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『ラ・ラ・ランド』、あえてロマンティック宣言。

  • 2017.3.24
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こんにちは、編集KIMです。
公開からすでに1ヶ月。あの米国アカデミー賞作品賞の大ハプニングからも1ヶ月ですね。多くの予想どおり大ヒットで、劇場には観客のワクワク感があふれてます。混み過ぎの映画館で観ると作品と向き合う集中力が落ちるので、今回KIMは平日夜22時近くから始まる回を観に新宿歌舞伎町へ。終映後は終電目指して新宿の街を小走りしました。

いまあまり興味が持たれないミュージカルのジャンルをどんずばオーソドックスな演出で見せる。死にゆく(と思われがちな)ジャズの生き残りに奮闘する主人公が、手に入れられるはずだった恋愛を逃してしまうというストーリー。
あえて挑戦したロマンティシズム……真っ向勝負でロマンティックを描くことに挑戦した若くてエネルギッシュな監督の、したたかさと、驚くほどの負けん気の強さに圧倒されました! すごい映画です!!

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.Photo credit:  EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

夕暮れ時のロサンジェルスの丘の上で撮影されたシーンです。タップダンスは上手でなかったかもしれないけれど、男女が恋愛の芽生えを感じて踊りだす初々しい喜びに満ちたシーンでした。もう1枚はエマ・ストーンに演出する監督のデイミアン・チャゼル。『セッション』が話題となって、こんな大作を手掛けられることに。しかし総経費はハリウッドにしては決して高くないそうです。若手ではなく、すでに評判が定着している監督が撮影したら、こんな価格では撮れなかっただろうし、醸し出される初々しいときめきのようなものも表現できなかったかもしれません。チャゼル監督、少~しだけ、オーランド・ブルーム似? アカデミー賞授賞式を中継したwowowの番組では、インタビューされたチャゼルの助監督が、デイミアンは本当に「オタクっぽい」とコメントしていたのが印象的でした!

昔のミュージカルへの思慕、インスピ源。

ミュージカルってなんかダサい。と思ってる人は多いかもしれません。突然歌い出すワケないじゃん、とか。でも、ミュージカルってデフォルメされた絵のようなものなのじゃないかな、とKIMは感じています。喜怒哀楽が頂点に達した時、メランコリックがふりきれた時、BGMが流れて、「自分の感情そのもの」が世界の中心となってしまう状態の時に、思わず出てしまうのがミュージカル的なファンタジーワールド、って思います。
現在シネスイッチ銀座という映画館は、昔、銀座文化劇場という名前で過去の名作をリバイバル上映していました。『ローマの休日』や『麗しのサブリナ』『アパートの鍵貸します』なども、高校時代ここで観ましたが、『巴里のアメリカ人』、『雨に唄えば』、『踊る大紐育』など、色彩豊かなミュージカル映画もここで観ました。主人公は豊かな感情に満ちて、アクロバティックな動きと、書割の背景が、妙にスタイリッシュで、映画館を出た後までも、観客は踊りだしそうな気分で、スクリーンの中で展開された世界を引っ張っていたものです。
『ラ・ラ・ランド』の冒頭のダンスシーンはまさに、そんな昔の映画の書割の世界を、実際の高速道路を使って、青空という背景で展開しています。ダンサーたちの肉体美は、現代的に洗練されているというよりも『雨に唄えば』や『巴里のアメリカ人』のジーン・ケリーのようなクラシックな逞しさです。

©1952 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

ジーン・ケリーは踊れる俳優になる前は体操選手でした。フレッド・アステアのように洗練されたタップの名手ではなく、アクロバティックな動きが魅力のダンスシーンを見せてくれました。コミカルな表情やアクションは、後のジャッキー・チェンも連想させます。KIM的な妄想連鎖、ですが……。『雨に唄えば』のシド・チャリシーの美脚、この原稿と直接関係ないですが、あまりにも素敵なので紹介します。

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit:  EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

冒頭の高速道路でのダンスシーンです。007でもそうですが、いちばん派手なシーンをアタマにもってきてまず観客を驚かす、というザ・ハリウッドな手法にも、あえてチャゼル監督はトライしている気がします。その意欲そのものが素晴らしい。映画を創るって、実は残酷なコトだと思うんです、時折。スタッフやキャストに強いる苦悩はそうとうなもの。でも、それをやりきってみせる!という気概を感じました、このシーンに。

書割のような背景、と書きましたが、『巴里のアメリカ人』のラストのシーンと、『ラ・ラ・ランド』のラストシーン=セブのバーでピアノを前にしてセブ(ライアン・ゴズリング)が空想(妄想に近い)するシーンが、ダブりました。まさにそこには書割のパリが登場するし、同じくジーン・ケリーが出演している『踊る大紐育』の水兵を連想させるような衣装を着た人も出てきます。『ラ・ラ・ランド』のこのシーンが空想であることが、書割であるゆえに色濃く強調されるのです。『ラ・ラ・ランド』の場面写真がないのが残念ですが……。

『巴里のアメリカ人』
●監督/ヴィンセント・ミネリ ●出演/ジーン・ケリー、レスリー・キャロン ●1951年、アメリカ映画 ●本編113分 ●ブルーレイ ¥2,571、DVD¥1,543 発売・販売:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
© 1951 A Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

『踊る大紐育』
●監督/ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン ●出演/ジーン・ケリー、フランク・シナトラ ●1949年、アメリカ映画 98●分 ●DVD ¥1,543 発売・販売:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
Ⓒ1949 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

極彩色を味方に。

KIMが感激したもうひとつのポイントが、この映画の「色」でした。あいまいな色を使わずに、原色で勝負。特にイエローがとても目立っていた。なんだかハリウッド映画では黄色がブームなのでしょうか? 間もなく公開される『美女と野獣』のエマ・ワトソンもイエローのドレスですよね。1年前のハナシですけれど、昨年のオスカー助演女優賞(『リリーのすべて』)の注目女優アリシア・ヴィキャンデルの授賞式でのドレスもイエローのルイ・ヴィトンでしたね。ハリウッド女優に幸運をもたらす色は、いまイエロー?
話がそれました!! このイエローは、『雨に唄えば』の雨合羽のシーンへのオマージュかしら、などと勝手に考えていたKIM です。女の子たちがドレス姿で道を行くシーンも、グリーン、イエロー、ブルー、レッドと、目に飛び込むような色彩です。また、ヒロイン、ミア(エマ・ストーン)が女友達とのシェアハウスのベッドルームでは、水色と赤が効果的に使われていました。水色と赤、まるでミュウミュウのスズランの香りのフレグランスのキュートなボトルのようで、最近気になるカラーコーデです。色の持つメッセージ性、そしてその色彩を表現するのに適切なライティングに挑んだ映画です。

『雨に唄えば』
●監督/ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン ●出演/ジーン・ケリー、デビー・レイノルズ、ドナルド・オコナー ●1952年、アメリカ映画 ●本編102分 ●製作60周年記念リマスター版ブルーレイ ¥2,571 DVD ¥1,597 発売・販売:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
©1952 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit:  EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

女の子って、こうやってドレスを着てはしゃぐ生き物ですよねっ!と妙に納得させられるシーン。

『シェルブールの雨傘』も色彩を味方にしたミュージカル映画。ファッションも素敵な名作です。

『シェルブールの雨傘』
●監督・脚本・作詞/ジャック・ドゥミ ●出演/カトリーヌ・ドヌーヴ、ニーノ・カステルヌオーヴォ ●1963年、フランス・ドイツ映画 ●本編92分 ●DVD \5,076 発売・販売:ハピネット
(C)Cin -Tamaris photo by Agn s Varda (C)Agn s Varda

ウディ・アレンへのオマージュも?

エマ・ストーンつながり? ウディ・アレンへのオマージュもあるのかな?などと勝手に感じました。プラネタリウムのシーンなど特にそれを感じてしまいました。『マジック・イン・ムーンライト』のシーンを思い出した方も多いのでは?

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Photo credit:  EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

グリフィス天文台のシーン。主人公のセブとミアの身体が浮遊し、踊りだす。空に思いをはせたシーンです。このグリフィス天文台をはじめ、『ラ・ラ・ランド』名所ツアーがはやり始めているそう。橋のシーンで、チョウ・ユンファの映画を思い出した、と友人から眼セージが来ました……。この橋のシーンで唄われる「City of Star」も切ない楽曲です。

ウディ・アレンと言えば、アカデミー賞にノミネートされても決して授賞式には行かず(ニューヨークが911で悲劇に襲われた直後、1度だけ出席)、いつものジャズクラブでトランペットを吹いている、というエピソードは有名。そこで感じたのが、デイミアン・チャゼル監督は、ハリウッドや世界に自分の力を認めさせながらも、現状の映画界に対して、異様な反骨精神を持ってして挑んでいるのではないかな、と。トレンドに流された表現形式や、かつての古き良き映画を小バカにするような輩に対して、「もの申す」という気概をもって映画つくりをしているように思えたのです。カッコいい映画、クールな映画であることよりも、観客の感情をストレートに動かす「あえてロマンティックな」映画への挑戦。それは大成功しましたね。

さて、男女って何なんだろう?ってラストシーンであらためて思います。恋愛って? 最初ミアに素っ気なくしていたセブ。でもラストシーンを観たら、結局最初から互いを意識していたんじゃん、と、確信します。「もしもあの時こうしていたら」運命は違う方向に進んでいたのかもしれない。でも、現実は異なってしまったけれど……。
この叶わぬ何かへの感慨こそがスクリーンからあふれ出る夢の魔法なのだと思います。ジャズをホントに分かっているのか?ダンスが下手っぴだな、俳優たち。そんなディテールへの批判もこの映画の真実をついているのかもしれない。でも、映画が与えてくれる「夢と妄想」の世界に浸る、といういちばん原始的な見方を、現代の観客に対してストレートに披露してくれた『ラ・ラ・ランド』に喝采をささげたい!です、心から。

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
Photo credit:  EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

ライアン・ゴズリングは、このシーンでたっぷりと「溜め」ます。余韻が残る演技です。すぐに動けない、その間を持たせるのは役者としては大変ですよね、アップで。ここで完全に彼に恋に落ちる観客も多いのでは?

『ラ・ラ・ランド』
●監督・脚本/デイミアン・チャゼル ●出演/ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン ●2016年、アメリカ映画 ●128分 ●配給:ギャガ、ポニーキャニオン ●全国にて公開中

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