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『VOGUE JAPAN』5月号、編集長からの手紙。

  • 2017.3.29
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〈左〉「アクセとネイルのグラムなバランス学」グラムな時代に抜け感は不要。大ぶりかつインパクトが強いデザインが決め手に。 Photo: Kinya 〈右〉「POWER GLAM」人気モデルのイマン・ハマムがディスコティークな輝きを纏う。 Photo: Giampaolo Sgura
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バブルとE.T.。女子よ"素朴な"グラマーたれ!

80年代を彷彿させるスタイルやカルチャー("お笑い"まで!)が、なんだか目立ってきています。ファッションももちろん例外ではありません。スパンコールやグリッター素材のドレスなど、グラマラスでミラーボールが似合いそうなモードがぐいぐいと注目されています。今号の「She's Going Glam!」(p.111)をテーマにした編集会議で面白かったのは、バブルを知らない90年代生まれのアシスタントエディターたちがこぞって、見たこともない80sに不思議なあこがれを抱いていることでした。

そこで、さっそく彼女たちによる「バブル追体験ツアー」を敢行することに(p142)。そこに込めた私の思い(?)といえば、単に見た目(誌面の)が面白そう!という単純なことと同時に、「あの時代が今にどのようにつながっているか」を若い世代にも知ってほしい、という気持ちがあったからです。甘さと苦さが、この上ないカクテルのようにミックスしたあの時代を。

「バブル」と呼ばれる時代が始まるころ、私は銀座で働き始めました。残念ながら「クラブ」と呼ばれる大人のお店ではなく、銀座に本社をもつ世界的な化粧品会社が発行する企業文化誌のアシスタント編集者として、です。バブルが上り詰めてはじけるまでの数年間をそこで過ごしたわけですが、自分自身はバブルの恩恵とはまったく関係なく、ただ編集の仕事が楽しくて大変さも何もかも含めて、若さゆえに洋々と過ごしていた記憶しかありませんでした。バブルな記憶で思い出せることといえば、深夜タクシーをつかまえるのが絶望的だったことぐらい。マハラジャも1、2回のぞいた程度で、アッシーもメッシーも関係ありませんでした。

しかし、今あらためて振り返ってみると、なんだか違う風景が蘇ってくるから不思議です。コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)を断然支持していた一方で、肩パッド入りのダナ キャラン(DONNA KARAN)のジャケットもそういえば持っていた......。テクノカットの生みの親と呼ばれたヘアアーティストに髪を切ってもらいながらアライアの服をいつかは買いたいと思っていたのも確か。80s的「何でもあり」の活気が私自身のスタイルにも確実にあふれていたのです。

初めてのパリコレで見たスペキュタクルなミュグレー(MUGLER)やモンタナに呆然とし、一人だけの海外取材に不安もろとも挑戦し、さまざまな経験を積ませてもらえたのも、たぶん"バブル"の好景気と無関係ではなかったと今となっては感じます。それは、「お立ち台」の興奮にも劣らない貴重な高揚と体験を私に与えてくれたのです。

グラマラスなスタイルアイコンを特集した企画(p.153)の中で、80年代のグラマーについて『インタビュー』誌(アンディ・ウォーホルが創刊した)の元編集長クリストファー・ボレンさんに話をうかがいました。彼は、マドンナに代表される今に続くグラムなポップカルチャーの遺産を肯定しながらも、あの時代に生まれた「拝金主義」の功罪を指摘します。それが、「強欲は善」とする現アメリカ大統領の出現にも通じていると。

バブルははじけるのが必然です。一瞬の輝きに魅了される恍惚感は人生の甘い夢として否定されるべきではないと思いますが、往々にしてその裏にある「お金」だけを肯定するのも人生を虚しいものとする......。その甘くて苦い二律背反を私たちはバブルから学んだのだと思いますし、それを忘れてしまっては新しい時代は訪れません。

ボレンさんは、今にはない"あの時代の魅力"として、「無邪気で純粋な」「あか抜けないが愛おしい素朴さ」があったことを指摘します。それを表す映画の一つが『E.T.』です。スピルバーグ監督が比較的低予算で製作しながらも、さまざまな数字を塗り替える世界的な大ヒットを記録。グッズも含めて、映画が子どもから大人まで幅広く楽しめるマルチなエンターテインメントとなる時代の到来を告げた作品といえます。映画の中で最も感動的なのが、友人(E.T.)を助けるために少年たちが必死に自転車をこいで空を飛ぶシーンです。その「素朴な」ファンタジーの力がかの映画を永遠のイメージとして焼き付けたのでしょう。

アシスタントたちの「バブル追体験」後記(p.152)を読んで、こんな発言に私は少し驚きました。バブルな時代の人々の「魂と本音と欲望で生きる楽しさ」が羨ましいと。そして、SNS世代の彼女たちは、つい本音をおさえてはじけることを怖がってしまう、ということです。彼女たちがあこがれる80年代の「魂と本音と欲望」は、実は「素朴さ」の裏返しではなかったかと私は思います。

だからこそ、あんなに浮かれてはじけられたのではないでしょうか。それに比べて洗練度を増した現代でも、いい意味での「素朴さ」は"先輩たち"から引き継いでいって欲しいものです。「I'll be right here」と少年の額を指さして"友"は去って行きました。「素朴であることを恐れない心」を、今のアシスタントの彼女たちにも持ってもらいたいですし、もちろん私自身も忘れないでいたいと思います。E.T.はお金では買えませんから、ね。
参照元:VOGUE JAPAN

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