られてるし。年収1,000万円以上の男性でないと入会できないという謳い文句に、少し好奇心をくすぐられる。
なんてね。私には義久さんがいるもの。
いつか……、彼が私だけの存在になってくれたら良いのにな。
煌めく街を眺め、そんな夢のようなことを考えながら帰宅した。
――ガチャ。
一人暮らしだと、帰宅しても誰も迎えてはくれない。当然だけど。真っ暗で寒々しい空間が、ただ広がっているだけ。
『ペットでも買おうかな。義久さんみたいに可愛いトイプードルなんて良いかも』
ペット不可の物件だから、飼えないのは分かっている。あくまで妄想の話。
『ハァ……』
深い溜息をついて、シャワーを浴びる準備をする。ネックレスを外して、衣服をスルリと脱いでいく。
熱いシャワーを浴びていると、義久さんとの夜が思い出される。
『逢いたいな…』

身体を拭きバスローブに身を包み、出来合いの惣菜をレンジで温める。
――チーン
今夜はやけにレンジの音が大きく響く。
1人で食べる夕食は味気ない。1人でテレビを観ていてもつまらない。
昔、ただ自己満足のために男たちと付き合っていた頃とは違う、本当に大切な人と一緒に過ごす時間を渇望している自分を感じる。
スマホを手に取る。時間は22時。もう義久さんも帰宅しているはず。
……!! LINEは既読に。
でも、義久さんからの返事はない。普段なら帰宅途中に返してくれるのにな。
毎日21時までには必ず返信があって、それを読んで幸せな気分に浸るのが私の日課。義久さんからの連絡がないと、途端に不安な気持ちに襲われる。
もしも、このままずっと不倫相手として“セカンド”だったらどうしよう……。30歳になっても二人で大手を振って外を歩けなかったら…そんなの寂しい。
涙が頬をつたう。
明日も仕事なのに1人、部屋でグシュグシュ泣いてしまう。
――30分経っても、返事はない。

『もう寝よっかな』
ベッドに横になり、スマホを手に取る。無意識に、さっき気になっていた高級デートクラブを検索していた。
女性の入会は無料だ。男性はプラチナ会員となると入会するだけで50万円もかかるのに。
寂しさもあって、つい入会ボタンをタップしそうになる。
義久さんが悪いんだよ……、連絡くれないから。
――“入会”した。
ただ、安心感が欲しかったのだ。
そのまま、スマホをベッドの下の見えない位置に置いて、眠りについた。
『サイアク……』
案の定、鏡に映った私は、目を腫らしどうしようもない顔をしている。朝から“お岩さん”みたいな顔をした自分を見て、テンションはダダ下がり。
ひとまず、温めたタオルと冷たいタオルを交互に目に当てる。
朝はとにかく忙しい。遅刻でもしたら、それこそアナウンサー失格。どんなことがあっても、定時にはスタジオに入っていなくちゃダメだ。
バタバタと準備をし、テレビ局に向かう。
準備は万端だから、いつも通りやれば良いだけ。
スマホは……、敢えて見ない。
生放送に備えて、ベストコンディションを保っておかなくちゃ。
スタジオに入って、原稿の最終チェック。今朝は、とくに緊急速報なんかはないわね。
「それじゃあ、回します! 10秒前!」
鷹場プロデューサーの声がスタジオに響く。
――終わった~
今日もいつも通り。何事もなく放送を終えた。
挨拶を済ませ、少し小走りで部屋へ戻り、鞄からスマホを取り出す。
さすがに連絡来ているはずよね。
LINEをチェックする。
――既読のまま、返信はない。
どうしたの? もしかして、事故にでもあったのかしら……。
義久さんの出社を確認しようと、自然と体が動いていた。
双子座 第2章 終

【今回の主役】
江崎友梨 双子座25歳 アナウンサー
23歳の時にアナウンサーとしてTV局に入社。有名大学出身だが1年浪人している。ハイソサエティな世界に憧れを抱いており、自分を磨く努力も怠らない。現在、同じアナウンサーでもあり、上司である新垣義久と不倫関係にある。当初は踏み台にしようと考えていたが、だんだんと彼に惹かれキャリアと恋の間で、悩み揺れる。

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