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赤ちゃんが泣いたら個室に移動できる子連れOKな映画館が誕生

  • 2017.3.9
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© Jag_cz - Fotolia.com

小さい子どもがいると、どうしても行きづらいところが出てしまうもの。そのひとつに映画館がありませんか? 作品によってはファミリー鑑賞の回を作ったりといったサービスはあるものの、それもまだごく一部で限定的な試み。子ども向け映画であっても、予告編で子どもがびっくりして泣きやまず、何も見れないままやむなく劇場を後に……なんて経験をしたパパ・ママはけっこういるのではないでしょうか。

そんな中、もっと子どもと一緒に映画館で映画を楽しみたいと思っている人にとって、心強いシアター「CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)」が、昨年9月1日に誕生しました。JR田端駅から徒歩約5分のところにあり、全20席の小さな映画館。なんと親子鑑賞室があるのです!

映画館=子連れはいけないというイメージを覆した場所
この親子鑑賞室は通常の座席空間とは別に設けられた小部屋。ベビーカー1台と親が一人入れるほどのスペースです。しかし、この部屋は完全防音構造でスクリーンの見える窓と、映画の音が流れるスピーカーを完備。もし上映中に子どもが泣いてしまったり、ぐずってしまったときは、こちらに移動して、ほかに気兼ねすることなく、安心して映画を鑑賞できます。

まさに、いつ泣くかわからない赤ちゃんを持つ親としてはうれしい、ほかの劇場にはないセーフティスペースといっていいでしょう。この親子のスペースを作った理由を代表の平塚千穂子さんはこう明かします。

「この劇場を始める前に上映スペースをやっていて。そのときに、北区十条にある子育てママの応援サロン『ほっこり~の』さんの皆さんと出会いました。そこで、みなさんといろいろとお話しをすると、子どもが突然泣き出したりするので、周りに迷惑がかかることを考えると“映画館には怖くていけない”と。実際は映画館にいきたいのだけれど、ためらう親御さんがたくさんいる。これはどうにかならないものなのかなと思い、いざ劇場を作ろうとなったとき、親子鑑賞室のアイデアは自然とわいてきました」(平塚千穂子さん)

子連れだけじゃない、発達障害、目や耳が不自由な人にも対応
新たな発想のもと作られた親子鑑賞室は大好評。ただ、劇場サイドとしては意外なことになっているそうです。

「劇場はすべての人に開かれたユニバーサルシアターを銘打っているので、それを前提にみなさんいらっしゃています。お子さんが多少ぐずったり、泣いたりしても、それを子連れでないお客さまがあまり気にしない。“いいよ、いいよ”といった感じですごく温かく見守ってくださるんです。

だから、思ったより使う親子が少ないというか。けっこう、多少ぐずってもそのままいれちゃう。ということもあって、最初から親子鑑賞室を希望される方もいらっしゃるんですけど、まずは通常のお席にどうぞと私はご案内しています。

その一方で、たとえば発達障害をお持ちのお子さんが、上映から1時間ぐらいすると、どうしても話をしたくなってしまう。それで親子鑑賞室に移動されて話しながらみたりといった感じで使うケースも出ていて。当初考えていたよりも、より幅広い方が安心して使える良いスペースになったなと感じています」

このように子を持つ親としてはとにかく安心。ちょっとした身動きでさえはばかられるような窮屈さがある昨今の映画館に対して、CINEMA Chupki TABATAにはいろいろな人が同じ空間を共有して、映画で泣き笑いする昭和の古き良き映画館のような温かな時間が流れています。

全座席にはイヤホン完備、日本映画にも日本語字幕を
その最大の理由は、先ほど平塚さんの話に出たユニバーサルシアターであるということ。同館は、子ども連れだけに開かれた映画館ではありません。ユニバーサルシアターとは、目の不自由な人も、耳の不自由な人も、車いすの人も、発達障がいのお子さんや精神障がいの人も、だれもがいつでも安心して、一緒に映画を楽しむことのできる映画館。そう、すべての人に開かれているのです。

平塚さんはこう話します。「私がこの映画館を作るに至った出発点は1999年のこと。チャップリンの『街の灯』を、目の見えない人たちに届けるというイベントに関わることになったのがきっかけでした。

そこで映画を観ることを諦めていた視覚障がい者の方たちと出会ったんですけど、調べてみると欧米の映画館では、当たり前のように視聴覚障がい者へのサポートがあって、封切りと同時にその新作映画を見ることができる。

ところが、そういうサービスが日本には一切ない。だったら“自分で作ろう”と、City Lightsというボランティア団体を立ち上げました。その中で、視覚障がい者の方にむけた上映会や映画祭など行ったところ、やっぱり常設のハコがあると便利だから、どうしてもほしい。
そこで当初、目標に掲げたのがバリアフリー映画館を作ること。ただ、バリアフリーという言葉がどうもしっくりこない。もっともっと広い意味にしたい。そのとき、障がいがあってもなくても関係なく安心して参加できるユニバーサルキャンプというのを八丈島でやっている、ユニバーサルイベント協会の方と出会って、これだと思ったんです」

すべての人に開かれたユニバーサルシアターは、さまざまな配慮と創意工夫がなされています。まず、全座席にはイヤホンが搭載。常時、場面解説の音声ガイドを聴くことができるシステムになっているので、視覚に障がい害のある方も、一緒に映画を楽しむことができます。また、イヤホンで本編の音を増幅できることで難聴の方にも対応しています。

次に、日本映画を上映するときも、日本語字幕付きでの上映。聴覚に障がいのある方も、一緒に映画を楽しむことができます。さらに劇場は入口からトイレ、客席まで完全バリアフリー。車いすのまま映画を観ることができます。そして、人の大勢いるところが苦手な子どもや、赤ちゃんをお連れの方には鑑賞室というように、みんなが安心して映画を楽しめる映画館になっています。ほかにも駅からの誘導や手話サポートといった予約サービスがあったりと、ほんとうにどんな人も迎えてくれる体制が整えられています。おそらく日本でもっとも間口の開かれた映画館といっていいかもしれません。

人工芝がひかれた床、360度のフォレスト・サウンド、振動が伝わるスピーカーも
その一方で、映画を見せる劇場としてのこだわりも。シアター内は“森の中”をイメージして、木や緑を感じられるものをところどころに設置。床は人工芝が敷かれ、屋内にいながらなにか野外を思わせるようなリラックスできる空間になっています。子どもだったら地べたに座ってみたくなってしまうかもしれません。

また、音で映画をイメージする視覚障がい者の方のためにもできるだけよい音響環境を作りたいということから、360度音に包まれる“フォレスト・サウンド”を実現。音響監督の岩浪美和さんの監修・コーディネイトのもと音響設計がなされ、劇場の前面、側面、後面、天井までスピーカーを配して、森にいるように優しく音に包まれる音響になっています。さらに映画の音を振動が感じられる、抱っこスピーカーも用意されています。

触れ合ってみないと分からなかったできごとがたくさん
オープンして半年が経ちますが、平塚さんは劇場を通して人の輪ができ始めていることがうれしいそうです。

「おかげさまで多くの方に足をお運びいただいています。何よりうれしいのは、いろいろな方にお越しいただけていること。これまでたとえば視覚障がい者に向けた上映会やイベントをいろいろとやってきましたが、来てくださるのはどうしてもボランティアやそういった活動に興味のある人に限られていました。

しかし、映画館ということで、もちろん障がいのない人もきてくださる。すると、『あれ、目が見えない人が映画を見ている、どういうこと?』みたいなことになって、障がいをお持ちの方への見方が変わる。触れ合って知ることで彼らの中に何かしらの意識の変化や気づきがある。

たとえば、目は見えるけど音声ガイドを聞いてみた方から、『ちょっとだけ目の見えない方の世界が想像できた』といった感想をいただいたり。その一方で、視覚障がい者の方から、『音声ガイドのおかげではじめて見える人と同じタイミングで笑えてうれしかったです』というお言葉をいただいたりして。

自分が目指してきた障がい者の方もそうでない方も、映画を一緒に楽しむというひとつの目標が達成されつつある。今は、いろいろな立場にいる人同士が相互理解できる場になってくれるんじゃないかという手応えを感じています。

この前も、視覚障がい者の方がちょっと道を迷ってしまったら、地元の人が連れてきてくれたり。商店街のみなさんが障がいをもつ人をお店に受け入れてくれる体制を整えてくださったりと、本当にこちらも予期しないような嬉しいこともいろいろと起きています」

最後に、今後の目標を聞くと「まだまだ至らないところもありますが、課題に一つひとつ向き合い、クリアして、もっともっとみなさんに愛される劇場にしていきたい。今後もお客さまときちんと向き合っていきたい」と代表の平塚さん。

「今は無駄や遊びが許されないというか。何事も効率化・デジタル化されてしまうような時代。そういう意味で、じっくり吟味して上映作品を決め、それに字幕も音声ガイドもほぼ手作りでつけていく。お客さま一人ひとりと向き合うことを大切にする僕らのやり方は、アナログ過ぎてもしかしたら時代遅れなのかもしれない。ただ、オープンして5ヶ月、自分たちの目指す道は間違ってなかったかなと今は思っています。今後は、この劇場がこの地域の文化の発信地で拠点になっていけたらと思っています」と支配人の佐藤浩章さん。

CINEMA Chupki TABATAは、これまでにない映画館。今後どんな成長を遂げていくのか期待が高まります。ちなみに、3月の上映作品は、宮沢りえ主演で昨年度の日本の映画賞レースを沸かせた『湯を沸かすほどの熱い愛』、日雇い労働者の街と呼ばれる大阪市西成区釜ヶ崎で38年続く施設「こどもの里」に密着したドキュメンタリー『さとにきたらええやん』、龍村仁監督による人気ドキュメンタリーシリーズの最新作『地球交響曲 第八番』の3本。

3/19(日)は終日、東京藝大アニメーション専攻学科の学生さんたちと共催で、「アニメーションマーチ」というイベントを開催。大人から子どもまで楽しめる、学生たちの作った短編アニメーション作品を無料でご鑑賞できます。親子鑑賞室もあるユニバーサルシアターに、ぜひ一度、足を運んでみては?
(水上賢治)

CINEMA Chupki TABATA
北区東田端2-8-4 マウントサイドTABATA
TEL 03-6240-8480
営業時間 10:00~23:00(水曜定休)
料金 一般1500円/シニア(60歳以上)1000円/学生1000円/中学生以下500円
アクセス JR山手線「田端駅」北口から徒歩5分

(水上賢治)

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